46.カニカニ
タイミングは完璧だった。ハサミの隙間を縫って、確かな手応えが伝わる。ゴトッと巨大な――俺も挟めそうなハサミが海底に落ちた。
「◯▲■◯〜〜!!!」
オリハルコンクラブが甲殻類特有の無機質な黒い瞳をこちらに向ける。瞳を見ても感情らしいモノは感じられない。あるのはただ、攻撃されたという認識。
「――ッ」
オリハルコンクラブの反応は早かった。残ったもう片方のハサミで俺を掴み取ろうとする。
だけど、遅い。
俺は2本目の銛を生み出していた。つっかえ棒にして、弾く。
「にゃーん!!」
シロちゃんが猛然と泳いできて、カニの出っ張った眼に猫キックを食らわせる。
「▲◯▲〜〜!!」
眼は急所とよく言ったもの。いくら巨体でも眼に攻撃を受けては怯むだろう。
ハサミから力が抜け、オリハルコンクラブが眼の辺りをハサミで擦ろうとする。まぁ、そうだよな。目の中にゴミが来たら、反射的にそうする。
賢いシロちゃんはちゃんとそれを予期していた。ひらりと水を蹴って、背の甲羅側に身を翻してハサミを避ける。
その瞬間、オリハルコンクラブの腹部ががら空きになった。
「今だっ!!」
銛を構え直し、突進する。この一年、海にも潜り続けて何百回も銛を扱ってきた経験が活きた。
水流の中でもまっすぐに。
一意専心。許せ――。
グサッと腹部の中心に銛が突き刺さる。どんな魚でも貫く銛を押し込むと、オリハルコンクラブがこちらを一瞬向いて……そのまま動かなくなった。
「……仕留めたな」
「にゃう」
シロちゃんが俺の顔元に来て、すりすりとしてくれる。
「無事だよな?」
「にゃう!」
びしっとシロちゃんが足裏を見せてくれる。ぷにっとした肉球は傷ひとつない。確認がてら、ついでに揉んでおこう。ぷに。
シロちゃんの確認も終わり、獲物を見渡す。
今までで最大級の捕物だった。
命に感謝を。手を合わせ、拝む。
「ふぅ……」
そしてぐっと拳を握る。伝説のオリハルコンクラブをとったどー!
これで特大のカニパーティーだ!
さて。
俺は馬鹿だった。
「にゃーん……」
シロちゃんもしょぼんとしている。
なぜか?
オリハルコンクラブがデカすぎるのだ。ワゴン車サイズなのは正しい。この世界の大きさの尺度としては多分、人に伝わらないが……。
問題は重さ。
ぎゅっと身の詰まってオリハルコンという金属を身に付けたカニなのだ。重い。
どーやって拠点に運ぶのさ?
いや、決まっている。ちょっとずつ脚とかをバラして浜に上げるしかない。
もうちょっとコイツが浜に近寄ってから仕留めても良かったかもなー。でも沖に戻る可能性もあるしなー。
仕方ない。漁は水物。
そりゃ、全部の獲物が波打ち際で穫れれば面倒も遠洋船もいらん。だが、そうはいかない。
とりあえず大型ナイフを生み出し、脚を取り外す。サクサクと切れるはするが、なにせデカい。大人の背丈を超える脚だ。この脚だけでも、俺の漁獲サイズの最大記録に迫る。
重さは……ふむ?
それほどでもない。
身のぎっしり詰まった脚、しかも銀ピカ。
重いかと思えば、そうでもない。持てる。
「にゃう」
「もしかして漁の一部だから、持って帰れるのも楽になってるかも……その可能性はあるな」
これまでどんなデカい獲物でも持って帰れなかったことはない。
引き上げて拠点に置くまでが『漁』なら、何らかのバフが働くこともあるか。
つくづく至れり尽くせり。
万能漁師を授けてくれた神様、ありがとう。
というわけでせっせと解体を進めていく。しばらくカニには困らない。世話になっている魔王国と竜王国にも甲羅を渡せるしな。
こうして数時間かけてオリハルコンクラブをちょっとずつ浜へと引き上げていった。
その後はエリン(竜形態)に手伝ってもらい、拠点へと運ぶ。飛べなくてもパワーはあるからな。
まぁ、来てもらうときに偉くビビっていたが。
「えっ…………こ、これ全部オリハルコンクラブの……?」
「うん」
「…………はい」
俺からしたら馬鹿デカいだけのカニだったんだが、やはり彼女たちにとってはそうではないらしい。
で、何とか半日かかって拠点へと全て運んだんだが……その間に、ギンはもう俺の子を産んでいた。
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