16.魔族の姉妹
異世界に来て約3ヵ月だろうか。
やはり冬になってきたのは間違いなかった。
雨が増えてきた。
今までが少なすぎたのかも……。
じめじめとする一方、真水の確保は楽だ。
ギンが血走った目でバケツみたいなのを量産する。
「入れ物をどんどん作りますので! たくさんの水を!」
ルニアは入れ物を焼き固める役と着火係だ。
特に雨の中では焚火は不可能。
彼女の火炎魔術があって良かった。
「雨水も加熱しないとだしねー」
「にゃーう?」
「雲とか空はそんなに綺麗じゃないのさ。
だから雨水はそのまま飲まず、一度熱したのを飲んでね~」
「にゃうっ!」
なお、気温はほとんど変化がない。
アロハシャツでも十分だ。裸でも全然寒くない。
海水はちょっと冷たくなったか。
中に入ってしまえば感じないのだが。
冬になった一番の変化は、やはり獲れる魚の変化だ。
タイ、アジ、サンマはいなくなった。
小魚の群れもほとんど見ない。
変わってマグロ類を中心とする中型魚が増えた。
不思議だが、どうやら季節によって住む魚が一変するらしい。
ということは、春になるとまた変わるのかな?
心配した食料事情は杞憂だったのが救いだ。
マグロ類は可食部が多い。
頭数は少なくなったが、総量は問題なかった。
何回もやるうちにマグロ類のコツも掴めてきたし。
俺も銛を本格的に使い始めた。
まぁ、最初のうちは苦労もあったけれど……。
ひらりと避けられたり、すっぽ抜けそうになったり。
でもさすがに海に潜って3ヵ月。
最初の頃とは比べ物にならないほど腕が上がった。
何度も相対すると魚の動きの癖も見えてくる。
この魚はどれくらい加速するのか。フェイントを仕掛けてくるのか。
考える前にヒレや頭の動きでわかってくるのだ。
そうそう、漁自体のやり方も少し変わった。
マグロは結構深くまで潜る。
なので、こちらも陸から離れなければいけない。
悩ましいのが効率性だ。
そこそこのマグロを獲ると、陸に戻らなければいけなかった。
中型魚を抱えて漁はできないし。
その解決法に舟を使い始めたのだ。
まぁ、誰かが乗っているわけじゃないが。
その小舟には植物性の紐が垂れ下がっており、先端に箱をくくりつけてある。
単純かもだが、これがかなり便利だ。
この小舟と木箱があれば、一時保管に使える。
陸に戻らなくても、箱に入れておけばいい。
そして、ある程度まとまったら浜へ帰還する。
ちょっと入れる前に処理をする必要はあるけれど……。
でも中型魚を獲るたびに陸へ戻るよりはずっといい。
これぞ効率。
ふふふ……。
おかげでいい魚を連続で見つけても逃がさなくて済む。
舟と紐、箱を作ってくれたギンとルニアに感謝だ。
冬の間はこうしてマグロ漁に勤しんだ。
で……深く潜るようになったので、水晶も見つけた。
しかも2個。
ルニアとギンに確認し、オッケーをもらったので仮死魔術を解く。
水晶から目覚めたのは、頭の横に黒い角がついている姉妹だった。
魔族、というらしい。
すらりとしたモデル体型で胸がめちゃくちゃデカい。
艶やかな黒髪の美人さんである。
そして、服装がなぜだかビキニ。
この世界の女性は露出が好きらしい。
「助けて頂き、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
姉妹なので顔がよく似ている。
角の形が違うので、なんとか見分けがつくが。
ふたりの名前はニーファとラーファ。
事情をある程度聞いて、どうしたいか聞いてみる。
国に帰りたいならボートぐらいは都合できる。
で、ふたりの答えは――やはりここに住みたいのだとか。
「これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、ご迷惑にならないよう頑張ります。
なにとぞよろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします」
そして姉妹を案内している途中。
ふたりがギンの刀をじっと見つめた。
「まさかあなたは、伝説の剣豪ギン様ですか?」
「……それはもう古い話です」
「ファンです。握手してください」
「してください」
「え、ええ……それは構いませんが……」
話を聞くと。
姉妹はギン・ルニアよりも後の世代だったようだ。
なので、ふたりの名前は伝説になっているらしかった。
俺からすると……宮本武蔵が目の前に現れた時みたいなものか。
確かに握手はしたいかもしれない。
「すると、あなたが滅却の魔女のルニア様でしょうか?」
「んふ、懐かしい名前だね~。そんな風に呼ばれてたこともあったなー」
「あなたもファンです。握手してください」
「してください」
「いいよー。お、いい魔力を持ってるねー」
姉妹はクールなのか、表情が変わっていない。
でも握手の時は嬉しそうに腕をぶんぶん振っていた。
「ところでふたりは得意なこととか、あったりする?」
「ここでは魔術が難しいのですが、得意なのは植物系です」
「生み出せませんが、見つけることならば」
な、なんだって……!?
本来なら生み出せもするらしいが、ここでは無理だとか。
残念だぁ……。
でも植物の探索や鑑定の魔術ならできるらしい。
いや、それだけでも十分だよ。
植物はさっぱりわからん。
いつも採集してきた人を信じて食べている。
「にゃーう!」
シロ様も期待するぞ、と仰せだ。
こうしてさらに魔族の姉妹、ニーファとラーファが住民に加わった。
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