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33.新しい食事と美味しい物係

 翌朝。

 ワインを飲んだとは思えないほどすっきりした目覚めだ。

 二日酔いの気配はまるでない。


「うぇあおうえあ……」


「ルニア、二日酔いか?」


 隣で寝ているルニアが唸っている。

 

「あうあう……うん、きてる~……」


「はぁ、言わんことはありませんね。水、持ってきますよ」


「任せた~……あぐぅ……」


 しゃきっとギンが立ち上がって部屋を出ていく。

 こちらはちゃんとしているな。俺もギンについて外へ出ていく。


 外へ出た途端、ギンがこめかみを押さえた。


「えーと、もしかして?」


「……私も頭がキンキンしますが、唸るほどではありません」


 負け惜しみで水を持ってくる役を買って出た?

 うーむ、仲が良いのか悪いのか。

 ま、これがふたりの関係なのかもしれない。




 日の高さからすると、もう結構な時間だ。

 生暖かい海水を一浴びし、さっぱりとした気分。


 他の人も今日は動きが鈍い……。

 ニーファ、ラーファは浜辺でヤシの葉を敷いてまだ寝ていた。

 シャウラティ、三人娘は寝そべりながら猫ちゃんを撫でている。

 

 ゆるゆるとしている。盛り上がった飲み会の翌日だな。


「にゃーうん……」


 猫ちゃんも木や家の影で寝転んでいる。

 シロちゃんだけは背筋を伸ばして浜辺に佇んでいた。


 その眼はすでに海を泳ぐ次の獲物を狙っていた。


「にゃう」


 サバイバル生活に休みなし。

 シロちゃんが言ってます。


 海は最高の状態だ。

 波は静かで海は穏やか、雲も風もない。

 漁に来てくれと言わんばかりだ。


 この海を見れば泳ぎたくなる。潜りたくなる。


「よし、海に行くか」


「うにゃ!」


 食料はたっぷりあるが、動かないでいるのは性に合わない。

 すっかり海人だな。


 で、シロちゃんと一緒に海に潜る。

 うーむ……酒を呑んだ後の素潜りなんて、普通なら危険だが。

 しかしこの身体は溺れない。まさに異世界に来た特権だな。





 家庭菜園も順調に進んでいる。

 トマト、ピーマン……ぽい野菜はもう収穫できた。

 野生種なので酸っぱくて硬めらしいが、贅沢は言うまい。


 まだテスト段階なので収穫量は少ないが、着実に野菜類も増えるのは嬉しい。

 やはり植物の旨味は動物性とはまた違う価値がある。


 ニーファ、ラーファいわく、通常の3倍近いスピードで育っているという。

 ちなみに肥料なしのほうでもチャレンジしてみたが、成長速度に変化はなし。


 高速成長は肥料のおかげということが判明した。


「試してみたら、割とはっきりしました」

「肥料のおかげです」


「ということは、ここで獲れる海産物に捨てるモノなしか」


「そうなります」

「素晴らしいことです」


 きらりと真っ赤に育ったトマト。

 もう食べられるらしいので……頂いてしまおう。


 その日の夜。

 トマトを煮込んだスープにタコの足をドボンと入れる。

 聖域の海の味が沁み込み、酸味をまとう。


 そこに塩で味付けし、じっくりコトコト。

 豆類もちょっと足して。トマト&タコの漁師風スープだ。


 ……美味い。ワインを飲みたくなるが、我慢。

 昨日のペースで飲んだらあっという間に空になってしまうからな。


 


 

 で、夏も終わりになって。

 また魔王国からモルデブさんの飛行船がやってきた。

 前回から数か月振りだ。


 やっと来てくれたと一安心。

 家屋に招いて会談を行う。


「ご機嫌麗しゅう。お元気そうで何よりでございます」


「そちらも問題なかったか?」


「はい……お陰様で」


 挨拶もそこそこに。

 本題へと入る。


「頂戴したオリハルコンクラブですが、諸国で分けることになりました。どの国もとても驚いておりましたが……」


「ほうほう」


 俺にとっては銀ピカの蟹の抜け殻なので、さしたる有難みはないのだが。

 この世界で役立つなら何よりだ。


「でもあれ以降、オリハルコンクラブは見つかってないんだよな」


「なるほど……。そのほうがいいかも知れません」


「えっ?」


「いえ、あまり見つかると世界のバランスが」


 お、おう。

 ……聞かなかったことにしよう。


 この聖域にも近々、他国がやって来るかもと教えられる。

 それぞれの国の技術と空の航路があるので、何とも言えないらしいが。

 結局は魔力の嵐を越えられるかどうかっぽいしな。


 シャウラティから教わった世界地図によると、世界の大国はちょうど聖域を挟んで三方向に存在している。つまりどの大国からもだいたい、同じ距離なのだ。


「見た目はさほど変わっていませんが、飛行船の改良は続けております。余分な鋼材を排し、積載量を少し増やすことに成功しました」


「おお、それはちょうどいいな」


 俺はそこで生ごみ(肥料)の話をする。

 家庭菜園で使うと成長が早くなる、というアレだ。


 魔王国では寒冷、乾燥した気候が多いとはシャウラティから聞いている。

 もし肥料で生産量がアップすれば大助かりだろう。

 予想通り、モルデブさんは前のめりで喰いついてきた。


「そ、そんなことが? 見せてもらってもいいでしょうか?」


「ああ、そこでやってるから案内するよ」


 家庭菜園の植物は立派に育って収穫も進んでいる。

 トマト、ピーマンなど春に植えて夏に収穫できるのは、もう3回転していた。

 やはり数倍の成長スピードなのだ。


「おお、これが……!!」


「一応、比較対象では肥料をやったほうだけ成長スピードが上がったんだ。そちらで調べれてくれると嬉しい」


「もちろん、持ち帰って研究させて頂きます!」


 家庭菜園のそばではシロちゃんが寝転がりながら警備をしていた。

 虫やネズミ、絶対許さない猫ちゃんである。


「にゃう」


 肥料は魚やらの血合いや内臓なんだけど、良きに計らえ。

 そんなシロちゃんの声が聞こえてくる。


 その他にも夏の海産物を紹介したりして――風が出てくると同時にモルデブさんが慌てた。どうやら飛行船の航行に支障が出るらしい。


「申し訳ございません、この風はちょっとマズいかなと……!」


「ああ、また来てくれよな」


 ということでシャウラティといくつかやり取りし、持ってきた荷物を置いて肥料を回収していったモルデブさんは脱兎のごとく帰っていった。


 ふむ……積載量うんぬん言っていたが、本当に前回よりもお土産が多いな。

 わらわらと猫ちゃんも集まってきている。


 皆、もう知っているのだ。

 モルデブさんが美味しい物係であると……!

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