055 救済活動(1)~旅立ちと人をやめたばあちゃん~
――「コロッケックォー! コケックオッカー!」――
ヴィヴィ食堂で飼っている鶏的な魔物が、鶏冠を揺らしながら、コロッケか苔か食べたげに朝を告げる。
今日はいよいよ、救済活動、旅立ちの日。
「伊織、昨日はちゃんと寝たか?! お前が主戦力だからな!」
「ちゃんと寝たばい、調子はいいばい。サリちゃん」
「ヴィヴィ、携行食は持ったか?!」
「大丈夫です。食料はその都度、狩りもしますので十分です」
「アポロ、伊織からくさ汁の瓶詰めは貰ったか?!」
「くさ汁ポーション、ちゃんと5個携帯してます」
「蓮、水を見つけてもいきなり飲むなよ! まず神水で浄めてから飲まないとお腹壊すぞ!」
「分かってるよ。サリサ、そんなに心配すんなって」
「ヒーゴ王、森の中ではパーティーから絶対に離れない様にしてください。あなたに何かあったら大変なことになります!」
「うん、分かったの。ちゃんとみんなについていくよ」
「よろしくお願いします……あとは、あとは……」
「おい……サリサ――」
「あ! ヴィヴィ、携行食は――」
――「「「「もういいって!!!」」」」――
旅立つ前のサリサが、完全にお母さんみたいだ。
「じゃあ、みんな、行ってきます!」
――「「「行ってらっしゃいませ~~~!!!」」」――
サリサの発案で、俺たちの出発は大狸商店街にいる人々、全員を集め、見送ってくれることになった。
住人たちが手を振り、笑顔で送り出してくれる。その中には、手作りの旗を振る子供たちの姿もあった。ディアナも一緒だ。よかった、友達も出来たみたいだな。
旗には、サリサがデザインした、ばあちゃんの巫女服と同じ、狐と蔦の紋が描いてある。さすが救い主……絶大な人気だ。
しかし――サリサ曰く、この難民の中に紛れて、各国のスパイがいるらしい。カリスとタリナが見送る人々の中に不審な者がいないか、つねに眼を光らせている。
その傍らにはローニャがいる。彼女の事は商店街の代表たち以外には伝えてない。魔族であるローニャが街にいるとなると、混乱を招く恐れがあるからだ。
念のため、背中の蝙蝠の様な羽はマントで隠してある。白を基調とした可愛らしいマントをサリサが作ってくれた。
『――なんで私が! こいつの服を作らなきゃならないんだ!――』
と最初は嫌がっていたが……
『――いや! ここには金の糸で刺繍を入れた方が絶対に可愛い! 赤の花飾りもいいかもしれん!――』
結局最後には、いかに可愛いマントを作れるか楽しんでいた。本当に面倒見のいいやつだ。
「れ~ん! 伊織ちゃ~ん!」
「こら! ローニャ!」
ローニャがカリスとタリナの隙を見て駆け寄り、その勢いでばあちゃんに飛びついた。ばあちゃんは反射的に彼女を抱きかかえる形になった。
「わへ! おとと……」
「おい! ローニャ! ばあちゃんに、いきなり飛びつくな! 腰をいわす!」
チエちゃんの助言で、ローニャの主食である魔力は、ばあちゃんが分け与えることになった。魔力保有量が多い、ばあちゃんがわけるのが無難だろうとの判断だ。
俺の魔力量じゃ吸われた途端、行動不能になってしまう。幼女の姿をしているとはいえ、齢千を超える大サキュバス……そんなのばあちゃん以外、相手に出来ない。
以降、彼女は、ばあちゃんにべったりとなった。
「れん、伊織ちゃんの事、よろしくね~。絶対に無理させちゃ駄目だぢゅぢゅぢゅ~~~」
「あががが! ローニャちゃん、くしゅぐったい~」
とか言いつつ、ローニャはばあちゃんの魔力をガンガンに吸い取っていた。食い溜めか……お前が今、一番無理させてるぞ。お腹パンパンじゃないか!
「こら! ローニャ! 勝手に動くな! うわ! お前! 吸い過ぎだ!!!」
カリスがすぐさま、赤ちゃん猫のようにお腹パンパンのローニャを引き剥がし、連れ戻した。
「伊織ちゃ~ん! 無理しちゃ駄目だよ~! 絶対帰ってきてね~! げぷぅ~」
異様な懐きようだな。余程ばあちゃんの魔力が美味いんだろう。しかしなんだろう……この既視感……前にもこんなことがあったような。
妹……ふとローニャの姿が自分の妹の様に感じた。
変だな……俺に妹なんていないのに……
「はは。大丈夫だよ、ローニャ! ばあちゃんには俺がついてる!」
「さ! 蓮ちゃん! 行こうかね!」
「おう! それじゃあ……」
――「「「行ってきます!!!」」」――
◇ ◇ ◇
俺たちはまず、森の南西部にあるウォルフたち犬狼族の集落へ向かい、その後、南東部のドンガたち猪族の集落を訪れる予定だ。
犬狼族の集落は、商店街から歩いて2日ほどの場所にある。
『――伊織さま、蓮さま……私共、竜人族の集落にも救いの手を……――』
『――北西にある、ゴミ街にも、ここと同じような設備があれば……――』
救済活動が決まってから、他の種族からも支援の申し出があったが、犬狼族と猪族の集落を優先することにした。ウォルフとドンガが最初に申し出たことも理由の一つだが、アクセスのしやすさも大きな要因だ。
ツクシャナの森の南部には、クマロク王国が位置し、ドワーフたちが道を拓いているため、この地域は比較的訪れやすい。ばあちゃんの『くさ矢間伐』も、この道を中心に行っていた。
この道は、俺たちの間で『クマロク街道』と呼ばれている。
まあ、クマロク街道とは言ったものの、道幅が広いのは稲荷神社の加護が強い1キロ範囲まで。それ以降の道幅は1~2メートル程度まで狭まり、どちらかというと林道や獣道に近い感覚だ。
「な~んか道幅が狭くなってきたばい~」
「そうだの~。ワシらドワーフには十分じゃが、他の種族には、ちと狭いかもの」
小柄なドワーフたちには十分な広さだろうが、すぐ脇には魔物のいる見通しの悪い森……油断は出来ない状態だった。
「やっぱり加護の外に出ると、ちょっと怖いですね。魔物も強くなってきますし」とヴィヴィが耳を倒して辺りを伺いながら歩く。
「そうだな。強い魔物がいる中じゃ、ドワーフたちも十分に道を拓けないんだろう。みんな、気を付けてね!」
――「「「はい!」」」――
ん? アポロの声がしない。後ろの方をみると、少し遅れた場所でアポロが何かしていた。
「アポロ! 何してんだ? パーティーから離れるな! 危ないぞ!」
「は、は~い! すぐ戻ります!」
アポロはそう言って、何やら木に向かって手を合わし、すぐに合流した。
「何してたの? なんか拝んでたみたいだったけど……」
「いや、万が一のため、目印をと思いまして、これを」
そういってアポロは、狐の形をした折り紙を見せてくれた。
「これって……あ、江藤書店のしおりか!」
「はい。もし道に迷った時の為に、一定の間隔で木に吊るしてます」
「え、でもマッピングはチエちゃんがやってくれてるだろ?」
「いや、俺ら従業員はチエさんと念話出来ますけど、他の人たちは出来ないから。もし道に迷った人がいたら、これあったら助かるかなって」
確かに……森で傷ついたり迷った人達にとっては、めちゃくちゃ有難いだろうな。
「それに、これ狐の形じゃないですか。だから稲荷神さまのご利益もあるかなぁ~、なんて」
《素晴らしい! アポロさま! 素晴らしい心がけです! このチエ、感動いたしました!》
「はぁ~ん! アポちゃんは優しか子ばい~。ほんと小さい頃の蓮ちゃん見とるみたい。なんか嬉しくてばあちゃん元気が出てきたばい!」
「いや、このしおり、店が暇すぎて引くほど余ってたので、どうせなら、こんな形で処分しようと」
「処分!? アポちゃん~そりゃないばい~!」
――「「「あははは」」」――
と、笑っていられたのは、ここまで……
これ以降、加護の力が弱まり、魔物の強さ、多さが極端に増え、俺たちは連続エンカウント地獄に見舞われる――
「ばあちゃん! 後ろ! シカの魔物! カリブロスだ!」
「はいよう! くさ矢!」
――ドゴーン!
「あわわ! 蓮さま!」「こっちにも熊の魔物が!」
「アポロ! ヴィヴィ! 動くな! 鎖で雷撃をかます! 施錠! 纏雷!」
――ジャラララ……ガキン! バリバリバリ!!!
「およ~! 蓮どの、凄いの~! なんじゃその魔法! 雷を使えるのかの!」
「ヒーゴ王! 危ないですから、あまり寄らないでください! 感電します!」
さすが『死の森』……次から次へと敵が襲い掛かってくる!
くそ! サリサが自警団を引き連れて行くって言ってたのは、こういう意味もあったのか。パーティーが少数であればあるほど、魔物は狙ってくる。ドワーフたちが集団でぞろぞろ移動するは、会敵を減らすため……
「ヴィヴィさま! 危ない! ぐわ!」「アポロ!」
「ヒーゴ王! 後ろへ! ぐわ!」「アポロくん!」
「アポロ! よそ見するな!」「え? ぐわ!」
「うう……蓮さま! 俺、三回ダメージ受けちゃいました! やばいです! 次攻撃受けたら……死にます!」
魔物たちは明らかに、戦闘能力が低いヴィヴィやヒーゴ王、アポロを狙ってくる。アポロが新装備でドタバタと身代わりをしているので、助かってるが……少数パーティー……判断ミスったか、これ……
「蓮ちゃん……これ、キリがないばい……もう、くさ神輿でみんな背負って進んだ方が早いばい!」
「みんな背負ってって……魔力、持つのか?」
「大丈夫! ばあちゃんに任せんしゃい! いくばい! くさ神輿!」
――バキバキ! シュルルル! ガサ、ガサ、ガササササ!
ばあちゃんは、俺たち全員を『くさ手』で作った籠に乗せ『くさ足』で這いまわり、出てくる魔物を片っ端から、『くさ矢』で瞬殺していった。
「へははぁ! 道ば、あけんしゃい~!!! くらえ! 連続多弾くさ矢!」
――シュゴゴウ……ドドドドカン!!!
「こ、これが主様の力……まじ半端ねぇっす! なあ、ドンガ!」
「ああ、俺っちたち、とんでもねぇ人に、頼み事したかもしんねえでやす」
ウォルフとドンガは終始、ばあちゃんに手を合わせ拝んでいた。
そしてさらに、ばあちゃんは『くさ矢』の先端に、マンイーターの麻痺毒が詰め込まれた蕾を鏑矢のようにくっつけ、迫りくる魔物たちを殺すことなく、完全に無力化し始めた。
――シュシュシュン……ボヒュボヒュボン!
「安心せい……みねうちじゃ……なんつって!」
(チエちゃん、これラ〇ボーが弓矢でやってたやつだよね?)
《ええ。グレネードアローと言ったところでしょうか。しかしこれなら、無駄な殺生をせずにすみます。素晴らしい判断です! 伊織さま!》
森の主……ばあちゃんは完全にツクシャナの森を支配していた。
もう、これ、俺たち戦う必要ないじゃん。
「へはぁ~はは! 私! 無双! 『くさ戦艦・伊織』ばい~!!」
この日、ばあちゃんは人をやめ……
「うへぇははぁ~~~!!!」
戦艦となった。




