43.すき焼き
醤油はそのまま舐めてもただ塩辛いだけだ。
重要なのは食材の相性を見極めること。
で、俺が選択したのは――すき焼きだ。
もちろん具材は全然足りない。牛肉ではなくて水産物を使うし。日本風というよりは欧風だ。
しかし自信はあった。皆が収穫してくれる野菜や薬味。それに輸送で手に入れた砂糖や調味料。それに冬に穫れるマグロたち。鳥肉も入れるけどな。
すき焼きの本質は醤油と砂糖。
そこに白ワイン、鳥がらスープを入れる。あとは調味料で調整しながら……うん、素晴らしい。
俺が大きな木鍋とにらめっこしていると、ルニアとシャウラティがとてとてとやってくる。
「あー、瓶詰めのあの黒いソース……そうやって使うんだ〜」
「砂糖もぶち込んでましたけれど、本当にそうやって使うんですの……?」
ルニアは好奇心、シャウラティは明らかに黒くて砂糖入りの割下を疑っている。
ふふっ、まぁ仕方ない。すき焼きを知らんのなら。この黒いスープが魔法の液体とはわからないだろう。
尻尾に猫ちゃんを乗せたエリンも様子を見に来る。器用に乗ってるじゃないか……楽しそう。
「しょーゆを何に使うかと思いきや、そんな黒いスープでいいのでしょうか……」
やはりすき焼きの黒スープに不安を抱いているようだ。しかし心配はしていない。
「問題ない。ところで例のブツは?」
「海鳥の良さそうな卵なら見つけてきましたが……これも投入するので?」
エリンがバッグから真っ白な卵を取り出す。彼女は暇な時は採集係なので、探してもらっていたのだ。冬なら卵も手に入るのは、去年わかっているからな。
「いや、それは入れないよ」
「えっ?」
「生卵はつけダレとして使うから」
すき焼きなら、これだろ。
大根おろしや唐辛子も悪くないが、スタンダードなのはやはり生卵。
しかし俺がそう言うと、シャウラティとエリンが後ろにのけぞった。
「ほ、本気なのですわ?」
「そんな……生卵を?」
いや、シャウラティはわかるけどエリンも生卵に引くなよ。ドラゴンなんだから卵くらい生で食べるでしょ?
「卵を生で食べるなんて、生まれてからしたことありません……っ。ごくり……」
……そ、そうか。
意外と文明的なんだな、ドラゴンって。
夕方。
皆揃って、早めの晩ご飯だ。
すき焼きの大鍋を囲み、食す。マグロを入れるのは邪道かもだが、脂身の入っている魚肉のすき焼きが美味くないわけがない。
「にゃにゃーん」
シロちゃんはくむくむとすき焼きの香りを堪能している。猫ちゃんズはすき焼きをうきうきと身体を揺らしながら待っている。
「魚介類を黒ソースで煮て、生卵で食べるんだね〜」
これはルニア。器に生卵を溶いて準備万端だ。
「斬新ですわね。ふむ、砂糖の甘い匂いもいたします」
「大豆がソースになって、それを鍋のスープにするとは……。味の想像ができません」
ニーファ、ラーファも醤油は知らないらしい。
一番楽しみにしているのはやはりギンだった。
「おー、煮付けみたいな感じですね。ふむふむ、卵が意外と合うんですよねぇ」
というわけで、実食。
米が欲しいが贅沢は言えぬ。まずは醤油ベースの料理を味わえるだけでも感謝。
それぞれ取り皿によそい……いざ。
まずは箸で味の染み込んだマグロをひときれ、口に放り込む。
……これだよ、これ。
すき焼きのタレが全身を駆け巡る。
「こ、これは……」
「想像よりも深みがあるというか、これほどの味になるとは……」
「にゃああーーん!」
「うにゃああーーんん!!」
まだかまだかとすき焼きを待っていた猫ちゃん。一口食べた瞬間、その旨味に大興奮だ。
「にゃぅうーん!」
「はいはい、まだまだたくさんすき焼きはあるからな」
背中を揉み揉みしながら猫ちゃんを落ち着かせ、器へ取り分ける。それも猫ちゃんは先を争うように食べてしまう。
そして女性陣も。俺が猫ちゃんのお世話をしている間にはふはふと食べ続けていた。
黙々と幸せそうに。
ふふっ、これがすき焼きパワーだ。
そうだろうと思ってすげぇたくさん割下を作っておいて良かったな。全員のお腹がぴちぴちになるくらいはマグロ肉も野菜もあるんだぜ。
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