表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/144

055 救済活動(1)~旅立ちと人をやめたばあちゃん~

 ――「コロッケックォー! コケックオッカー!」――



 ヴィヴィ食堂で飼っている鶏的な魔物が、鶏冠(とさか)を揺らしながら、コロッケか(こけ)か食べたげに朝を告げる。


 今日はいよいよ、救済活動、旅立ちの日。



「伊織、昨日はちゃんと寝たか?! お前が主戦力だからな!」


「ちゃんと寝たばい、調子はいいばい。サリちゃん」


「ヴィヴィ、携行食は持ったか?!」


「大丈夫です。食料はその都度、狩りもしますので十分です」


「アポロ、伊織からくさ汁の瓶詰めは貰ったか?!」


「くさ汁ポーション、ちゃんと5個携帯してます」


「蓮、水を見つけてもいきなり飲むなよ! まず神水(じんすい)で浄めてから飲まないとお腹壊すぞ!」


「分かってるよ。サリサ、そんなに心配すんなって」


「ヒーゴ王、森の中ではパーティーから絶対に離れない様にしてください。あなたに何かあったら大変なことになります!」


「うん、分かったの。ちゃんとみんなについていくよ」


「よろしくお願いします……あとは、あとは……」


「おい……サリサ――」


「あ! ヴィヴィ、携行食は――」



 ――「「「「もういいって!!!」」」」――



 旅立つ前のサリサが、完全にお母さんみたいだ。


 

「じゃあ、みんな、行ってきます!」


 ――「「「行ってらっしゃいませ~~~!!!」」」――



 サリサの発案で、俺たちの出発は大狸商店街にいる人々、全員を集め、見送ってくれることになった。


 住人たちが手を振り、笑顔で送り出してくれる。その中には、手作りの旗を振る子供たちの姿もあった。ディアナも一緒だ。よかった、友達も出来たみたいだな。


 旗には、サリサがデザインした、ばあちゃんの巫女服と同じ、狐と蔦の紋が描いてある。さすが救い主……絶大な人気だ。


 しかし――サリサ曰く、この難民の中に紛れて、各国のスパイがいるらしい。カリスとタリナが見送る人々の中に不審な者がいないか、つねに眼を光らせている。


 その傍らにはローニャがいる。彼女の事は商店街の代表たち以外には伝えてない。魔族であるローニャが街にいるとなると、混乱を招く恐れがあるからだ。


 念のため、背中の蝙蝠(こうもり)の様な羽はマントで隠してある。白を基調とした可愛らしいマントをサリサが作ってくれた。



『――なんで私が! こいつの服を作らなきゃならないんだ!――』



 と最初は嫌がっていたが……



『――いや! ここには金の糸で刺繍(ししゅう)を入れた方が絶対に可愛い! 赤の花飾りもいいかもしれん!――』



 結局最後には、いかに可愛いマントを作れるか楽しんでいた。本当に面倒見のいいやつだ。



「れ~ん! 伊織ちゃ~ん!」


「こら! ローニャ!」



 ローニャがカリスとタリナの隙を見て駆け寄り、その勢いでばあちゃんに飛びついた。ばあちゃんは反射的に彼女を抱きかかえる形になった。



「わへ! おとと……」


「おい! ローニャ! ばあちゃんに、いきなり飛びつくな! 腰をいわす!」



 チエちゃんの助言で、ローニャの主食である魔力は、ばあちゃんが分け与えることになった。魔力保有量が多い、ばあちゃんがわけるのが無難だろうとの判断だ。


 俺の魔力量じゃ吸われた途端、行動不能になってしまう。幼女の姿をしているとはいえ、(よわい)千を超える大サキュバス……そんなのばあちゃん以外、相手に出来ない。


 以降、彼女は、ばあちゃんにべったりとなった。



「れん、伊織ちゃんの事、よろしくね~。絶対に無理させちゃ駄目だぢゅぢゅぢゅ~~~」


「あががが! ローニャちゃん、くしゅぐったい~」



 とか言いつつ、ローニャはばあちゃんの魔力をガンガンに吸い取っていた。食い溜めか……お前が今、一番無理させてるぞ。お腹パンパンじゃないか!



「こら! ローニャ! 勝手に動くな! うわ! お前! 吸い過ぎだ!!!」



 カリスがすぐさま、赤ちゃん猫のようにお腹パンパンのローニャを引き剥がし、連れ戻した。



「伊織ちゃ~ん! 無理しちゃ駄目だよ~! 絶対帰ってきてね~! げぷぅ~」



 異様な懐きようだな。余程ばあちゃんの魔力が美味いんだろう。しかしなんだろう……この既視感……前にもこんなことがあったような。


 妹……ふとローニャの姿が自分の妹の様に感じた。


 変だな……俺に妹なんていないのに……



「はは。大丈夫だよ、ローニャ! ばあちゃんには俺がついてる!」


「さ! 蓮ちゃん! 行こうかね!」


「おう! それじゃあ……」



 ――「「「行ってきます!!!」」」――




 ◇     ◇     ◇




 俺たちはまず、森の南西部にあるウォルフたち犬狼族の集落へ向かい、その後、南東部のドンガたち猪族の集落を訪れる予定だ。


 犬狼族の集落は、商店街から歩いて2日ほどの場所にある。



『――伊織さま、蓮さま……私共、竜人族の集落にも救いの手を……――』


『――北西にある、ゴミ街にも、ここと同じような設備があれば……――』



 救済活動が決まってから、他の種族からも支援の申し出があったが、犬狼族と猪族の集落を優先することにした。ウォルフとドンガが最初に申し出たことも理由の一つだが、アクセスのしやすさも大きな要因だ。


 ツクシャナの森の南部には、クマロク王国が位置し、ドワーフたちが道を拓いているため、この地域は比較的訪れやすい。ばあちゃんの『くさ矢間伐』も、この道を中心に行っていた。


 この道は、俺たちの間で『クマロク街道』と呼ばれている。


 まあ、クマロク街道とは言ったものの、道幅が広いのは稲荷神社の加護が強い1キロ範囲まで。それ以降の道幅は1~2メートル程度まで狭まり、どちらかというと林道や獣道に近い感覚だ。



「な~んか道幅が狭くなってきたばい~」


「そうだの~。ワシらドワーフには十分じゃが、他の種族には、ちと狭いかもの」



 小柄なドワーフたちには十分な広さだろうが、すぐ脇には魔物のいる見通しの悪い森……油断は出来ない状態だった。



「やっぱり加護の外に出ると、ちょっと怖いですね。魔物も強くなってきますし」とヴィヴィが耳を倒して辺りを伺いながら歩く。


「そうだな。強い魔物がいる中じゃ、ドワーフたちも十分に道を拓けないんだろう。みんな、気を付けてね!」



 ――「「「はい!」」」――



 ん? アポロの声がしない。後ろの方をみると、少し遅れた場所でアポロが何かしていた。



「アポロ! 何してんだ? パーティーから離れるな! 危ないぞ!」


「は、は~い! すぐ戻ります!」



 アポロはそう言って、何やら木に向かって手を合わし、すぐに合流した。



「何してたの? なんか拝んでたみたいだったけど……」


「いや、万が一のため、目印をと思いまして、これを」



 そういってアポロは、狐の形をした折り紙を見せてくれた。



「これって……あ、江藤書店のしおりか!」


「はい。もし道に迷った時の為に、一定の間隔で木に吊るしてます」


「え、でもマッピングはチエちゃんがやってくれてるだろ?」


「いや、俺ら従業員はチエさんと念話出来ますけど、他の人たちは出来ないから。もし道に迷った人がいたら、これあったら助かるかなって」



 確かに……森で傷ついたり迷った人達にとっては、めちゃくちゃ有難いだろうな。



「それに、これ狐の形じゃないですか。だから稲荷神さまのご利益もあるかなぁ~、なんて」


《素晴らしい! アポロさま! 素晴らしい心がけです! このチエ、感動いたしました!》


「はぁ~ん! アポちゃんは優しか子ばい~。ほんと小さい頃の蓮ちゃん見とるみたい。なんか嬉しくてばあちゃん元気が出てきたばい!」


「いや、このしおり、店が暇すぎて引くほど余ってたので、どうせなら、こんな形で処分しようと」


「処分!? アポちゃん~そりゃないばい~!」



 ――「「「あははは」」」――



 と、笑っていられたのは、ここまで……


 これ以降、加護の力が弱まり、魔物の強さ、多さが極端に増え、俺たちは連続エンカウント地獄に見舞われる――




「ばあちゃん! 後ろ! シカの魔物! カリブロスだ!」


「はいよう! くさ矢!」



 ――ドゴーン!



「あわわ! 蓮さま!」「こっちにも熊の魔物が!」


「アポロ! ヴィヴィ! 動くな! 鎖で雷撃をかます! 施錠(ロック)! 纏雷(てんらい)!」



 ――ジャラララ……ガキン! バリバリバリ!!!



「およ~! 蓮どの、凄いの~! なんじゃその魔法! 雷を使えるのかの!」


「ヒーゴ王! 危ないですから、あまり寄らないでください! 感電します!」



 さすが『死の森』……次から次へと敵が襲い掛かってくる!


 くそ! サリサが自警団を引き連れて行くって言ってたのは、こういう意味もあったのか。パーティーが少数であればあるほど、魔物は狙ってくる。ドワーフたちが集団でぞろぞろ移動するは、会敵を減らすため……



「ヴィヴィさま! 危ない! ぐわ!」「アポロ!」

「ヒーゴ王! 後ろへ! ぐわ!」「アポロくん!」

「アポロ! よそ見するな!」「え? ぐわ!」


「うう……蓮さま! 俺、三回ダメージ受けちゃいました! やばいです! 次攻撃受けたら……死にます!」



 魔物たちは明らかに、戦闘能力が低いヴィヴィやヒーゴ王、アポロを狙ってくる。アポロが新装備でドタバタと身代わりをしているので、助かってるが……少数パーティー……判断ミスったか、これ……



「蓮ちゃん……これ、キリがないばい……もう、くさ神輿でみんな背負って進んだ方が早いばい!」


「みんな背負ってって……魔力、持つのか?」


「大丈夫! ばあちゃんに任せんしゃい! いくばい! くさ神輿!」



 ――バキバキ! シュルルル! ガサ、ガサ、ガササササ!



 ばあちゃんは、俺たち全員を『くさ手』で作った(かご)に乗せ『くさ足』で這いまわり、出てくる魔物を片っ端から、『くさ矢』で瞬殺していった。



 「へははぁ! 道ば、あけんしゃい~!!! くらえ! 連続多弾くさ矢!」



 ――シュゴゴウ……ドドドドカン!!!



「こ、これが主様の力……まじ半端ねぇっす! なあ、ドンガ!」


「ああ、俺っちたち、とんでもねぇ人に、頼み事したかもしんねえでやす」



 ウォルフとドンガは終始、ばあちゃんに手を合わせ拝んでいた。


 そしてさらに、ばあちゃんは『くさ矢』の先端に、マンイーターの麻痺毒が詰め込まれた蕾を鏑矢のようにくっつけ、迫りくる魔物たちを殺すことなく、完全に無力化し始めた。



 ――シュシュシュン……ボヒュボヒュボン!



「安心せい……みねうちじゃ……なんつって!」


(チエちゃん、これラ〇ボーが弓矢でやってたやつだよね?)


《ええ。グレネードアローと言ったところでしょうか。しかしこれなら、無駄な殺生をせずにすみます。素晴らしい判断です! 伊織さま!》



 森の主……ばあちゃんは完全にツクシャナの森を支配していた。


 もう、これ、俺たち戦う必要ないじゃん。



「へはぁ~はは! 私! 無双! 『くさ戦艦・伊織』ばい~!!」



 この日、ばあちゃんは人をやめ……



「うへぇははぁ~~~!!!」



 戦艦となった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ