表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱ですが、ボスキャラのあなたを倒します  作者: すっとぼけん太
第二章 危うい優しさが招くもの
8/54

 第三話

「貴様、おれたちに勝てるとでも思ってたのか!」

と、長身の男が、レイジに剣の切っ先を向ける。


「口の利き方がなってないんだよ!」

「貴様、この状況を分かってんのか!」

「早くそこに(ひざまず)け!」と、苛立つ男たちが、次々に怒鳴る。


「えっ、おまえら、なんの話してんだ?」

レイジがきょとんとした顔で、首を傾げる。


「なにぃ!」

「おーい、シエン。そろそろ出て来いよ!」

レイジの声に、遠巻きにしている人だかりの中から、藍色のローブの女魔導士が前に出て来た。


「レイジ、わたしを巻き込むな」

ゆっくりと歩きながら、ローブのフードを後ろに倒すと、長い銀髪と切れ長の目が表れた。ハーフマスクで表情は分からない。


「はははっ、おれよりも正義感の強いおまえが、弱いものを見捨てて、通り過ぎるわけがないだろ」

「……」


「それに巻き込むなってやつが、背負っていたものを下に置いて、いまにも詠唱(えいしょう)しそうじゃねぇーか」

「いつもおしゃべりなんだよ。勝手にわたしをいい人にすんな」


「嫌がったって、おまえもネオなんだよ。おれが戦い方とか、生き方とか、色々と……」

「もういい。わたしが、レイジに教わったものなんか皆無だ」


「あれはネオフリーダムの、『銀髪の紫偃(シエン)』!!」

取り巻いていた群衆から、響動(どよ)めきが湧いた。B級の大型モンスターの群れを魔法一閃(いっせん)で倒し、村の子を助けたことで、グルーディオ周辺(このあたり)では、ちょっとした有名人だった。

シエンは、ネオフリーダムの団員で攻撃魔法系ヒューマン。クラン内では、シエンの攻撃魔法は最強。そして、レベルもあと少しでAランクが見えていた。


ハンタークランも対人クランも、レベルの強さについては同じ。ただ、攻撃対象が魔物か、人(エルフやドワーフを含む)かの違いだけである。


不意に登場した、自分たちよりも上位ランクの女魔導士に、慌てたのは四人の戦士だった。そして黒いフードの男魔導士の足も止まった。


(シエン姉さん)それとは逆に安堵したのが、腰が抜けていたルピタだった。少し口から出ている心臓を中へ押し戻している。


「さぁーて、これからどうしましょうか」

レイジが、男魔導士に向かって声を掛けた。シエンとルピタが、そのレイジの後ろに歩いて来た。



黒いローブを着た男魔導士は、常勝ニュルンベルグの軍師・知雀明(チジャクミョウ)であった。

今回は敵地視察が目的の為、あまり目立たぬようにと、Cランク戦士と、ヒーラー系ヒューマンの自分で来ていた。しかし、それが仇となった。

(こんなことになるのなら、四天王の一人でも連れて来るべきだった)――――知雀明は、後悔をしていた。


「貴様、おれたちを誰だと……」

「待て!」知雀明が、戦士の言葉を止めた。


「帰るぞ」知雀明の言葉に、四人の戦士は、レイジに背を向けた。


「ちょっと待てよ」それをレイジが呼び止める。


「あんた、さっき、おれの保護者責任の話を聞いてなかったのか。迷惑を掛けた人へのお詫びがまだだろ」と、レイジがエルフの娘を右手で示すと、促した。


それに驚いたのは、倒れているエルフの方だった。

「あっ、わたしはいいんです。大丈夫です」

と、顔の前で掌を振りながら、少し狼狽(うろた)えている。


「いやいや、りっぱな大人は、自分の中にある尊厳を守れるものです。さあ、さあ」


知雀明は拳を強く握り、フードの中の額の血管が切れるほどに浮き上がっている。


シエンの背後に、淡く紫がかった魔力の円陣が浮かび始めた。

空気がびりびりと震え、地面の小石がカタカタと揺れる。


「マジか……ほんとに撃つ気じゃねぇの」


四人の戦士が、怯えて後退(あとずさ)る。

「早くしなさい」と、常に冷静な知雀明の声が苛立っていた。


四人の戦士は、エルフに頭を下げると立ち去った。


(近いうちに、この愚か者に“知雀の理”がどういうものか教えてやる……!!)

知雀明の強く握った掌には、爪の痕が残り、血が滲んでいた。

プライドの高い知雀明が、ここまでコケにされた事は、生まれて初めてだった。

知雀明にとっては、これは悪夢の何物でもなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ