38.竜王国のエリン
竜。それは天空の覇者。
竜王。それは知恵を操る最強の生物。
魔王国から聖域へと飛び立ったエリンは翼を伸ばし、さらに速度を上げた。
「……さて、魔王国への義理は果たしました。向こうはどう出るでしょうね?」
エリンの副官たる、可憐なふりふりドレスに身を包んだ竜王が後方に魔力を張り巡らせる。
これは魔術ではない。竜の持つ本能の技でさえ、数十キロ後方の巨大な魔力ならば探知できるのだ。
「どうやら飛行船を出す用意をしているようです。追ってくるつもりでは?」
「やれやれ。飛行船とやれで私たちに追いつけるとでも?」
エリンは魔王国に憐れみを覚えた。
個としての数は少なくとも、他を圧倒する『力』が竜にある。それゆえ列強の大国として竜王国は認められたのだ。
勇者国のような数や戦術、勇気など不要。竜王は人族に遅れなど取らぬ。
魔王国のような魔術や技術、科学など無用。竜王は魔族に負けなどせぬ。
己の翼と魔力だけで魔王国の飛行船など振り切る速さが、竜王にはあった。
もっとも竜王にも弱点がないわけではない。遙かな長寿と個としての力ゆえ、竜王の意思決定は遅い。
「聖域をいかにすべきか」
聖域における異常反応。そして居住を始めたニンゲンと猫。魔王国の報告を受けてからその議論の集約に半年以上もの時間がかかった。
しかし最終的には魔王国に通告後、聖域を独占するという方針に決定した。
魔王国の心象は損ねるだろうが、所詮はこれまで中立地域であった場所のこと。揉めても全面戦争にはならないという打算が竜王国の総意であった。
(……ゆえに竜王国でも最優の私と副官たちで聖域を迅速に制圧することになったわけですが)
エリンはあらゆる力に秀でる。飛行能力、単純な身体能力、そして知的能力においても。特に治癒魔術は竜王の中でも指折りだ。
「制圧するにしても聖域の人間や魔王国に人死は出さない」
余計なことをして必要以上の反発は買いたくない。そういう含みもあってエリンが選ばれたのだ。
理想は圧倒的な『力』を見せつけ、抵抗の隙も与えないこと。あとは追ってきた魔王国の飛行船を追い返せば終わり……。エリンはふむふむと今後の成り行きをそう、算段していた。
(この程度の結論を得るのに半年以上かかるのが、種族的な問題とは言えますね……)
そして自嘲気味にドレスに隠された左腕をさする。エリンが治癒魔術に秀でるようになったのには、訳がある。
まだ竜王国が成立する、遙か以前。エリンはすでに名の知れた竜であった。
しかしエリンはたった一人の女剣士に敗北したのだ。それも完敗なうえ、命からがら逃げ出すという有り様――その傷を癒やすために独学で身につけたのが、エリンの治癒魔術である。
空を飛び続けて半日以上、副官の一人がエリンに進言する。
「そろそろ聖域上空です」
「ええ、やはり聖域周辺は魔力の流れが異常ね。本来の力は出せないとしても、さっさと力を見せつけて終わりにしなきゃ」
――そこでエリンは目にした。砂浜に一人の少女が立っているのを。竜の視覚と魔力があったからこそ、可能な技であった。
砂浜にいたのは白銀の獣耳に尾。なぜかお腹が膨れている。そして腰に手を伸ばしていた。
「え」
それを見た瞬間、エリンの脳裏にかつての恐怖がよぎった。
森の中。鹿を食べようとしただけなのに。喧嘩を売るつもりは全然なかった。なのに。数キロ先から追ってきて。訳がわからない。刀。白銀。獣耳。強い。強い。強い強い強い。
殺される。死。死。死。死。
「ああああーー!!」
エリンは絶叫した。彼女にトラウマを刻んだのは誰あろう、ギンであった。
「……で、なんでこうなったんだ?」
日中、ギンが外に飛び出したと思ったら知らん人たちが浜辺で土下座をしていた。
訳がわからん。
というか、この人たちは……?
品の良く可愛いドレスに大きな翼。なんか翼竜っぽい翼だ。それに爬虫類っぽい太めの尻尾も生えている。
顔はわからない。砂浜に頭をめり込ませているからだ。まぁ、髪と服装の雰囲気からして少女のような気がするが。
「何で土下座してるんだ?」
「……わかりません」
なんと。ギンもわからんのかい。
「空に殺気があったので出てきたのですが、そうしたらこの人たちが光の速さで土下座してきたのです」
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