39.土下座ドラゴンさん
困ったな……。
目の前で土下座されると、されたほうはどうしていいかわからなくなる。
「……浜辺で土下座もなんだし、家の中に来ない?」
「いいえ! どーぞお構いなく! 私どもはここで大丈夫ですので!」
ざぶーん。
強めの波が浜に押し寄せ、土下座している方々を濡らす。
……。
そこにぽてぽてとルニアがやってきた。
「なんか新しい人が来てると思ったらー、えーとドラゴンのひと?」
首を傾げるとルニアが補足してくれる。
「ほら、翼と尻尾があるじゃん。ドラゴンぽいの」
ドラゴン……!
この世界に来て、初めてそういうモンスターっぽい生き物だ!
ギンは獣人だしルニアはエルフ、他にも魔族(角の生えている人)とは出会った。けれどもベースはどう考えても人間だ。
いや、それを言ったら……この人たちもベースは人間っぽいが。ドラゴンの人たちが何やら話している。
「あわわわ……こ、今度は滅殺の魔女ですよ!」
「わ、わたし……この人にボコされたんですよ……」
……。
その言葉とこの態度で俺はピンと来てしまった。ギンにこそっと話を聞いてみる。
「ギン、昔にドラゴンをボコしたりしたことってある?」
「まぁ、修行時代に出会ったドラゴンと決闘したことは何度もありますが……」
「多分なんだけど……この人たちはギンに負けたドラゴンなんでは?」
「えっ……さすがの私も知恵あるドラゴンを闇雲に襲ったりはしません」
本当かなぁ。
「にゃーん」
いつの間にか来ていたシロちゃんもジト目です。俺はつつつーと土下座グループのリーダーぽい人のそばに向かった。
「……何があったの?」
「うぅ……よくぞ聞いてくれました。あれは遙か昔のことですが、その時の私はとてもお腹が空いていたのです」
「それで人を……」
「まさか! 人里離れた山奥で鹿を食べようと思って、それもあの方の邪魔にならないように静かにしていたのに……。いきなり背後から刀を携えて、それで……」
涙ぐみながら昔のことを語る。
耳の良いギンはこの会話も聞こえているだろう……。ちらっと見ると、すすっと視線を外していた。
……覚えがあるんだな。
なんとなくではあるが、この人たちがギンやルニアを恐がる理由がわかった気がする。
しかし、どうしたものか。
と思っていると一陣の風が吹いた。
「おや、風が……」
浜辺に風が吹いたので見てみると、上空に飛行船が来ていた。何度も見た魔王国の飛行船だ。
飛行船に乗ってきたのはモルデブさんだった。話が通じそうな彼女が来てくれて良かった。
「この方々は竜王国の使者でして――」
この土下座少女たちの出自、名前、目的も裏が取れた。
モルデブさんいわく、魔王国に挨拶に来たと思ったら飛び出して行ったらしい。そそっかしいというか、なんというか。
「……というわけで決して悪い方々ではないので」
ギンが首を傾げる。
「……にしては殺気があったような」
びくびくっとドラゴンさんたちが震える。ふうむ、俺としてはモルデブさんの話で納得したわけだが、ギンは腑に落ちないらしい。
「まぁまぁ、何にもなかったんだしさ。聖域はほら、人のいない未開の地だったんだろ? 向こうも神経質になってたんだよ」
「ふむ……そうですね。警戒心がこちらにも伝わってきてしまったのかもです」
ギンがやや後ろに下がると、ようやくドラゴンさんたちと話ができるようになった。
ざぶーん。
それでも可憐な服は波に洗われ、ずぶ濡れだったが。焚き火に当たってもらいながら、自己紹介をする。
「竜王国、蒼の竜王エリンと申します」
「これはこれは、水野と言います」
顔立ちは少女にしか見えないが、瞳孔に爬虫類特有の冷たさを感じる。向き合うと……ここにいる女性より猫ちゃんズよりも遠い存在ではないかと思ってしまう。
で、そこからはモルデブさんを交えて竜王国との話し合いになった。
竜王国は牧畜や鍛冶の国だという。広い高原に牛や羊を放ち、山を崩して鉱石を取る。
「あの飛行船の装甲も竜王国産出のミスリルを使っています」
「ほうほう」
「あとは最高級の岩塩や乳製品も竜王国のものです。水野様もご賞味頂いている、あの品々です」
「ああ! モルデブさんが持ってきた、あれらね。いつもお世話になっています」
現金なもので食べ物に直結しているとわかると理解できてしまう。ぺこりとエリンさんに頭を下げると彼女はビビリながら手を振った。
「いえ〜、私どもなぞ……」
「それとエリン様は治癒魔術の使い手です」
「なんと!」
それは素晴らしい。今、この島に必要なのはそーいう医者っぽいことができる人だよ!
モルデブはエリンのことをマイルドにオブラートに包んで言いました。
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