表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/144

076 色々あるけど、ヴィヴィ、お願い

 ――「あが、あががが……ラ、ラーメン……か、勝っちゃん……」――



 ばあちゃんはラーメンに想いを馳せ、笑いながら白目をむいて気絶している。きっと今、夢の中で勝っちゃん食堂の『半チャーハン定食』を食べているのだろう。


 しかし、米と小麦が同時に手に入るとは……これはマジでヒズリアに食の大革命が起きるぞ……ルネッサンスだ!!!



 ――(ジジッ……おい、蓮。今どこにいる?)――



 サリサが念話のチャットルームで話しかけてきた。あ、まずい。米を収穫すると聞いて、すぐに飛び出したので、ホシノエに行くことを伝えていなかった。



(ごめん、今、ホシノエにいる。米の収穫を手伝っててさ)


(ヴィヴィも一緒か?)


(ああ。おい、サリサ聞いてくれ! 凄いぞ! 米だけじゃなくて――)


(すまん蓮。いま、それどころじゃない。こっちの話を優先させてもらっていいか?)


(……どうした?)



 サリサの声の調子がいつになく真剣だ。大狸商店街で何かあったのか?



(ついに来たぞ……ファクタからの使節だ。お前とヴィヴィに会いたいそうだが、どうする?)


(ファクタ……え~っと……ごめん、今から戻っても遅くなると思うけど……え? ヴィヴィも? 用件は?)


(さあ……二人に会いたいとしか。まあ、今日の所はあいさつ程度に来たそうだ。会えないならまた日を改めると言っている)


(そうか……今日は無理だな。丁重にお送りしてくれ)


(…………)



 あれ? 念話が途切れたか? いや、チャットルームにいるときの気配のようなものは感じる……



(どうした? サリサ?)


(いや、それは相手の出方次第だな……出来たばかりとはいえ、こちらも一つの国なんだ。舐めた態度をとるようなら……)


(え?! おいおい……揉め事はやめてくれよ?)


(ふん。まぁ、検討しておこう……あ、それとは別に、ここ数日ツクシャナ周辺でギルド関係の冒険者が急に増えている。森の魔物が弱体化してるのが理由かもしれんが……同時期ってのが気になる。ファクタとノルドクシュ、裏ではつながってる可能性もあるぞ)


(ギルドって……北のノルドクシュにあったんだっけ)


(ああ。この冒険者の数……大規模クエストが発生している可能性がある。森にも冒険者が多くいるだろう。ギルドの冒険者は荒くれ者が多い。お前の方こそ舐められないようにしろよ。一応、お前はツクシャナ共和国の王なんだからな!)


(あ、ああ、分かったよ)


(それにしても、このファクタの使節……この街を値踏みするような感じで見てやがる。完全に舐めてるな……『迎賓館はないのですか?』なんて抜かしやがった……ちっ! 見せてやろうじゃないか、アマゾネス流の『お・も・て・な・し』という奴を! じゃあな! ブツ……)



 大丈夫かな……サリサは元王族だからな……結構プライドが高いもんなぁ。ファクタって貴族階級が多いところだって言ってたよな。ファクタ……元の世界では博多辺りに位置するところか……



「ヴィヴィ、念話聞いてた?」


「はい。ついに接触してきましたね。でも、変ですね……蓮さまだけならまだしも、私もだなんて」


「ヴィヴィはファクタに行ったことなかったんだよね?」


「はい。私はノルドクシュの生まれですので……」



 嫌なことを……思い出させたかな……いや……



 ――ウキヤグラのホタル――



『――蓮さま、伊織さまにみんなが力を貸すのは……お二人が本当に優しいから……優しいを『お返し』したくなります。この気持ち、この心の力……間違いなく最強だと私は思います――』



 きっとヴィヴィはもう大丈夫。彼女ならこれからどんなことがあっても乗り越えていける。なんてったって、彼女は『最強』なんだから。



「何か心当たりはある? ファクタから会いたいって言われる」


「いえ……全く。それより気になるのは、ギルドの方です」


「なんで?」


「私が元ギルドの奴隷だからです。店主の契約で隷属の紋から解放されたのは嬉しい事なんですが、もし、私が生きていることをギルドが知ったら、きっと所有権を主張してくるでしょう。奴隷を盗むことはヒズリアでは重罪ですから……だからソニン船長も『奴隷を買い取り、自由を与える』という方法を取られているんだと思います」



 確かにそうだ。いくら俺が奴隷制度に反対だからといっても、この国ではそれが当たり前だし、向こうからしたら奴隷の解放は、奴隷を盗むことに他ならない……


 あれ? もしかして俺……結構やばい事やってる???



「じゅ、重罪ってどのくらいの罪なの?」


「殺人罪と同等の扱いです。刑は死罪ですね」


「ええ?! マジかよ?! じゃあ俺、死刑になるの?!」


「……いえ……蓮さまの場合『盗んだ』という事自体、立証できないのではないのでしょうか……」


「どういうこと?」


「蓮さまの場合……奴隷を盗んだのではなく、ただ雇用しただけです。そして……その瞬間に隷属の紋が無くなります……それは奴隷であった証の消去……つまり盗むも何も、奴隷であった証拠が無くなるんです」


「え? でも何か書類とか記録には残るんじゃないの?」


「隷属の紋は教会が行う非常に強力かつ、一度刻まれれば二度と消えることのない術式です。そしてその形は『命の烙印』とも呼ばれています。本来、隷属の紋が消えることなど絶対にあり得ないんです。消えるとすれば、命の炎が消えるとき……つまり死ぬ時だけです」


「命の烙印……消えるはずのない証……」


「だから逆に言えば、それが無いという事は『奴隷ではない』という何よりの証明です。それほど隷属の紋は魔法としても法的にも強いものなんですが……大狸商店街の隷属の上書きは……非常にまれなケース……というより、初めてのケースかもしれませんね。聞いたことがありませんもの、奴隷が奴隷でなくなるなんて」



 ソニンとの連携も慎重に行わないと、これはえらいことになるな。



「そして、これが一番の心配事なんですが……私のパーティーが全滅したことは、ギルドも確実に把握しています」


「……なんで?」


「ギルドからのクエストを受けるには、冒険者はギルドにお金を払い登録する必要があります。登録した冒険者は、クエストの成績によってギルド内のランクが上下します。上級になるほど危険な任務ばかりで、ほとんどがパーティーを組んでいますね」


「なるほどねぇ」


「そしてギルドは、パーティーにクエストを発注する際、魔力を込めた札を渡します」


「札?」


「ええ。その札はパーティーが生存していること、つまりクエストの最中であることを、ギルドに報せ続ける仕組みになっています」


「発信機みたいなものか」


「はい。札は所有者の微力な魔力で動くのですが、48時間、所有者からの魔力が付加されないと、クエストは失敗、つまり所有者は死亡した、とみなされるんです」


「え、いきなり死亡扱い? もしかしたら、何かのトラブルで札が身体から離れたりとか、紛失したとかあるんじゃないの?」


「一切認められません。失敗・死亡の手続きは即時行われ、ギルドへの登録は抹消されます」


「うわ……厳しいな」


「もし仮に蓮さまが仰ったように、何らかのトラブルでそうなった場合は、再登録は認められています。ですが、ランクは振りだしのFからになってしまいますし、再登録の際はペナルティとして、前回登録時の倍の登録料を払わなくてはなりません」


「登録料っていくらなの?」


「金貨3枚ほどですね」



 げっ! 日本円で30万……かなり高額だな……それで再登録料が6枚か……60万……高いな!



「そしてここで問題なのですが、私はギルドから補助奴隷としてパーティーに同行していました。そしてクエストの最中はパーティーのメンバーを主人として仕えなければなりません。蓮さまと出会った時にも申しましたが、奴隷は自分の命を投げうってでも主人を守らなければなりません。生き残ること自体が罪なんです。ですから、もしギルドが私の生存を確認したら……その辺りの事も不安なんです」


「突っ込まれる可能性があるって事か……その件、ばあちゃんがめっちゃ怒ってたね」



 ――「今も怒っとるばい」――



「うわ! ばあちゃん! 起きてたのか?!」


「本当、ふざけた法律ばい。いいね蓮ちゃん? 絶対にこの制度は許したらいかんばい。私たちでぶっ壊します」


「あ、ああ」


「それはそうと……」



 ばあちゃんが小麦の山に目をやり身震いする。



「蓮ちゃん……」


「ああ、ばあちゃん、みなまで言うな。分かってる。ヴィヴィ……なんかファクタとかノルドクシュとかいろいろあるが、今はそれどころじゃない……!」


「ええ?! そ、それどころじゃないって……結構シリアスな問題じゃ……」


「ああ……確かに今、大狸商店街は外交面で重要な時期であると言えるだろう……だが、そんなシリアス……今は……いらん! この小麦を前にシリアスな問題など、全くもって不要!!! ヴィヴィ、これからお前に、今までで最も重要な仕事を頼むぞ……なぁ、ばあちゃん!!!」


「そうばい……これ以上大切なことがあるとは思えんばい……」



 ――ザッ……ビシィッ!!!



 俺とばあちゃんはこれ以上ないくらい背筋を伸ばし、ヴィヴィの前に足を揃えた。



「ヴィヴィ……この小麦で……」


 ――「俺に」「私に」――



 ――ゴオッ!!!



 俺とばあちゃんは風切り音が聞こえるほど、腰を直角に曲げヴィヴィに頭を下げた。



 ――「「ラーメンを作ってください!!!……ください……さい……」」――



 ホシノエに切実なこだまと共に、綺麗な直角が二つ描かれた。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ