055 救済活動(1)~旅立ちと人をやめたばあちゃん~
――「コロッケックォー! コケックオッカー!」――
ヴィヴィ食堂で飼っている鶏的な魔物が、鶏冠を揺らしながら……コロッケか苔か食べたげに朝を告げる。
今日はいよいよ――
救済活動、旅立ちの日!
「本当は私も同行したいのだが……街の事もあるからな」
「うん。俺たちが留守の間、頼むよ、サリサ」
「ああ。しかしこのパーティ……本当に大丈夫か……?」
身支度を終えた俺たちを前に、サリサはそわそわと落ち着かない様子だ。
「おい! 伊織、昨日はちゃんと寝たか?! お前が主戦力だからな! ちゃんとみんなを守るんだぞ! 特にヒーゴ王! 他の連中は……割とどうでもいいが、ヒーゴ王に傷一つ付けるなよ!」
割とどうでもいい――ッ?!
さらっととんでもない事言うな……サリサのやつ。
「ちゃんと寝たばい、調子はいいばい。サリちゃん」
「そうか……あ! ヴィヴィ、携行食は持ったか?!」
「大丈夫です。食料はその都度、狩りもしますので十分です」
「そうだな……それがいい……あ、そうだ! アポロ、伊織からくさ汁の瓶詰めは貰ったか?!」
「くさ汁ポーション、ちゃんと5個携帯してます」
「うん……使ったら即補充しろ。伊織が回復を行えない場合、お前がサブで回復を担うんだ。そうする事でパーティーの生存率が格段に上がる」
それ――
昨日すでに十分確認したことなんだけど……
相当心配してるな。
「おい、蓮、水を見つけてもいきなり飲むなよ! まず神水で浄めてから飲まないとお腹壊すぞ!」
「わ、分かってるよ! 俺は子供か! そんな心配すんなって」
「そうか……そうだな。あ、ヒーゴ王! 森の中ではパーティーから絶対に離れない様にしてください。あなたに何かあったら大変なことになります!」
「うん、分かったの。ちゃんとみんなについていくよ」
「よろしくお願いします……あとは、あとは……」
「おい……サリサ……もういい加減に――」
「あ! ヴィヴィ、携行食は――」
――「「「「 も う い い っ て !!! 」」」」――
お前は初めてのお使いに子供を送り出すお母さんかよ……
「よし……準備は万端……」
サリサの発案で、大狸商店街の人々が総出で俺たちを見送ってくれることになった。
「じゃあ、みんな……行ってきます!」
――「「「行ってらっしゃいませ~~~!!!」」」――
住人たちが手を振り、笑顔で送り出してくれる。
その中には、手作りの旗を振る子供たちの姿もあった。
ディアナも一緒だ。
よかった……同世代の友達も出来たみたいだな。
「アポロお兄ちゃん! 頑張ってね!」
「ま、任せろ! ふんッ!」
アポロのやつ……妹に良いところを見せられたみたいで、少し興奮しているな。
「アポロくん! 気をつけてね!」
「すごいやすごいや! 救い主さまと同じパーティーなんて!」
「帰ったらお話聞かせてね!」
「お、おうよ!」
へえ……割と他の子供たちに人気あるんだな。
――バシッ! バシバシッ!!
子供たちが手作りの旗を振り回し、アポロの頭をはたいている。
「いて……へへ……やめろって……いててて……」
――バシバシバシッ!!!
「へへ……痛いって……やめ……やめろっ!!!」
……人気あるのか? いじられ体質なのか?
旗には、サリサがデザインした、ばあちゃんの巫女装束と同じ『狐と蔦の紋』が描いてある。
さすが救い主……絶大な人気だ。
しかし――
サリサ曰く、この難民の中に紛れて各国のスパイがいるらしい。
カリスとタリナが見送る人々の中に不審な者がいないか、つねに眼を光らせている。
「おい……そこ……列を乱すでないぞ……」
「不審な動きを見せてみろ……吊るすからな」
――「「「は……はい~……」」」――
このお見送り自体……スパイをあぶり出す機会として、サリサは利用しているのかもしれない。
にしても……相変わらずあの二人は恐ろし過ぎて、目立ち過ぎる……
逆にスパイが警戒するんじゃないか?
カリスとタリナの傍らにはローニャがいた。
「れ~ん! 伊織ちゃ~ん! こっちだよ~!」
彼女の素性は……商店街の代表たち以外には伝えてない。
魔族であるローニャが街にいるとなると、混乱を招く恐れがあるからだ。
念のため、背中の蝙蝠の様な羽はマントで隠してある。
白を基調とした可愛らしいマントをサリサが作ってくれた。
――『な ん で わ た し が ! こいつの服を作らなきゃ……な ら な い ん だ !』――
と最初は嫌がっていたが、結局最後は……
――『いや……待てよ……ここには金の糸で刺繍を入れた方が絶対に可愛い! そうだ……赤の花飾りもいいかもしれん!』――
いかに可愛いマントを作れるか楽しんでいた。
本当に……面倒見のいいやつだ。
「れ~ん! 伊織ちゃ~ん!」
「こら! ローニャ!」
ローニャがカリスとタリナの隙を見て駆け寄り、その勢いでばあちゃんに飛びついた。
ばあちゃんは反射的に彼女を抱きかかえる形になった。
「わへ! おとと……」
「おい! ローニャ! ばあちゃんに、いきなり飛びつくな! 腰をいわす!」
チエちゃんの助言で、ローニャの主食である魔力はばあちゃんが分け与えることになった。
魔力保有量が多いばあちゃんがわけるのが無難だろうとの判断だ。
俺の魔力量じゃ吸われた途端……行動不能になってしまう。
幼女の姿をしているとはいえ、齢千を超える大サキュバス……そんなのばあちゃん以外、相手に出来ない。
以降――ローニャはばあちゃんにべったりとなった。
「れん、伊織ちゃんの事、よろしくね~。絶対に無理させちゃ駄目だぢゅぢゅぢゅ~~~」
「あががが! ローニャちゃん、くしゅぐったい~」
とか言いつつ、ローニャはばあちゃんの魔力をガンガンに吸い取っていた。
食い溜めか……お前が今、一番無理させてるぞ。
お腹……赤ちゃん猫みたいにパンパンじゃないか!
「おいローニャ! 勝手に動くでない! うぬ?! お、お前! 吸い過ぎだ!」
カリスがすぐさまローニャを引き剥がし、連れ戻した。
「伊織ちゃ~ん! 無理しちゃ駄目だよ~! 絶対帰ってきてね~! げぷぅ~」
異様な懐きようだな……
余程ばあちゃんの魔力が美味いんだろう。
しかしなんだろう……この既視感……
前にもこんなことがあったような……
――妹……?
ふとローニャの姿が自分の妹のように感じた。
変だな……俺に妹なんていないのに……
「はは。大丈夫だよ、ローニャ! ばあちゃんには俺がついてる!」
「さ! 蓮ちゃん! 行こうかね!」
「おう! それじゃあ……」
――「「「行ってきます!!!」」」――
◇ ◇ ◇
俺たちはまず――
森の南西部にあるウォルフたち『犬狼族の集落』へ向かう。
その後、南東部のドンガたち『猪族の集落』を訪れる予定だ。
犬狼族の集落は、商店街から南に歩いて2日ほどの場所にある。
――『伊織さま、蓮さま……私共、竜人族の集落にも救いの手を……』――
――『北西にある、ゴミ街にも、ここと同じような設備があれば……』――
救済活動が決まってから、他の種族からも支援の申し出があったが……
犬狼族と猪族の集落を優先することにした。
ウォルフとドンガが最初に申し出たことも理由の一つだが、アクセスのしやすさも大きな要因だ。
ツクシャナの森の南部には、クマロク王国が位置し、ドワーフたちが道を拓いているため、この南部は比較的訪れやすい。
ばあちゃんの『くさ矢間伐』も、この道を中心に行っていた。
この道は、俺たちの間で『クマロク街道』と呼ばれるようになった。
まあ、街道とは言ったものの、道幅が広いのは稲荷神社の加護効果が強い半径1キロ圏内まで。
それ以降の道幅は1~2メートル程度まで狭まり、どちらかというと林道や獣道に近い感じだ。
「な~んか……道幅が狭くなってきたばい……」
「そうだの~。ワシらドワーフには十分じゃが、他の種族には、ちと狭いかもの」
街道のすぐ脇には、魔物が潜む見通しの悪い森が広がっている。
油断は出来ない状態だった。
「やっぱり加護の外に出ると、ちょっと怖いですね。魔物も強くなってきますし」
ヴィヴィが耳を倒して辺りを窺いながら歩く。
「そうだな。強い魔物がいる中じゃ、ドワーフたちも十分に道を拓けないんだろう……みんな、気を付けてね!」
――「「「はい!」」」――
ん? アポロの声がしない。
後ろの方をみると、少し遅れた場所でアポロが何かしていた。
「アポロ! 何してんだ? パーティーから離れるな! 危ないぞ!」
「は、は~い! すぐ戻ります!」
アポロは何やら木に向かって手を合わし、すぐに合流した。
「何してたの? なんか拝んでたみたいだったけど……」
「いや、万が一に備えて、目印を残そうと思いまして……これを」
そういってアポロは、狐の形をした折り紙を見せてくれた。
「これって……あ、江藤書店のしおりか!」
「はい。もし道に迷った時の為に、一定の間隔で木に吊るしてます」
「え、でもマッピングはチエちゃんがやってくれてるだろ?」
「いや、俺ら従業員はチエさんと念話出来ますけど……他の人たちは出来ないから。もし道に迷った人がいたら、これあったら助かるかな~って思いまして」
確かに……森で傷ついたり迷った人達にとっては、分かりやすい目印があると有難いだろうな。
「それに、これ狐の形じゃないですか。だから稲荷神さまのご利益もあるかなぁ~、なんて……へへ」
《素晴らしい! アポロさま! 素晴らしい心がけです! このチエ、感動いたしました!》
「はぁ~ん! アポちゃんは優しか子ばい~。ほんと小さい頃の蓮ちゃん見とるみたい。なんか嬉しくてばあちゃん元気が出てきたばい!」
「いや……このしおり、店が暇すぎて引くほど余ってたので……どうせなら、こんな形で処分しようと」
「処分!? アポちゃん~そりゃないばい~!」
――「「「あははは」」」――
と、呑気に笑っていられたのは、ここまでだった。
これ以降、段階的に加護の力が弱まり――
――ブモーーー!!!
――ガサガサガサッ!!!
――ガアァァァ!!!
魔物が強くなり、その数も極端に増えていき……
俺たちは連続エンカウント地獄に見舞われる――
「ばあちゃん! 後ろ! シカの魔物! カリブロスだ!」
「はいよう! くさ矢!」
――ドゴーン!
「あわわ! 蓮さま!」「こっちにも熊の魔物が!」
「アポロ! ヴィヴィ! 動くな! 鎖で雷撃をかます! 施錠! 纏雷!」
――ジャラララ……ガキン! バリバリバリッ!!!
「およ~! 蓮どの、凄いの~! なんじゃその魔法! 雷を使えるのかの!」
「ヒーゴ王! 危ないですから、あまり寄らないでください! 感電します!」
さすが『死の森』――
次から次へと敵が襲い掛かってくるッ!
くそ! サリサが自警団を引き連れて行くって言ってたのは、こういう意味もあったのか。
パーティーが少数であればあるほど、魔物は狙ってくる。
ドワーフたちが集団でぞろぞろと移動するのは、会敵を減らすためでもあったのか……
「ヴィヴィさま! 危ない! ここは俺が! ぐわ!」
「ああッ! アポロくん!」
「ヒーゴ王! 俺の後ろへ! ぐわッ!!」
「アポロ! よそ見するな!」
「え?! ぐわぁぁぁッ!!!」
魔物たちは明らかに戦闘能力が低いヴィヴィやヒーゴ王を狙ってくる。
アポロが新装備の『ツクシャプロテクター』でドタバタと二人の身代わりをしているので、今のところ助かってはいるが――
「うぅ……蓮さま! 俺、3回ダメージ受けちゃいました! やばいです! 次、攻撃受けたら……俺……死にますぅぅぅ!!!」
少数パーティーにしたの……
判断ミスったか? これ……
「蓮ちゃん……これ、キリがないばい……もう、くさ神輿でみんな背負って進んだ方が早いばい!」
「はぁ?! みんな背負ってって……魔力、持つのか?」
「大丈夫! ばあちゃんに任せんしゃい! いくばい! ほあぁぁぁぁ……くさ神輿ッ!!!」
――バキバキ! シュルルル!
ばあちゃんは、俺たち全員を『くさ神輿』に乗せ――
――ガサ、ガサ、ガササササ!
『くさ足』で這いまわり――
「へははぁ! 道ば、あけんしゃい~!!!」
出てくる魔物を片っ端から『くさ矢』で蹴散らしていった。
――シュゴゴウ……ドドドドガン――ッ!!!
「こ、これが主様の力……まじ半端ねぇっす! なあ、ドンガ!」
「ああ、ウォルフ……俺っちたち……とんでもねぇお方に頼み事したかもしんねえでやす」
ウォルフとドンガは神輿の上から終始、ばあちゃんに手を合わせ拝んでいた。
マンイーターと戦ってからというもの……ばあちゃんの力がどんどん凄まじくなっていく……
ばあちゃん木属性だからな……マンイーターの戦い方との相性の良さが半端ない。
だが、ばあちゃんはどうやら納得がいかないらしく――
「ん~……ばってん……こりゃいかんばい……なんぼ襲い掛かってくるっち言うたかて『一寸の虫にも五分の魂』っち言うもんねぇ。食べるわけじゃないし……出来るだけ殺さんようにしたいねぇ」
そういうと、ばあちゃんは『くさ矢』の先端に――
「あ! そうやん! あのマンイーターの甘い匂いの痺れるやつ……やってみようかね!」
マンイーターの麻痺毒が詰め込まれた蕾を『鏑矢』のようにくっつけ――
――シュシュシュン……ボヒュボヒュボン!
迫りくる魔物たちを殺すことなく、完全に無力化し始めた。
「安心せい……みねうちじゃ……なんつって! へはーーーッ! 私、かっこよ!」
(チエちゃん、これラ〇ボーが弓矢でやってたやつだよね?)
《ええ。グレネードアローと言ったところでしょうか。しかしこれなら、無駄な殺生をせずにすみます。素晴らしい判断です! 伊織さま!》
―― 森の主 ――
サリサが言っていた通り……
ばあちゃんは完全にツクシャナの森を支配していた。
――ボボボボヒュンッ!!!
もう、これ……
俺たち戦う必要ないじゃん。
「へはぁ~ははッ! 私ッ! 無双ッ!」
この日、ばあちゃんは人をやめて……
「くさ神輿、改め――『くさ戦艦・伊織』ばい~~~!!! うへぇははぁ~~~!!!」
戦艦となった。




