表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/47

19.魔王様と苦労人

 遥か北の魔王城。


 当代魔王のリシャス・ベルファストは玉座の間から全てを見ていた。

 これは比喩ではない。


 リシャスの得意とする魔術は千里眼と結界。

 結界で守られていない地点であれば、世界中のほぼ全てを見通せる。

 それが敵であれ、味方であれ。


 そして広大で堅牢な結界。

 国境線の全部をカバーするほど強大な結界を張り巡らせることができるのだ。

 集中すれば竜王や勇者王でさえ寄せつけない。

 オリハルコンクラブの侵攻にさえ耐えられると評される。

 

 ゆえに、魔術師として魔王リシャスの最強を疑う者は誰もいない。

 



 魔王軍三大幹部の一人、知恵のモルデブはリシャスから呼び出され玉座の間にいた。


「リシャス様、聖域にてオリハルコンクラブの反応があったとか。

 城下では不安の声が高まっております」


「わかってる、わかってるよぉ。今、見るところ……」


 ぼさぼさの黒髪に貧弱な角。赤縁の眼鏡。

 これが真実の魔王の姿。

 威厳のかけらもないのがリシャスであった。


「いつもどうでもいい所を見ているから、肝心な時に魔力が足りないのでは?」


「そ、そんなことないってば。大切なモノしか見てない、よ?」


「男女の営みは大切なモノではないと思いますが」


「………」


 都合が悪くなると静かになって目が泳ぐ。

 それがリシャスである。


「それで、聖域の様子は――」


「うん、接続したから……。今からちゃんと見る」


 リシャスの千里眼は的確にオリハルコンクラブの甲殻を捉えていた。

 神様小屋に安置されているのは、食べられた後のボロボロになった殻……。


 この光景はリシャスの想像を超えていた。


「へ、へぁ!? オ、オリハルコンクラブが……死んでる!?

 殻しかないんだけど!」


「……まさか。出現のみならず、討伐まで?」


「うん、そうみたい。にしても、この像はなに?

 気持ち悪くなるほどの魔力が……うっぷ」


「魔王様、吐きそうにならないでください。

 聖域の魔力が強烈だからって」


「はぁはぁ……」


「問題は討伐した存在が何者か。原生動物の争いならいいのですが……。

 もし人族や竜族なら大問題です。

 魔王様、探れますか?」


「わかってる。今、それを……」


 リシャスが夜の海岸に目を移す。

 なんだか賑やかそうな一角があった。


 そこにリシャスは視線を定める。


「……うわぁっ」


 リシャスが頬を真っ赤に染めた。


 そこには男女分け隔てなく、風呂でわいわい騒ぐ水野たちの姿が。

 とても言葉で言い表せない様子が……。


「魔王様、何を真っ赤になさっているのですか。

 真剣にやってください」


「ち、違うんだって。聖域に人が。人がいるんだよぉ」


「……え?」


「しかも男だ。健康で若い男がいる」


 覗き見をするリシャス。

 こういうことは大好きな魔王である。

 じーっと見てしまっていた。


 もっとも千里眼が気づかれることなどない。

 竜王も勇者王でさえ。

 だからこその覗き見であるのだが。


 しかし――それに気付いた者がひとりいた。

 ギンである。


【無礼ですよ】


 ギンは愛刀を抜き放ち、リシャスの魔術を《《斬った》》。


「へ、へにゃぁぁああーーっ!?」


 リシャスは驚きのあまり、玉座から転がり落ちた。


「魔王様、どうされましたか!? お気を確かに!」


「千里眼をき、斬られたぁー……超怖いサムライにばっさりぃー!」


「なんと、そんなことが……」


 こんなことは初めての事態であった。

 魔王の千里眼を強引に切断するものがいるなど。


「……あ」


 ぽろっ。

 リシャスの右の角。その先端が床に落ちた。

 魔術を斬られた余波が本体にまで及んだのだ。


「う、うわぁぁーーん! わ、わたしの角が、角がーー!!」


「いいではないですか。再生するのですし」


「竜王にも傷ひとつ付けられたことないのにー!」


「よしよし……」


 モルデブはリシャスを慰めながら思案する。


 確かにリシャスはこんな性格だが、魔術については比類ない。

 史上最強の魔族ニーファ、ラーファ姉妹以来の天才と言われている。


 だからこそ混乱する世界の北部をまとめ、魔王として君臨することができたのだ。

 それが、こうもあっさり――。

 

 魔王リシャスの角が折られたなど、まさに他言厳禁の緊急事態。

 知られるわけにはいかない。

 特に竜王や勇者王に知られればマズいことになる。

 威信は国を治めるのに必要不可欠な要素だからだ。


(しかし、それよりもマズいのは……失敗しました)


 千里眼で覗かれて、いい気分のする者はいないだろう。

 聖域に住まう者を敵に回してしまったかもしれない。


 そして恐らくだが、魔王の千里眼を断ち切るほどの強者がいるとは……。

 恐らく、その者がオリハルコンクラブを狩ったのだ。

 理屈は通る。

 魔王の千里眼を防ぐほどのものであれば、オリハルコンクラブも討ち取れる。


 だが、問題なのは正体不明のその強者の機嫌を損ねたのが間違いないことである。


 魔王軍行政トップのモルデブの背中に大量の汗が浮き出る。

 マズいマズいマズい。

 とんでもなくマズい事態だ。

 

 知恵のモルデブ。

 カラカラカラと頭の中で計算を働かせた彼女の結論は――。


「……謝罪に行きましょう」


「へ? 突然なに?」


「千里眼がバレて反撃されたのですよね?

 これは相手方の心証を損なったからと判断します」


「う、うん……」


「魔王様を傷つけたということは、竜王よりも格上。

 このままでは良くありません。

 誠心誠意、謝罪して友好を結ぶべきかと」


「そ、それは……まぁ、うん……」


「では、早速準備を。最高速の飛行船を用意させます」


「わたしは……いかないよ?」


「ワガママを言わないでください。

 これは最上級に急がなければならない外交です」


「……角を折られて、魔力をうまくコントロールできないから……」


「え?」


「今のわたしがここを離れたら、国境の結界が全部消えちゃう……かも」


「そ、そんなことが!?」


 魔王の結界は世界一。

 ゆえに魔王国の国防は魔王の結界ありきで構築されていた。


 その前提が揺らいだことなど一度もない。

 今、この時までは。


 魔王国民3000万を守ってきた大結界。

 それが消えたりすれば、取り返しのつかない大混乱になる。


「で、では……」


 リシャスがモルデブの手を握る。


「うん……いってらっしゃい、モルデブちゃん」


「いやーーっ!!」


 モルデブは知らなかった。

 裏で魔王国の苦労人と呼ばれていることを……。

【お願い】

お読みいただき、ありがとうございます!!


「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、

『ブックマーク』や広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!


皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!

何卒、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全ての既刊は一番下の画像から飛べますので、ご購入よろしくお願いいたします!
4qsf18pcin3wjmmj4xgkf7v36w29_999_jg_rn_763a.jpg r8y6j4jfoez23hlbx9s8l0a5tix_9uv_jj_rs_8o9g.jpg t8gksmn31uajkkhhfoq1kry4wu5_zmb_ko_f0_2i
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[良い点] ギンさん、ただのムッツリ侍じゃなかったんですね(笑) 実力的には『祭(のスキル)>神様をしばけるなら超えられる壁>オリハル蟹とかのレジェンド級のヤバい生き物≧ギン達伝説の英雄>多分現代の生…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ