今日はツン控えめでお願い
「ええ、不甲斐ない私を、こうして慕ってくださっています」
「不甲斐ないか。貴様はよくやっている方だと思うが?」
ノイさんがそう言ったら、ベル様が今度は目を大きく見開いた後、苦笑した。
「貴女からそんな言葉を聞ける日が来るとは思いも寄りませんでした。どういった心境の変化ですか?」
「過去を嘆いても何も変わらんと教えてくれたおせっかいがいてな。そいつに毒されただけのことだ」
ノイさんは私を一瞥して、
「それより、病み上がりの者もいる。さっさと本題に入ろうではないか」
「そうですね。あ、プロメテアさんたちもおかけになってください。私も座りますから、ね?」
全員が座ったところで、団長さんが話を切り出した。
「遅くなったが、ミクニ殿、騎士やワズラナたち、そして町を守ってくれて、ありがとう。イザたちから報告を受けている。そして、この三度に渡る襲撃を仕掛けてきた黒幕である、新たな邪神を倒した、と。町を守っただけでなく、住民たちの平穏も守るために、秘密裏に戦ったとも聞いた。感謝してもしきれない」
団長さんと副団長さんが頭を深々と下げてきたけど、止めるのもどうかと思って、素直に受け取ることにした。
それが正解だったのか、顔を上げた副団長さんの口元が笑ってた。
「そしてノイ殿。貴殿もミクニ殿に加勢してくれたと聞いている。町を守るべき我々騎士団が不甲斐ないばかりに申し訳ない。遅くなったが、貴殿にも、感謝申し上げる」
「我のしたいようにしただけのことだ。貴様らが気に病む必要ない」
「ノイさん、お願い、今日はツン控えめでお願い……」
さっきから緊張感と恐怖で冷や汗が止まらない。
折角回復したのに、今度は精神疲労でまた突っ伏しちゃうかもしれない。
それでもノイさんが嫌いになれず、見放そうとも思わないのは、これまでノイさんと築いてきた関係があるからかな。
でもやっぱり、団長さんたちや本物の女神様に対してその言動は控えてぇ!
「貴様は心配性だな」
「誰のせいだと……」
恨み節をぶつけると、ノイさんはやれやれと口を閉じてくれた。
「それで、だ。ミクニ殿とノイ殿には褒章を授与したい。今はまだ決まっていないが、近く、ウェザーで式典が開かれ、そこで二人に授与される流れになるだろう」
な、何じゃそりゃ……?!
首都で、式典? 褒章授与? 何で?!
「あの、私、やれることをやっただけで、そんな畏れ多いんですが……」
「我も紙芝居の予定がある」
「まあ、そう言うだろうと思っていた」
団長さんは口元を僅かに緩めた。
「しかしミクニ殿は他にも、臨時で開かれる国際会議には出席してもらわねばならない。目立ちたくはないという貴殿の気持ちを尊重したいが、こればかりは私でもどうにもできないのだ」
バレッタの大き過ぎる力を、イーナ女性騎士団やウェザーランド公国が政治的に利用しないこと、私がバレッタの力を人類に無闇に振りかざさないという宣言の為に、国際会議や大勢の人たちの前に出なければならない。
フー兄たちがそうしたように。
「わかりました」
「我々の都合で振り回してしまい、申し訳なく思っている」
「団長さんが気にすることないですよ」
団長さんに励ましの言葉を送って、あえて元気に笑ってみせた。
「大丈夫です!」
「ありがとう。では、褒章は」
「騎士団と町の皆の前でなら」
「いらん」
私もノイさんも即答だった。
名誉あることなんだろうけど、褒章とかそういうのが欲しくて戦ったんじゃない。
イザさんやメニマたち騎士団、ワズラナさんたち傭兵団、ザレスさんとモナさん夫婦、サラちゃんたち家族……マルトの皆のために戦ったんだ。
「二人とも、大公様たちのメンツもある故、出席してもらわないとこちらとしても困るのだ」
「うぅ、私、別に褒めてもらうために戦ったんじゃないよぅ」
「いざとなれば逃げてしまえばいいだろう」
嘆いてたら、ノイさんがいつもの調子で言ってくれた。
確かに、私とノイさんなら、世界のどこにでも逃げられる気がする。反重力フィールドがあるおかげで、今なら海だって超えて行けるはずだから。
ワズラナさんの言ってた、逃亡計画が現実味を帯びてきてる。
「でも、皆とお別れしたくないし……」
「必要になれば我が町まで送り迎えしてやってもいいぞ」
「いいの?」
「紙芝居をするついでだ」
ノイさんが……いつもよりも優しい。今日はツン強めだと思ったけど、ここぞというところでデレてくれた。
素直に嬉しい。
「頼む、二人とも、騎士団のためにも出てくれないか?」
国外逃亡とその後の計画を考え始めた私たちに、団長さんが頭を抱えて待ったをかけてきた。
「貴殿らが本気を出せば、誰がどうあがいても止められん……」
「我が言うのも何だが、騎士団長である貴様がそれを認めていいのか」
「騎士団長であるからこそだ。ミクニ殿は言うまでもなく、そしてノイ殿、報告を聞く限り、貴殿を止められる者もいないのだ」
「……人質、という手段は取らんのか?」
ちょっとノイさん、本当にやめないかな?!
何か今日、いつもよりトゲトゲしてる気がするし。
フー兄たちが嫌いだったってことは、騎士団にも良い思いはしてないってことかもしれないけど、それにしたって酷すぎるよ。
むすーっと睨んだけど、無視された。
「我々がそんなことをするとでも?」
「貴様らがしなくても、公国の誰かがするであろう?」
「……無駄だな。もししれを実行しようとする者がいれば、愚か者の誹りは免れない。シャンティーノの時に、誰もがそれを叩き込まれたはずだ」
フー兄たちの時、一体何があったんだろ……別に聞きたくもないけど。
「ふむ、ならよい。我は誰がどう人質にされようと知らんが、気にし過ぎてしまう奴がいる。こいつが手を出さなくても、我が如何様にも無法者を始末しよう」
ノイさんが好戦的な言葉をかけると、団長さんも強く頷いた。
「もし貴殿らやその親しき者たちに危害を加えようとする者がいれば、我らも対処しよう。そして繰り返すが、私たちは貴殿らの敵になるような真似はしない」
えぇと、さっきノイさんを斬ろうとしたことは、ノーカンってことでいいのかな……と思ったけど、黙っといた。
「そうか。まあ、仕方がない。授与式とやらには出てやろう。だが、昼過ぎには町へ戻らせてもらうぞ」
「わかった。貴殿の希望に添えるように善処しよう。ミクニ殿もどうか頼む」
「わかりました」
ノイさんも授与式には出るって言うし、騎士団のためになるなら、私も出よう。
これもある種の人質っぽいけど……。
どうにか話がまとまったけど、これで終わりではないようで、団長さんが話を続けた。
「もう一つ、話したいことが……いや、確認したいことがある」
団長さんの視線が、再びノイさんへと向けられた。
「ノイ殿……顔を見せてもらえるだろうか」
あ、そっか。ノイさん、フード被りっぱなしだった。
室内じゃ、帽子やフードは脱がなくちゃいけなかったっけ。
でもノイさん、女神レベルで美人だから、皆、見惚れちゃうかもしれない。
なんて考えてる間に、ノイさんは素直にフードを脱いで、オレンジ色のセミロングの髪と、女神レベルの美貌を皆に見せた。
あぁ、やっぱり綺麗だなぁと思ったけど、皆の反応は、大人しかった。
あまりの美貌に見惚れてる、という顔じゃなかった。
ベル様以外、何故か、皆、表情がそれぞれ険しかったり、難しい表情を浮かべたりしてる。
「やはり、か」
団長さんが、物々しい様子でつぶやくような声を出すと、ノイさんが不敵な笑みを浮かべた。
「どうした? もう会わないと思っていた敵と出会ったような顔をしているな?」
「あぁ。全くその通りだ……」
団長さんがノイさんに鋭すぎる眼差しを向けるけど、ノイさんはやっぱり気にした様子はなく、むしろ楽しげに笑ってる。
副団長さんも眉を潜め、イザさんに至っては、何時、剣を抜いてもおかしくない状態だった。
流石にこれは私も慌てた。
折角穏やかな雰囲気に戻ってたのに、何で皆、そんなに殺気立ってるの?!
もしかして、ノイさんと団長さんたちって知り合いなのかな。
昔、騎士団と因縁のあった魔法使いがノイさんとかいう展開なのかな。
でも、団長さんたちには悪いけど、今のノイさんしか知らない私は、皆に争って欲しくなかった。
「ストップ! 団長さんもノイさんも落ち着いてください!」
「我は落ち着いておる。此奴らが勝手に殺気立っているだけだ」
腕を組んだノイさんの言い分に、イザさんがついに立ち上がった。
「よくもまあぬけぬけと……」
「落ち着け、イザ」
団長さんの静かな、でも有無を言わさない声に、イザさんは口を閉じて、椅子に座り直した。
団長さんは、ふぅーっと少し長めに息を吐くと、ノイさんから私へと視線を移動させてきた。
「ミクニ殿。この者は、ノイ・ドラクルという名前でもなければ、人間でもない」
酷い言葉を口にする団長さんの強い眼差しが、またノイさんへと向けられる。
ノイさんは、相変わらず楽しげに笑みを浮かべて、団長さんを見てる。
まるで、これから団長さんが言おうとしてることが、わかってるように。
「この者は、ヴァラノイア。
勇者シャンティーノと竜騎士デレリュ・ファダサスによって倒された、邪神だ」
次回は明日8時予約投稿です。




