9.四条ギン
私の名前は四条ギン。
天狼幕府、将軍家指南役。
それは天下無双の武人の称号。
……もはや意味のないものかもしれませんが。
私は極東の天狼幕府の下で生まれました。
幼い頃からひたすら剣の道を走り続けて。
姉妹と一緒に木刀を振るっていたあの頃は、とても幸せでした。
しかし、大きな戦争が起きました。
大エルフ帝国の大侵攻です。
私は必死に戦い続けました。
西の大帝国を支配する、耳長の魔女と――。
気がつけば。
私の姉妹は戦場に散っておりました。
……。
激闘の末、魔女は侵攻を諦めて撤退いたしました。
束の間の平和が訪れたのです。
生き残った私は、天狼幕府に伝わる神刀を譲り受けました。
その名を紅桜。
天狼幕府の宝刀、本来なら将軍様の刀です。
「なぜ、一介の剣士に過ぎない私めにこのような名誉を?」
上座の将軍様は言いました。
「もうそなたより、強き者が残っておらぬ。
どうか私を助けると思って受け取っておくれ」
その言葉は真実でした。
いつの間にか、私よりも強い者はいなくなっていたのです。
最強とは。
最後まで生き残ってしまった、死に損ないの称号。
私はそのように悟ってしまいました。
そして幾年が経ち、また耳長の魔女が攻めてきました。
今度は大軍ではなく精鋭のみで。
先陣を率いるは、滅却の魔女ルニア。
大エルフ帝国の生み出した究極の魔術師です。
――彼女は変わっていました。
金の髪と蒼い瞳。幼い身体に気だるい口調。
到底、強くは見えませんでした。
でもその身に秘めた魔力は、文字通り桁違いでした。
「うへぇ、ウチ……戦いは好きじゃないんだけどな~」
「戯言を」
ルニアの右手には数十の兵を焼き殺す火球。
左手には弾ける稲妻。
大エルフ帝国の天才、至高戦力と呼ばれたのは伊達ではありません。
「本当だよ~。ねぇ、ウチらでサボらない?」
「サムライにサボるという言葉はありません!」
「あーうー。君って真面目だなぁ。
はぁー……しょうがない。戦うか~」
彼女とはそれから何度も戦いました
それこそ、飽きるほどに。
平野で、城塞で、森林で、海上で。
籠城で、攻城で、夜戦で、一騎打ちで。
決着はつきませんでした。
私のそばにいる人間は長くは生きられません。
激しい闘いの中、私ほど運が強くないからです。
あるいは運が強くないのは私のほうかも。
いつしか、私は死に場所を探していました。
ルニアも同じなのでしょう。
私と同じ、死に損ないでした。
……。
いつからか、私は彼女とよく喋るようになっていました。
戦いの中だけ、でしたが。
「また君かぁ~、だるいなー」
「……それはこちらのセリフです」
「ふぁー、それじゃあ、まぁ……やりますかー」
殺しあいではなく、戦い。
正直に言えば彼女との戦いは悪くありませんでした。
ですが加速する戦争と悪化する世界は――決着を求めました。
私と彼女の。
斬りたくはなかった。
でも斬らねばなりません。
聖域すぐの海の上。
私と彼女は最後の決闘を行うことになりました。
「あーあ、結局はこうなっちゃったねー」
「はい」
「聖域決闘の掟に従い、仮死魔術の至宝っと……。
ちゃんと持ってきた?」
「この天の羽衣が、そうです。
抜かりはありません」
「私は仮死魔術が使えるから、まぁ大丈夫だけどね~。
はぁ……なにやってんだろうね、ウチら」
「…………」
「世界から男を減らして、まだ戦争してる。
ウチはさっさと子どもが欲しいだけなのにな~」
「そうですね。子どもが生まれれば……」
「ふーん、やっぱり君も子どもが欲しいんだ?」
この世界で子どもを作るとは、愛ゆえにではありません。
それは義務なのです。
でも、義務で結ばれたくはありません。
もっと素敵な人ならば――。
「これぞと思う人がいれば、当然です」
「あはは、そりゃそうだね~」
こうして私はルニアと戦い、水晶となりました。
……。
それから、私は復活しました。
助けてくれたのは主様です。
彼は不思議な力に包まれていました。
感じたことのない安らぎ。
彼と密着している時、私は本当に穏やかな気持ちでいられたのです。
彼は自分では気がついていないようでした。
自分がどれほど大きな存在なのか。
どれほど優しいのか。
この世界は死にゆく者、死に損ないに優しくありません。
彼は文字通り、私を救ってくれました。
私は海の底で死んでいたのです。
そう、海の中――。
どれだけ水の中にいても溺れないだなんて、恐るべき力です。
東の大陸にはこのような伝説があります。
真なる神の血を引くもの、海の半神は溺れることがない。
あらゆる水を従え、味方にする。
まさに主様は神そのものか、神の末裔ではないでしょうか。
そして無から道具を生み出したり消せたりするなんて。
最初に見たとき、腰を抜かしそうになりました。
神の業に他なりません。
あれほどの力を持ちながら、彼は私を受け入れました。
聖域にいる彼が常人であるはずもなく。
これはきっと運命です。
過酷な戦いの果てに用意された運命だと受け取りました。
……こほん、端的に言いましょう。
胸の高鳴りと熱い血潮。
もしかしたら、これが恋なのかもしれません。
……天狼幕府はどうなったのか。
多分、調べるまでもないのでしょう。
私を助けに来なかった、それが出来なかったということ。
あれからきっと長い時間が経ちました。
もう私の生きてきた国はない。
それ思うことにします。
そして夜。
私は彼のそばに行きました。
熱い胸のうちを見透かされないように。
彼は自制していました。
私に触れないようにしていたのです。
でも、これほどの運命があるでしょうか。
彼は若い男で。
この世界には男がいなくて。
この島はそうした呪いが及ばない楽園で。
我慢する道理も必要性もなく。
咎める者がいるとすれば、神様だけです。
でも彼は言いました。
「……いきなりこんなことは、まずいって」
白状します。
私のほうが我慢できませんでした。
彼のそんな顔を見たら。
至近距離で彼の匂いを浴びたら。
狼の血がかーっと熱くなってしまいました。
反省。
でも彼も乗ってくれたので……。
これは問題なしです。はい。
「にゃうーん」
これが私の物語です、シロ様。
あなたさまも高貴な存在ですよね。
わかります。
魂の気が違いますから。
「……にゃう」
ここでは関係ない、と。
その通りですね。無粋でした。
「にゃーん?」
他の女性が現れたら?
構いません。
この世界では女が男を求めるのは普通のこと。
まして、ここは楽園。
思うように生きていいはずです。
私も飽きられない自信はありますので。
誠心誠意、頑張ります!
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