18.春とオリハルコンクラブ
冬が終わった。
異世界に来て、半年ほど経過しただろうか。
ちょっと暖かくなり、雨が減った。
春になったのを悟ったのは、やはり魚の変化だった。
マグロ類がいなくなり、サケ類になったのだ。
「不思議だよなぁ……」
「にゃあーん」
でもいいけどね、サケはうまいし。
刺身も焼きもどっちもよし。
感謝しながら頂こう。
あとはカニ類も出てきた。
食べられるサイズだ。
タラバガニやズワイガニみたいなのはかなりレアだが……。
それでもボイルしたカニの旨味は暴力的だ。
村の女性はカニ経験がほとんどなかったのだが、
一度食べたらうまさを理解してくれた。
「ほくほくの身がこんなにおいしいとは……」
「んあ、このカニ味噌もイけるよー」
「とてもグッドです。もぐもぐもぐ……」
「はぐはぐはぐ……」
カニパーティーは素晴らしいよな。
もちろん猫ちゃんにも好評だ。
先を争ってボイルしたカニの身を食べている。
そんなに慌てないで。
たくさんあるからさ。
というわけで春はサケとカニ。
良い季節だ。
そして日課の漁。
今日も順調にサケを獲る。
60センチから80センチを3匹ほど。
満足できる量だ。
「ごぽごぽ(よし、陸に戻ろうか)」
「にゃーう!」
獲ったタイヘイヨウサケを抱え、舟へ行こうとしたその時。
俺はるんるん気分だった。
あとは陸へ戦利品を持ち帰るだけだからな。
一番楽しい瞬間でもある。
ところが。
獲った魚を入れてある、海中の箱。
なんとその大切な保管箱に、デカいカニがくっついていた。
全長は1.5メートルほどで銀色に光っている。
初めて見たカニだ。
いや、それよりもカニさんよ。
何を保管箱にガサゴソしている?
おいおい。
待て待て待て。
もしかして、君……。
「ふにゃー!!」
シロちゃんが激昂していた。
やはりそうか。
箱にくっついて何をしているかと思いきや。
ふー……。
お前、横取りか!
それだけは許さないぞ!
俺は怒った。
この世界に来て、初めて怒った。
それは俺とシロちゃんが苦労して獲った獲物だ。
取られてなるものか!
ストップ、横取り。
ぐっと銛を握る。
そのまま俺はカニに向かって全力で銛を投げた。
「!?!?」
カニの甲羅にブスっと銛が刺さった。
でもまだ動いている。
しかし、すでにシロちゃんもカニへ突撃していた。
シロちゃんも激怒である。
「にゃうーん!!」
シロちゃん、怒りの猫パンチ。
クリーンヒット!
カニは動かなくなった。
これで一安心だ。
ふぅ……なんというカニめ。
まさか横取りを狙ってくるとは。
「にゃーう」
ふてぇ野郎だぜ。
シロちゃんの表情が語っていた。
被害は……うー、60センチのギンザケ。
頭がちょっとかじられてるな。
頭は捨てるので、損害は軽微か……。
それだけが幸いだった。
「にゃっ!」
で、無我夢中で仕留めたカニだが……。
形はタラバガニにそっくり。
でも全身の甲殻が銀色で金属っぽい。
なんなんだ、このカニは。
前世の地球では見たことないぞ。
うーん……おっと。
頭の中にカニの名前が浮かんでくる。
便利な万能漁師の力だ。
えーと、このカニの名前は……。
『オリハルコンクラブ』
……。
オリハルコンって、あのゲームによくあるやつ?
最上級の魔力とか性能とか。
そのクラブって……。
どういうことだ?
まさか、このカニの殻がオリハルコンなのか?
わからん。
身は食べられるような雰囲気がするが。
「にゃーん」
そうだね。
一旦、浜に戻ろう。
陸へ上がると、ギンとルニアが心配そうな顔をしていた。
「凄まじい怒気を感じたのですが……」
「心配したよ。大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「……本当ですか?」
なんとなくだが。
ふたりとも本気で心配している気がする。
「にゃう」
……俺の怒りのせいか。
この世界に来て、初めて怒ったからな。
でも、ふたりを委縮させるのは違う。
落ち着け。
クールダウンだ。
原因のカニくんはもう成敗した。
深呼吸をちゃんとして――。
猫ちゃんのことを考える。
うん。
落ち着いてきた。
やっぱり冷静ではなかった。
「ごめん。ちょっとイレギュラーがあってね。
もう大丈夫、落ち着いた」
ふたりともほっとしたようだ。
「主様のかような怒り、初めて見ました」
「怒るとあんな感じになるんだね~」
どうやら漁を邪魔されるとスイッチが入るようだ。
反省。
「あと、こんなカニを捕まえたんだけど」
多分、異世界の産まれっぽい銀色のカニ。
オリハルコンクラブだ。
ふたりなら知ってるかな。
「これはオリハルコンクラブじゃないですか!」
「うえー、本当だ! これを主様が獲ったの?」
「うん、このカニが保管箱の獲物を横取りしようとしてたから。
そこに銛を投げて止めたんだよね」
「あー……主様の殺気はそういうことでしたか」
うん、まぁ……キレたんだよね。
もう落ち着いたけど。
「で、このカニのことを知ってる?」
ギンとルニアが顔を見合わせた。
「竜族と争っていた、神話時代のカニです」
「実物を見たのは初めてかも。
でもこの甲羅は間違いなくオリハルコンだよー」
「このオリハルコンクラブ、成体の1匹で国が滅んだとか」
…………。
あっさり獲れちゃったけど。
そんなヤバいカニだったんだ……。
聖域の遥か北。
魔王城。
「聞きましたか? オリハルコンクラブが出現したんですって」
「ええ、親衛隊が兆候を発見したとか……。
しかも出現したのは聖域かもですって」
「ええ、その話で魔王城は大騒ぎですわ」
「無理もありません。だって300年振りの出現ですもの」
「オリハルコンクラブ1体で、魔王様と三大幹部が出陣されるレベルですし」
「しかも聖域ですって。恐ろしいこともあるものね。
噂ではもう討ち取られたとか……だとしたら震えが止まりません」
「そ、そんなことが聖域で?
世界がひっくり返る大騒ぎになりますわ」
「だ、大丈夫よ。魔王様がきっとなんとか……」
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