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秘密  作者: チョコラッコ
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 銀杏並木を抜けたところにその公園はあった。平日の昼間の時間帯なのか、そこまで人も多くはない。小さな子供連れの親子や老夫婦のほうが多い。遠くのほうには噴水も見えた。子供のはしゃぐ声がここまで聞こえてくる。

 野瀬は腕時計を見て、そばにあったベンチに腰掛けた。5月という気候のせいか日差しも柔らかく、時折髪の毛を揺らす風も優しい。こんな日は眠たくなる。野瀬はゆっくり目を閉じた。

 昨日の晩、雪乃と14時に会う約束をした。この場所を指定したのは雪乃だ。ホテルからさほど遠くないこの場所は東京に詳しくない野瀬にも来れた。

「野瀬さん?」

突然の声に野瀬はぱっと目を開けた。その視線の先に雪乃の姿が見えた。

「あぁ、すまない。つい・・・。」

野瀬は髪の毛をくしゃっと掴んだ。

「お待たせしたみたいで・・・。」

ごめんなさい、雪乃は頭を下げた。

「いや、大丈夫だよ。」

まぁ、座って。野瀬は雪乃をベンチに座るよう促した。雪乃はゆっくりとベンチに近づき、野瀬と少し距離を置いた位置に腰掛けた。

少し間をおき、背中を丸め、うつむきかげんで野瀬が口を開いた。

「昨日はつらい思いをさせて悪かったね。」

「いいえ、妹として聴取を受けるのは当然です。」

「俺たちも仕事なもんでね。で、今日は・・・・。」

野瀬がそう言いかけると、雪乃はスカートをぎゅっと掴み、唇を噛み締めた。

ちょっと待って・・・。野瀬は雪乃に顔を向けた。

「今日は事情聴取じゃないんだ。お姉さんのことは聞かないから安心してくれ。」

「えっ・・・。」

雪乃の顔が険しい顔から、キョトンとした表情に変わる。

「いや・・その・・あれだ。君と少し話をしようかと思ってね。」

「話?」

「あぁ、日常の話さ。」

意味が分からないという表情で雪乃は野瀬を見た。

「例えばだ・・。君から見た俺の印象は?」

「えっ?そんなこと急に言われても・・・。」

口元に手をやり雪乃は少し考えた。

「堅物。」

その答えに野瀬は声を出して笑った。

「堅物か・・・。なかなかいいところを突いてる。」

野瀬は空を見上げながら続けた。

「そのほかにも、仕事人間、無感情、人に興味なし、女嫌い・・・まわりからはこう言われてる。」

「本当にそうなの?もし本当なら・・・ううん、まず無表情は違うわね。」

「そうか?」

「ええ。無表情の人はそんなに簡単に笑ったりしないわ。」

雪乃は真剣な顔で言った。

「では、俺が見た君の印象を言おうか。綺麗、これは間違いない。気遣い屋。感情表現が下手。そして・・寂しそう。」

指を折ってそういいながら野瀬は雪乃をチラッと見た。それに気づいた雪乃は、ぱっと目をそらした。

「・・・私寂しそうに見える?」

「ああ。」

いや・・・違うな。首を横に振る。ポケットに手を入れ、野瀬は立ち上がり雪乃を見た。

「感情表現が下手というのは間違いのようだ。」

穏やかな表情で野瀬はじっと彼女を見続ける。

「この短時間で君の表情は少なくとも5回は変わったよ。」

雪乃は少し目を見開き、

「そんなに観察しないで・・・。」

そして、フフッと笑った。野瀬はまたベンチに座りなおした。

「やっと笑ったな・・・。」

小さく呟き、自然と顔が緩むのが分かった。これをなんの感情というのだろうか?

「実は昨日、君の友達から少し話を聞いたんだよ。」

「美里ね。」

「そう。彼女は本当に君が大好きなんだな。」

「私の唯一の親友よ。20年の付き合いなの。」

「そう言ってた。大好きだが、ものすごく心配もしている。それを自分の自己満足だといったよ。」

「そんなことないわ。だって美里は私の一番ほしかったものをくれたもの。」

雪乃は空を見上げた。私も美里が大好きだわ、でも・・・。見上げた瞳が少し潤んでいるのに野瀬は気づいた。が、気づかない振りをした。

「正直、初めて君と会った時、つまり昨日のことだが。やりにくいと思ったよ。君の口から何の情報も得られなかったしね。6年刑事をしているが、君のようなタイプは初めてだった。」

野瀬は一度言葉を切って、大きく息をした。

「でも、美里さんから話を聞き、その上で今日は君と話をした。俺が言えることは・・・。」

野瀬は雪乃と同じように空を見上げた。

「氷川雪乃という女性は、フキノトウのような女性だと思った。」

 雪の中で一人、厳しい寒さに辛抱強くじっと耐え、暖かい太陽の光が冷たい雪を溶かしてくれるのを待っている。本当に雪乃のようだ。野瀬はじっと空を仰ぎ見た。

雪乃は風で乱れた髪を手で整え、手を見せて。と、野瀬に言った。野瀬はポケットから右手を出し雪野に差し出した。雪乃はその手を自分の両手で軽く握った。目を閉じ、自分の手を握る雪乃を野瀬は呆然と見た。手を離して、

「・・・・ありがとう。」

雪乃は寂しそうに笑いながら言った。

「お願いがあるの。」

ベンチから立ち上がり、ゆっくりと振り向いて泣きそうな大きな瞳でまっすぐ野瀬を見つめた。



「あなたに、私の秘密を共有してほしいんだけど、お願いできるかしら?」 


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