13.新しい命
ルニアが来て、さらに賑やかになった。
もちろん彼女の魔術も大いに役立っている。
やはり加熱は偉大だ。
賞味期限が1日違うだけで、保存できる量が違う。
薪の調達も着火も最小限でいい。
これこそチートだ。
そんな俺の感想にルニアは手を振るけど。
「主様に比べたら、ウチのは全然大したことないよ~」
「ええ、ルニアのは魔術ですからね」
……わからん。
彼女たちにとって俺の力と魔術は大きく違うようだ。
考えられるのは、この世界にはスキルという概念がないということ。
魔力と魔術はあっても、スキルはない。
だから俺の『万能漁師』が特別に見えるのだろうか。
まぁ、あの神様のこと。
きっと俺にもわかりやすい言い方にしたのだろう。
で、俺にも魔術が使えるのかな?
わくわく。
「うーん、使えるようにはなるかもだけどー……」
ルニアは残念そうな顔をしている。
聞くと、今の俺には魔力がからっきしないのだとか。
魔力の絶対量は幼少期が極めて大事。
今の俺が死ぬほど頑張っても、ほとんど魔力は得られないとか。
数十年頑張って、ルニアの100分の1くらい……。
うーん。
時間がかかりすぎるな。
残念。
魔術は諦めよう。
やはり漁師生活に勝るものはないということ。
海人万歳。
ルニアが来て、10日ほど経った頃。
ほんのわずかだが、水も風も冷たくなっている。
ふむ、気のせいかな?
ちゃぷちゃぷ……。
波間で遊んでいるシロちゃんにも聞いてみよう。
「体感、海が寒くなってない?」
「にゃうん」
シロちゃんが頷く。
どうやら俺の気のせいではないらしい。
確実に気温も水温も低下している。
異世界に来て約1ヵ月。
これから冬に向かうのか?
ものすごーくいまさらな話だが、季節を意識する。
冬は果たしてどうなるのか。
溺れることはないが、魚の量は心配だ。
もし大きく魚の量が減ったら食料事情が悪化する。
それは問題だ。
俺も保存食作りに専念すべきか……。
あるいは森の探索をするべきか。
シロちゃんを撫でながら悩む。
ルニアもギンも猫ちゃんを撫でている。
我が家は常に猫をもふっていた。
「うーん、この猫ちゃん……」
「ギン、どうかした?」
「お腹が膨れていると思うんですよね」
ギンの膝にいるグレイちゃんは確かにお腹周りが太い。
初めて会った時に俺も思ったことではある。
グレイちゃんのお腹をギンが優しく撫でる。
「んにゃー」
「やっぱり、この猫ちゃん……妊娠してます。
しかもすぐ生まれます」
「!?」
ええっ!?
マジかよ。
太っていたんじゃなくて、妊娠してた。
さっぱり気づかなかった。
あわわわ……。
なんてこった。
妊娠だけでも一大事なのに、出産間近とは。
どうすればいいんだ。
俺の頭の中が一気にパニックだ。
異世界に来て、最高レベルに慌てている。
えーと、えーと……。
とりあえずお産ができるところ?
どんな場所がいいんだ。
考えろ、俺。
そうだ。
清潔な場所か。
それがいいに決まってる。
新しい葉のベッドを用意しなくちゃ。
水は?
綺麗な水はあったほうがいいよな。
あとは……猫の出産には何が必要なんだ?
前世でも猫の出産に立ち会ったことがない。
わからん。
誰か教えて。
あわあわしていると、ルニアが猫ちゃんを脇に置いてぐーっと伸びた。
「まーまー、落ち着いてよ~。
動物の出産立ち合いなら、経験あるし」
「え?」
「ですね。私も馬の出産にはよく立ち会っていました。
……サムライですので」
貞操逆転世界じゃないの?
と思ったが、それは人族に限る話だった。
動物は普通に雄と雌が生まれてくる。
魚類も両生類も爬虫類も鳥類も哺乳類も。
当然、植物だって雄と雌は正常に生まれてくるらしい。
そりゃそうか。
でなけりゃ全生物が全滅だ。
「にゃーう」
どんと構えていなさい。
シロちゃんは落ち着いていた。
……ふぅ、なんとか冷静さを取り戻せたぞ。
ふたりに立ち合い経験があるのは心強い。
とりあえずは出産場所だ。
「新しい小屋作りが間に合うかわかりませんので、
主様の大切にしているあの小屋を使わせてもらえれば……」
ギンが指名したのは、神様の像を安置している小屋だった。
確かにあの小屋はいつも俺が綺麗にしている。
広くはないが、猫ちゃんの出産には十分だ。
「もちろん構わないよ」
神様も増えて満ちよと言っていた。
猫ちゃんが増えれば、喜んでくれるだろう。
というわけで真水で神様小屋を掃除する。
あとは綺麗なベッドか。
ルニアがちょうどいいように炙った葉を持ってくる。
加熱殺菌処理というわけだ。
ふむ……。
俺は何をすればいいのだろう。
何かしてやりたいんだけど。
「出産後、母猫にはたくさんの食べ物が必要です。
母乳を出すために栄養を使うので」
「そうそう~。めちゃくちゃ食べるんだよー」
!!
いいことを聞いた。
それならば俺の出番だ。
こうしちゃいれらない。
「よし、シロちゃん。海に行こう!!」
「にゃうっ!!」
たとえ冬が近づいていようが関係ない。
生まれてくる子猫のため。
俺たちは漁に出る!
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