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45.オリハルコンクラブふたたび

 さぶざぶざぶ……。

 シロちゃんと俺は春の海へと潜っていく。

 風の強さに比例して流れが強い。しかし、今の俺には経験がある。


 溺れない身体を上手く使えば、こんな日でも泳いでいける。


「にゃーう」


 シロちゃんが北の方をぐっと腕で差す。先に銛を生み出しておき、北へと進む。


 風の強い日は海も荒れている。普段に比べると生き物の数はとても少ない。どこかで息を潜めているのだろう。変わらないのは揺られるサンゴくらいか。


 そのまま北へと泳いで数十分。喰われたサケを見つけた。俺の両腕を広げたくらいのデカいサケの無惨な姿だ。


 こうした食べかすが見つかることはたまにあるが……ボロボロの乱暴な食べ方はあまりない。普段の海とはやはり少し違う。


 オリハルコンクラブがいるのか?

 俺は銛をぎゅっと握った。


「……にゃう」


 警戒しろ、とシロちゃんが目線を送ってくる。了解と頷き返し、さらに進む。


 すると、遠くない海底から地響きが聞こえてきた。何か、巨大なモノが海底で動いている。


「隠れるぞ」

 

「にゃう!」

 

 俺たちはよさげな岩陰にさっと身を潜めた。音もなくスムーズに。これも経験だな。


 地響きは……大きな岩が動いているような感じで浜に向かっている。サンゴや岩にぶつかる音も聞こえる。


 姿は見えないが、これが生き物なら巨大なのは間違いない。この海でも最大級かも。


「……一発で倒せるかな?」


「にゃーう?」


 これまでほとんどの獲物は銛の一撃で仕留めてきた。そこまで巨大な魚がいなかったのもあるが。


「にゃううん」


「一撃離脱で何度でもアタックすれば――? ふふっ、そうだな」


 普通なら溺れるのでそんな手段は取れない。銛も手から離せば終わりだ。だが、俺の場合は銛を何度も手から生み出せる。一撃でダメなら、何度でも。


 カジキなんかもそうやって捕まえるんだっけか。


 断続的に続く地響きが止まった。

 ゴツゴツと海底に何かを打ちつける音に変わる。ハサミをどこかにぶつけているのか?

 岩陰に逃げ込んだ獲物を捕まえようとしているのかもしれない。


「行こう」


「にゃぅ……っ!」


 水流を起こさず、ゆっくりと。隠れた場所から姿を出すと、すぐに地響きの主が見つかった。


 砂が舞い散る海底に超巨大なオリハルコンクラブがいる。そのサイズは……ワゴン車くらいだ。だとすると重さは数トン。こんなのが傍若無人に歩けば地響きも鳴るか。


 思った通り、オリハルコンクラブは俺たちに背を向けて海底を掘っている。視界は良くないが、ピカピカの銀甲羅のおかげでこちらからは奴がよく見えていた。


 ごくり。

 恐怖が襲ってくるかと思ったが……それよりも俺は高揚していた。


 こんなにデカいカニ。

 どんだけ美味いんだ??


 何日もカニパーティができちまうぜ。


(狙うのはハサミの付け根にする)


(にゃーう)


 甲羅は見るからに硬そうだ。それにデカすぎる……。相当深く刺さないと致命傷にはならない。


 そうすると、狙うのはハサミの付け根がベストだ。とりあえずハサミだけでもなくなれば、反撃の脅威も減る。


 シロちゃんがオリハルコンクラブの前面に周回り込む。俺は側面だ。いつもの挟み撃ち戦法である。


 配置が完了し、いざ攻撃というところで――オリハルコンクラブの動きが止まった。そのまま何か、ボリボリと音がする。岩を噛み砕いているのだろうか。


 わからん。

 まぁ、異世界カニの生態だしな。


 しかしさらに気を取られているのは好機だ。ここでシロちゃんが飛び出せば、絶対に隙ができるだろう。


「にゃーーん!!!」


 シロちゃんが海中の砂をかき分け、オリハルコンクラブの前に躍り出る。


「――!?」


 オリハルコンクラブの頭部がシロちゃんに向いて、止まった。やはり突然のことで反応が追いついてない。


「……よし!」


 その瞬間、俺は弾かれたように銛を持って突撃した。狙うはハサミの付け根。デカいから的は大きい。


 渾身の力を込め、俺は銛をオリハルコンクラブに突き刺した。

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