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また励まされちゃったな

 イザさんとワズラナさんとはそこで別れて、私は団長さんと副団長さんと一緒に、砦へと向かった。

 夜の砦ではまだ警戒態勢が続いていたけど、私の姿を見た騎士たちが、ホッと安堵の表情を浮かべていた。

 皆に軽く手を振っていたら、そのまま団長室まで案内された。


 最初にこの砦に来た時のようにソファに座った私たちの前に、副団長さんが紅茶を淹れて出してくれた。


「まずは、貴殿が無事でよかった。だが、随分と無茶をしたようだな」

「ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありません」


 いやぁ、もう、平謝りするしかない。

 自分の行動が間違いだったとは微塵も思わないけど、心配する側からしたらそんなことはお構いなしだから。

 団長さんの鋭い視線に、背中に汗を感じていると、副団長さんが小さく噴き出した。


「おい」

「ごめんなさい。貴女がそんな風に怒るなんて久しぶりだし」

「茶化すな。私は真剣に」

「でも、報告を聞く限りだと、ミクニさんの行動は責められないんじゃない?」


 指摘され、団長さんは口を噤んだ。


「確かにミクニさんの行動は、自身を危険に晒す物だった。同時に、幼い子どもを守るために、最善の行動を取った……ふふっ、思い出すわね、昔の貴女を」

「茶化すなと言っただろう」


 団長さんはバツが悪そうに言って、カップを手に取った。

 きっと、憎まれ役に徹しようとしたんだろうな。理由がどうあれ、私が軽率な行動を取ったから、立場上、怒らないといけないから。


「ごめんなさい」

「……いや」


 頭を下げた私に、団長さんは短く答えた。


「だが……他に誰の助けのない状況で、よく開拓地の住民を助けてくれた」

「無我夢中だっただけです」

「誰にでも出来ることではない。手放しで褒めることはできないが……結果として、犠牲者が出ずに済んだ」

「……私も、皆が無事で、本当によかったです」


 そこで、一度会話は途切れて、沈黙がしばらく続いた。

 お茶を飲みながら、いつ話しかけて来るのかなと、こっちから話した方がいいのかなとか、色々考えた。

 でも結局、団長さんの方から、話しかけてくれた。


「ミクニ殿……」

「はい」

「巨人に、なったそうだな」

「はい」

「夜が明けたら、見せてもらえるだろうか? 皆に、改めて貴殿を紹介したい」

「できれば、町の人たちには秘密に出来ればと思ったんですけど」


 騎士団やワズラナさんたち傭兵団の人たちには見られているから仕方ないとしても、何も知らない町の人たちに知られるのは、何だか怖かった。

 ついこの前まで普通に接してくれていた人たちが、紙芝居屋さんや助けた女の子が、怪物の正体を見たような目で見てきたら、どうしよう。


「だが、今日のことは大公様に話さねばならん……そして、ほぼ確実に、国際的な問題になる。そうなれば、ミクニ殿。貴殿は否応がなしに、公の場に出ることになる。イワイ殿やシャデュ殿のように」

「それは……」

「怖いか?」

「……はい。皆が、私を怪物だって見てくるかもって」

「怪物? 何故だ」

「だって、昨日まで普通の女の子だと思っていた人が、いきなり目の前で巨人になるんですよ?」

「ふむ、そうだな……確かに驚きはするだろう。我々もそうだった。だが、怖がる者は、少ないと思うぞ」

「え?」

「きっと皆、ミクニ殿を受け入れてくれるだろう。だから今は、安心するといい」


 団長さんはそう言うと、立ち上がって、私の隣まで来て、手を握りしめてくれた。

 大きくて、ごつごつしていて、力強さと優しさを感じる手だった。


「民も、開拓地も守ってくれて、感謝する」




 翌日、避難所に騎士団の人たちも集まる中で、団長さんが避難者たちの前に立って、昨日あった出来事を話した。

 そして、最後に私を紹介した。


「こちらは、我が砦の客人、アオイ・ミクニ殿だ。見知った者たちもいるだろう」


 私の姿を見た町の人達が、どよめき始める。その中に、紙芝居屋さんの姿も見かけたけど、黙って私のことを見ているようだった。


「彼女は、イワイ殿の妹君同然の身内に当たる」


 その言葉に、さっきよりも大きな声が上がる。


「ミクニ殿、では」


 そう言われた私は、皆から少し離れた場所に移動して、バレッタに小声で話しかけた。


「バレッタ。貴女を呼び出すにはどうすればいい?」

『声に出す、または強く思考すれば参上しよう』

「わかった」


 じゃあ、あんまり怪しくないようにと、思考で念じて呼び出すことにした。


 その瞬間、私の意識が一瞬だけ飛んで、気が付けばバレッタのコックピットの中にいて、皆を見下ろしていた。


 町の人だけでなく、昨日バレッタを見ていなかった騎士や傭兵の人たちも、それぞれ驚きを露わにしていた。


『昨日、町を襲った脅威を騎士や傭兵たちと共に打ち払った夕日の騎士バレッタ。それがミクニ殿だ』


 私と言うか、バレッタだけどね。

 バレッタと寝る前に相談して、フー兄たちと同じように、私=バレッタということにしておこうと決めている。

 でも、夕日の騎士って……確かに見えてる鎧の色はオレンジ色だし、最初に呼び出したのも夕方だけど。何かちょっと、カッコつけ過ぎてないかなぁ。


『大公様にはすでに文を出したが、皆に安心してもらうため、ミクニ殿に嘆願し、いち早く姿を現してもらったのだ』


 まあ、皆に、バレッタがいるから安心してもらいたい、というのは、事実だ。

 またあのUFOが来るかもと思ったら、開拓地に戻れない人もいるだろうし。


 それにしても、団長さんの言う通り、バレッタの姿を見ても、誰も怖がっていない。

 それどころか顔を輝かせている人たちが大半だ。特に子どもたちの表情がとてもまぶしい。


『お姉ちゃんが……本物の巨大な騎士様……すごぉい』


 バレッタが拾い上げた声に集中すると、三百六十度をカバーしたモニターとは別に、目の前に小さな画面が浮かび上がり、目を輝かせてバレッタを見上げている、あの女の子の顔を映した。


 団長さんの言う通り、怖がる人はいなかった。

 そして、仲良くなった人たちが私を受け入れてくれていることが、嬉しかった。


 感動する私を他所に、団長さんの話は避難中のことや、現在の町の状況説明へと変化して行った。


『それと、現在、町の大広場が敵との戦いにより大きく損傷しているため、こちらの整理が終わり次第、皆には町に戻ってもらおうと思っている。もう少し不便をかけるが、容赦いただきたい』


 ごめんなさい、それ、私のせいです。UFOをシューティングゲームみたいに落としまくったから……後で私もバレッタの力を使って残骸厚めや清掃作業に関わることになっているから、少しでも早く皆が町に戻れるように張り切る所存である。




「うわぁ……」


 改めて町の様子を確認したら、道の至る所が抉れてるし、大広場に至っては瓦礫が山のように散らばる有り様だった。

 被害がないと思っていた噴水にも罅とか傷が入っていて、やってしまったぁと落ち込んだりもした。


「おーおー、凄いのぉ」


 メニマが辺りを見回して苦笑し、アイナたち騎士団メンバーや傭兵団の人たちは早速どう片付けていくか話し合い初めた。


「保険とかってあるかなぁ……」

「? あるけど、どうかしたの?」


 私のつぶやきを聞いたアイナが首を傾げた。

 あるんだ、保険。


「……これ、適用されるかな? 今からでも入れる?」

「え、もしかして弁償しないといけないって考えてる?」

「だって……あっちの建物の屋根と壁もちょっと傷付いちゃったし」

「いや、誰もアオイを責めたりしないから。途中で見てたけど、あれくらいなら全く問題ないってば」

「そうじゃそうじゃ。それに、アオイがやってくれんかったら、町どころか人的被害が出てたじゃろ?」


 何か騎士団と傭兵団問わず、皆がそーだそーだと言ってくれたけど、いいのかな……?


「それに、アオイも片付け手伝ってくれるんでしょ? だったらそれでいいじゃない」

「案外重労働じゃからのぅ。それ、やるぞ〜」


 アイナたちは私の肩を軽く叩いて、それぞれ小隊ごとに別れて作業を始め出した。


 よ、よし、私も落ち込んでばかりはいられない。

 皆から少し離れた所でバレッタを呼び出して、地上の人たちの指示を受けて、大きな破片や瓦礫を持ち上げ、移動させる。

 騎士や傭兵も魔法を使って身体能力を向上させたり、ワイバーンに運んでもらったりして作業していくと、数時間もしないうちに大広場の地面が綺麗に見えるようになった。


 後は、魔法で修繕作業をしていくとの事で、私は集めた残骸を更に指定された場所まで運ぶ仕事に取り掛かる。

 持って行くのは、砦の外れで、そこで臨時の作業場を作って封印処理をするらしい。

 でも、歩いている途中で、色々と取り零しそうだなぁ。


「バレッタ、零さずに持って行けそう?」

『無論だ』


 バレッタの両手が独りでに動くと、大きな薄透明のボウルが出現した。


「これって、バリア?」

『その応用だ。今朝、リリースされた。ここに瓦礫を淹れて持ち運ぼう』


 何かこういうところはロボだなぁ。

 しゃがみ込んで、バリアボウルの中に残骸を入れていく。

 モニターの中で、こっちを見て口元をひくつかせてるメニマの姿を見つけた。


『なんちゅうか……本当にアオイなんじゃなぁ』

「どういう意味よ」

『巨人になっても、仕草がアオイのまんまという意味じゃ』


 そりゃまぁ、私の思う通りに動くらしいから、そうなっちゃうのも仕方ない。


『イワイとシャデュもそうじゃった。邪神を退ける力を持っておったが、砦や開拓地で巨人になって作業する時は、二人の癖がよく出ておってな。大きくなったアイツらが作業していると考えたら、変に畏まるのもおかしくなってな』

「へぇ……」

『じゃから、お主はあれやこれやと気にするな』


 そう言うと、メニマは別の場所へと歩いていった。

 また励まされちゃったな。でも、もう大丈夫だから。

次回は明日18時予約投稿です。

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