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何かそれっぽい能力

 それから、町と砦を何回も往復して、ようやく全部の残骸を移動させることができた。

 最後の分を指定場所へ持って行くと、監督役の副団長さんが手を挙げて迎えてくれた。


『ご苦労さま。これで全部ね』

「はい」

『じゃあ、あっちにある資材を町の大広場まで持って行ってもらえるかしら? それでミクニさんの仕事は終わりよ』

「わかりました」


 建物用の木材や石材を載せた、馬が繋がれていない馬車を抱えて、町へと戻るために歩き出す。

 ふと避難所の方角を見ると、入口から子どもたちが顔を出して、バレッタを見て口を大きく開いていた。

 今朝は棒立ちの姿しか見てないもんね。

 馬車を片手で抱えて手を振ってみたら、元気いっぱいに振り返された。

 よしよし、皆元気そうで良かった。


『おう、ご苦労だな』


 振り返ったら、ワイバーンに乗ったワズラナさんが近づいてきていた。ワイバーンの足には資材が搭載されたバスケットがぶら下がっている。


「ワズラナさんたちもお疲れ様です。町へ?」

『おう。交代の時間だからな』


 ワズラナさんはそう言うと、すいーっと町の方へと飛んでいった。

 私も急ぎ足になって、町への道を進んだ。

 そしてさらに数時間が経過した頃、


「おぉっ!」


 たった一日ですっかり元通りになった町の景色に、声が出た。

 抉れていた道路も、間接的に傷つけちゃった建物も、半ば荒野と化していた大広場も、すっかり元通りの姿に戻っていた。


「これで、明日から皆、戻って来られるんだね」

『何なら、今からでもすぐに戻ってもらってもいいんだが、時間が時間だしな』

『皆で移動してたら、夜になっちゃうし』


 ワズラナさんやアイナたちが言いながら、ワイバーンに跨った。


『こう、大勢が一斉に乗れる馬車はないかしら』

『そんな物があったら、今頃軍事バランスが変わってるぜ』


 大勢が乗れる馬車……バスかな? 町と砦を往復する直通バスとか。


「バレッタ、私たちでみんなを乗せた車を引いてみる?」

『力加減を間違えたら大変なことになるぞ』

「そこは力を調整していただいて……」

『面倒だ』


 そ、そんなバッサリと……。


『それよりも、開拓地へ資材を纏めて運ぶとか、砦の高所の作業を手伝えばいいだろう。そっちの方がずっと皆の助けになる』

「はぁい」


 そうだよね、フー兄が前にしていた仕事、やってみようかな。




 帰り道、私はアイナのワイバーンに乗せてもらった。

 バレッタも走ればそれなりに速度を出せるみたいだけど、地面が荒れるってバレッタに言われたから、おとなしく普通に帰宅することにした。


 ワイバーンの後ろに相乗りで帰宅が普通かどうか。この世界に来てしばらく経った今の私には、もう普通扱いだ。


 砦に戻ったら、ワズラナさんたちと一緒に団長さんに報告して、本日は解散。

 私はそのまま自室に戻って、ベッドに飛び込んだ。


「……バレッタに乗って作業してただけなのに、何か、疲れた」

『そんなものだ。パイロットと言うものは』

「バレッタはロボットだから、疲れないの?」

『疲労という感覚はわかる。だが、今日の作業程度では何も感じないな』

「ははは……凄いなぁ」


 ダメだ、お風呂入りたいのに、このまま寝ちゃいそう。




 そんな風に考えていたら、本当に寝ていて、気が付いたら早朝だった。

 制服の皺を伸ばしながら部屋を出て食堂へ向かう途中、イザさんとばったり会った。


「イザさんっ、今仕事上がり?」

「ええ。アオイさんは……」

「昨日帰って、そのまま寝ちゃった」


 そんな話をしながら、一緒に食堂に入った。


「避難所の方はどう?」

「特に問題は起きていません。強いて言えば、アオイさんの話で持ちきりでした。騎士シャンティーノの再来だと」

「いや、そんな英雄の再来って言われてもなぁ」


 バレッタの力は確かに凄まじいんだけど、フー兄たちのように一瞬で終わらせる、なんてできなかった。

 もし、バレッタの武装の再起動ができたら、何か変わるのかも。


「あ、紙芝居屋さんは?」

「朝、昼、晩の三回に分けて演じていました。全て違う題材で、内容も、全く知らないものばかりでした」

「へぇ」


 きっと、色々な国のお話を研究して、取り入れているんだろうな。

 というか、イザさん、しっかり聞いてたんだ。


「アオイさんの方は、どうでしたか?」

「バッチリ、皆で町を戻したよ! 多分、この後の朝会で、団長さんが町の人たちに戻れるって話をすると思う」

「では、今日はどこかの隊が移動中の護衛に着くでしょう」

「じゃあ、私たちは暇かなー?」

「恐らくは」

「じゃあ、町の人たちに着いて行ってもいいのかな?」

「今日は砦で待機するように言われるかと」

「そっかぁ」


 紙芝居屋さんやあの女の子と話せればと思ったんだけど、仕方ない。

 次に町に行った時に話そう。


 その後、食堂で朝会があり、、イザさんの言う通り、私は砦で待機を言い渡された。

 続けて、避難所へ移動し、団長さんから町の人たちへ、修繕作業が終わったので、戻れるという話が出た。

 一時間後に、いくつかの班に分けて出発するため、皆、少し慌ただしくし始めた。


 私はイザさんと一緒に離れた場所でそれを聞いて、終わったら、そのまま砦へ真っ直ぐに戻って、食堂で適当に座ってお茶を飲むことにした。


「じゃあ何をしようかな」

「本を読まれてはいかがですか?」

「絵本読むのも苦労するよ、私。言葉は、わかるんだけどね」

「最初、こちらの言葉がわからなかったと伺っていますが……どうやって話せるようになったのですか?」

「わかんない。ワズラナさんたちが話しかけてきて、途中から何を言ってるのかわかるようになって、それで返事をしたら通じたって感じかな」

『それについては、我が答えよう』


 バレッタの声がして、思わず振り返った。もちろん、誰もいない。


『恐らく、こちらの世界へ来た際に、何者かがお主に、言語理解ができるように力を施したのだろう。会話の途中からわかるようになったというのは、現地の言語を理解できる言語に変換できるまで少し時間がかかったためと推測される。要はサンプルが必要だったということだな』


 おぉ、何かそれっぽい能力が私に与えられてたんだ。誰かわかんないけど、ありがとう!


「あれ、じゃあ何で私、話せてるの? 私、日本語しか話してないよ?」

『お主は意識をしていないだけで、現地語と日本語を使い分けて話している。例えば、今、我と話している時は日本語だな』

「そうなの?」

『目の前を見てみろ』


 言われてイザさんを見れば、じぃっと静かに私のことを見ている。


「あはは……えと、ちょっと考え事してて」

「そのようですね」

「何言ってるか、わかった?」

「以前、フミチカさんたちが使っていた言語だとはわかりましたが、さっぱりわかりません」

「そ、そうなんだ」

『このように、話す相手やお主の意識で、自動で切り替わっているのだ』


 マジかぁ……。

 何か不思議な力だなぁ……内緒話とかするには、便利かもしれないけど。


「じゃあさ、文字が読めないのは? フー兄はできたみたいだけど」

『推測だが、シャンティーノによる力だ。パニッシュナイトシリーズには、契約者が他の言語文化とのコミュニケーションを円滑に行えるよう、機体から半径十キロ以内であれば、未知の言語と遭遇しても、会話や文字の読み書きが可能となる機能が搭載されている』

「凄……バレッタにはそういう力はないの?」

『本来あるのだが……今は会話への補助程度しか機能していない。武装同様、大部分の力がリリースされていない』

「もしかして、魔物を倒してレベルアップしないとダメとか、そういう感じ?」

『そんなことはない。本来であれば、未契約状態でも今以上の機能を行使できるようになっている。契約したのだから、もっと力が使えるはずなのだが……』

「今度、ベル様が来た時に聞いてみようかな」

『女神ベルでもわからないと思うが……手がかりがない以上、あの御仁に頼るしかないか』


 そこで会話が終わって、私はお茶を飲んで、イザさんに頭を下げた。


「お待たせしました」

「いいえ。色々とありましたし、考えをまとめる必要もあったでしょうから」


 イザさんの気遣いが目に染みた朝の一時だった。




 お昼頃、自室でごろごろしてたら、団長さんから呼び出しがあった。

 イザさんと一緒に団長室へ入ったら、相変わらず書類のやまと向き合っている団長さんが出迎えてくれた。


「よく来てくれた。実は、ミクニ殿に試して欲しいものがあるのだ」


 言われて、今度は団長さんも加わって、訓練場へ向かった。

 護衛に加わっていない、訓練していた騎士たちからの視線をちらほら感じながら、少し開けた場所に向かうと、そこにワズラナさんと傭兵団の女性団員さんたちがいた。

 その後ろには、先日使った、巨大なマスケットが寝かされている。


「おう来たな。手入れと修理は完璧だぜ」

「ご苦労」


 団長さんが私へ振り返り、マスケットを手で示した。


「ミクニ殿。これから貴殿に、このマスケットを託したいと思う」

「え?」

「これは元々、シャンティーノ用に我々が建造した物だったが、巨人が扱うこと前提で造ったため、人力で扱うにはかなり無理がある」


 そりゃ、まあ、そうだろうなと思う。

 威力は凄かったけど、装填とか狙いを付けるのとか、引き金を引くのが凄く大変だろう。

 それだったら、普通の大砲を大量に使った方がいいかもしれない。


「先日の戦いで、貴殿はこれを扱い、見事、脅威を退けてくれた。故に、これは貴殿が扱って欲しい」

「いいんですか? でも、整備とか……」

「整備の仕方は俺たちが教えてやるよ。なぁに、ちょっと馬鹿でかいマスケットだ。すぐに分かるさ」


 ワズラナさんが素敵な悪役スマイルを向けてくれた。

 私、銃とかあんまり触りたくないんだけどなぁ……でも今の状態のバレッタだと殴る蹴る、投擲くらいしかできないし、仕方ない。


「分かりました」

「うむ。それと、もう一つ、貴殿に渡したいものがある」


 次は何が出てくるんだろうと内心で身構えていると、団長さんが上着の内ポケットに手を入れて、何かを取り出して、見せてくれた。


 緑色主体に、黄色の二本線のアクセントが入ったスカーフ。

 でもこの色とアクセントって、騎士団の……。


「これは、騎士団と友好を結んだ証だ。もし今後、貴殿に無礼を働く者がいれば、これを見せるといいだろう。貴殿は悪用しないと信じられる」


 印籠、みたいなものかな。

 団長さんからの信頼の重さと、このスカーフに込められた意味の重さを感じて、顔が引きつるのを堪えて受け取った。


 スカーフは、日頃から身につけておけばいいと言われたので、制服のリボンを取って、代わりに巻いてみた。

 違和感がなく、イザさんが似合ってると言ってくれたので、良しとした。


 その後でバレッタを呼び出し、早速マスケットを持ってみる。

 コックピットのモニターにデデンッと大きく映っているけど、脳内イメージとバレッタの調整のおかげで、自然に構えたり、持ち上げたりできた。


『どうだろうか?』

「特に前と変わった様子はないと思います」

『よし。では、次は実際に撃ってもらうとしよう』


 団長さんが指さした方を拡大すると、山々が見える方角に、大きな的が設置され、その後ろに土山が聳えているのが見えた。


『あの的を狙って撃って欲しい』

「……あの、一つだけ、質問いいですか?」

『何だろうか?』

「これ、他の国から、色々と疑いの目を向けられませんか?」


 詳しくは知らないけど、こういうのって、他の国から良くない目で見られるんじゃなかったっけ。


 だって、平和になった世界にいきなり巨大ロボットが現れて、大きなマスケットを騎士団の演習場で撃ってたら……。


『確かに疑ってくる者はいるだろう。当然だ。私だって疑う。だが、先日の空飛ぶ鉄たちがまたやってくる可能性は十分にある。その時、ミクニ殿が主戦力となる』


 団長さんのはっきりとした声が、コックピット内に響いた。

 そうだよね……こんな力持ってるんだから……そりゃ……そうだよね。


『そのためにも、準備をしておかなくてはならないのだ。周辺諸国には昨日のうちに通達してある。周辺諸国の草たちもあの空飛ぶ鉄の姿は見ているはずだ。ミクニ殿が心配するようなことはない』

「草?」

『イワイ殿風に言うと、スパイや密偵という存在のことだ』


 外国のスパイたちが、UFOやバレッタ状態の私を見ていたってことか。というか、スパイが居ることは大前提なんだ。

 だったら、いいのかな。

 でも、戦う、かぁ。


 ちょっと気分が悪くなってきた時、ワズラナさんの勝ち気な声が聞こえてきた。


『団長さんよ、俺がアイツのサポートに入ってもいいか?』

『構わんが、ワイバーンが嫌がるだろう』

『俺様一人で行くんだよ』


 少しして、視界の端っこ……多分、バレッタの顔のすぐ左側。

 覗き込むようにして立っているワズラナさんの姿が目に入った。


『おい、寝てんのか?』

「すみません、ちょっと考え事してて」

『おいおい、マスケットを扱う時は気を付けろよ? 暴発したらやべーぞ? あ、お前は大丈夫か』


 言いながら、後腰からヘッドホンを取り出して、耳に着けた。


「ヘッドホンがあるんですか?」

『これか? 前にイワイとシャデュが、大砲とかマスケットとか扱う時に、聴覚を守るためにって教えてくれたもんだ。普通は魔法で守ってるんだが、流石にこんなデカいマスケットの発砲音を間近で受けたらヤバいからな』


 そっか、あれも、フー兄たちが。

 凄いな、フー兄は……ロボットに乗って、皆の為に戦って……。


『なぁ、アオイ』

「はい?」


 ワズラナさんが声を潜めだした。


『団長の奴、本当はマスケットを渡すのを迷ってたんだ。お前を戦いに巻き込みたくないってな』

「……え?」


 そうか、団長さんは、騎士団を纏め上げてるリーダーで、開拓地と辺境地を守る重要な仕事をしている人だから……。


『よし、そのまま狙いを付けろ。大広場でやったみたいにな』


 ワズラナさんが、普通の声量で指示を出してきたので、それに従って構える。

 すると、またワズラナさんが小さな声で話しかけてきた、


『団長のくせしてとんだ甘ちゃんだぜ……イワイの妹分が、右も左もわからない場所に来て、ようやく打ち解けてきたと思ったら、まーたキナ臭ぇことが起こって、しかもその妹分まで騎士に変身したとなりゃ……まあ、団長としては活用せざるを得んわな……よし、そのまま撃て』


 最後だけ通常の声量で指示を出してきたので、引き金を引いた。

 轟音と共に銃身の先端から弾が飛び出し、的へと当たった。モニターが私の意思によって拡大され、的のど真ん中に大穴が空いている様子が映し出された。


『上出来だな。イワイよりセンスいいじゃねーか』


 褒めてもらったけど、命中したのはバレッタが調整を入れてくれているおかげだから、手放しでは喜べないんだよね。

次回は明日18時予約投稿です。

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