42.魅惑の黒ソース
秋に入り、冬になった。
ギンのお腹もかなり大きくなり、遠目からでも妊娠中であるとわかるくらいだ。
その間に魔王国からの飛行船が二度来てくれたので、物資はかなり増えてきた。主に食生活の方面だけだが、この調子なら食べるのに不自由はしなさそうだ。
そして、ついに醤油もやってきた!
どーんと恭しく木箱に入っている……もこもこの緩衝材に瓶1本だけではあるが。
あまりの嬉しさに涙が出そうになった。日本人に生まれてから、これほど醤油と切り離されたことはなかったし。
「にゃうん」
「泣くほどじゃないって? 泣くほどなんすよ……」
モルデブさんに『大豆から作ったしょっぱい、黒いソース』を所望して半年以上。最初は首を傾げられ、絶望に苛まれたが……竜王国経由でとうとう最終兵器が俺の手に入ったのだ。
しかし送られてきたのは瓶ひとつだけ。
あまりに貴重なので、むやみには使えない。
東方っぽい文化の生まれであるギンに報告すると、ぽんと手を叩いた。
「おー、ついに醤油が……」
「あと、ついでに味噌も来たぞ」
「おおっ! 味噌もですか!?」
「……味噌のほうが反応大きくないか?」
「それはまぁ、味噌のほうが使いますからね。醤油はそんなに使いませんし」
「ええ……? そうなのか?」
「味噌はお吸い物にも鍋にも使えますし、兵糧にも……醤油は製造が難しくて、大量生産もできませんし」
なんと。
ギンの中では醤油はレアな調味料だった。
ふーむ。でもテレビで聞いたことがあるかも。醤油の大量生産は江戸時代になってから。
それまでは味噌のほうが全国的に重要な調味料だったとかなんとか……。
ギンの住んでいた国もそういう感じだったのだろうか。まぁまぁ、とりあえず味噌から食べてみようじゃないか。
野菜につけて食べれば、それだけでタンパク質と塩分の摂れるサラダの出来上がりだ。
味噌ダレと野菜。もしゃもしゃ。ふたり並んで食べる。美味い。味噌の塩辛さが身体にしみる。
「やっぱり味噌は安心しますねぇ……」
もしゃもしゃ。ギンの体調も落ち着いて、今はかなりの食欲を見せている。
家庭菜園も順調そのもの。定期的なサラダが食べられるくらいになってきたからな。
「欲しいものがあったら言ってくれよな」
「んんー、大丈夫です」
すりすりとギンが俺の肩に頭を寄せ、尻尾を振る。
「あまり独り占めすると、妬かれちゃいますからね」
日本での感覚ならギンが他の女性に嫉妬するのだと思うのだが、ここではそうではない。女性はどんと構える。男のほうが女性に囲われる……という感じだ。
まぁ、貞操逆転世界だしな。さすがに俺も慣れてきたが。
竜王国は約束通り、魔王国に協力して飛行船の改良に勤しんでいるらしい。その見返りとして、俺はゴミ――もとい、魚の内臓やらで作った肥料を渡している。
よいしょっと木箱を持ったルニアが俺に聞いてくる。
「えーと、この内臓と土をブレンドしたのはとりあえず木箱に入れとく〜〜?」
「ああ、今度の飛行船で渡すから」
「は〜い。あとは貝殻も入れておくねぇ」
現在、こちらから向こうに輸出するのは肥料が主だ。魔王国の飛行船が持ってきた木箱や壷に入れて、送り返す……それをシステム化しようとしている。
ニーファ、ラーファは最近、よく魔王国からの書類とにらめっこしている。内容は肥料関係のデータだ。
「肥料実験は順調みたいです。やはりここの水産物には未知の『ぱわー』があるみたいで……」
「それは魔力とはまた違うのか?」
「……わかりません。未知の『ぱわー』です」
「実験データも興味深いです。ふむむっ、頭から新しい実験方法があふれてきます」
ペンとインクをもらってから、ふたりは魔王国とアレコレ実験についてやり取りをしている。楽しそうで何よりだ。このふたりにとって、魔王国は繋がりが深いしな。やりがいもあるだろう。
で、冬になったのでマグロ祭りだ。今年は去年に比べて調味料が増えたので、桁違いに美味しく食べられる。
あまりの気合の入れように、フィーリ、ファウ、フェウルがちょっと引き気味だった。
「主様がうきうきですね」
「あの黒いソースを手に入れてからです……」
「そんなに大事なのでしょうか?」
大事だよ……っ!
海の幸と醤油は切っても切り離せない。
しかし醤油を味わったことがあるのは、ギンのみ。ここはひとつ、俺が醤油の良さを普及するしかあるまい……!
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