10.新しい住人(猫ちゃんズ)
ギンが来て、1週間。
色々と保管用の小屋が増えた。
保管には海風がよくない。
なので増やした小屋はやや陸側に置いている。
伐採した跡地を有効活用できるし。
まずは魚小屋。
解体処理した魚の保管庫だ。
さらに作った木箱の中に入れておく。
しかし、長期保存は不可能だな。
せいぜい1日か2日。
2日の場合は加熱必須でもある。
「塩漬けや天日干しを試したいところだなぁ」
「雨が少ないのなら、可能性はあります」
「にゃーん?」
「雨が降ると水分が多くなって、腐敗するんだ。
保存食はからからに干さないと」
「にゃう!」
ギンに聞いてみたが、さすがに保存食の作り方までは知らなかった。
というより、何もないからね。
まともな塩も冷蔵庫もない。
これで保存食を作ってくれと言われても無理だ。
「ですが、腐敗した食べ物はすぐにわかります。
狼ですので。匂いには敏感です」
「にゃーう!」
僕もわかるよ!
シロちゃんも頼もしい。
犬と猫は嗅覚がすごいと言うしな。
そこは頼りにしよう。
そしてもうひとつの小屋。
水の保管小屋だ。
ここは真水を溜めた木の容器を置いておく。
今のところはギン専用。
しかし住人が増えたり、食の多様性のためには必須だ。
真水がないとあら汁も飲めない。
どんな料理も不可能。それは悲しい。
さらに保管の小屋をもうひとつ。
こちらは果物類の保管小屋だ。
シロちゃんが見つけてきた、木いちごと野ぶどう。
ギンも大葉やタンポポを見つけてきた。
……大葉はわかるけど、タンポポ?
なんとタンポポは食べられるのだ。
味はノーコメントで。
「陸側も色々とありそうだね」
「はい。探検が楽しみです!」
最後に作った小屋は、神様を祀るためのものだ。
俺をこの世界に送ってくれた神様。
感謝してもしきれない。
姿はわからなかったのだけど、長身の男性っぽい気はする。
なので、それらしく彫った小さな木像を安置した。
出来栄えは……図工で4くらい。
時間がある時に練習しよう。
祭壇もセットで、塩や魚をお供えすることにする。
できた小屋はこんなところだ。
ヤシの林の一角がなくなり、俺たちの利用スペースになった。
漁をしながら木箱も作り、保管物を増やせるようにする。
サバイバル生活をしていて思うのだけど、文明とは入れ物だ。
入れ物が文明度の目安になると痛感した。
いずれは土器なども作りたいが、いつになることやら。
でも焦ることはない。
島生活もまだ1ヵ月目だ。そんなに色々は揃わないさ。
のんびりやろう。
そんなある日、灰色の猫がやってきた。
お腹周りが太めの猫ちゃんだ。
可愛いです。
灰色の猫はシロちゃんの下に行き、頭を下げた。
「にゃーん」
「にゃう……!」
「にゃにゃーん」
何やら話している?
シロちゃんが灰色の猫を従え、俺のところに来た。
「にゃうにゃう……」
俺に猫語はわからぬ。
でも雰囲気で伝わってきた。
――この子もいていい?
きっとこんな感じだ。
「もちろん、いていいよ」
俺にもギンという大切な人ができた。
シロちゃんにも仲間がいるべきだ。
幸い、食料には困っていない。
猫ちゃんが増えても大丈夫。
「にゃう! にゃうん!」
ありがとう、とっても感謝!
シロちゃんと灰色の猫の尻尾が空を舞う。
うんうん。
猫ちゃんは大歓迎だ。
「じゃあ……君は灰色だからグレイちゃんで」
「にゃん♪」
雄か雌なのかがいまいち、わからんけど。
この名前ならどっちでも大丈夫。
……多分。
でも想定外がひとつあった。
「にゃう!」
「にゃー」
「はにゃー」
続々と猫ちゃんが茂みから出てきた。
グレイちゃんはなんと、猫の群れのリーダーだったのだ。
一気に10匹近い猫ちゃんが増えました。
「まぁまぁ、素晴らしいことじゃないですか。
猫ちゃんのお世話はいくらしても飽きませんからね」
ギンはシロちゃんのマッサージをしていた。
彼女、こう見えて生粋の猫好きである。
暇があればシロちゃんをもふっている。
「猫ちゃんは福を招くともいいますし。
これからの運気も上昇間違いなしです!」
「だが、ご飯は……」
「にゃう!」
心配無用。
シロちゃんの目が語る。
それは本当だった。
シロちゃんの賢さが、猫全体を導いていったのだ。
具体的に言うと、猫ちゃんは採集部隊として大活躍してくれた。
どこからともなく木の実や食べられる草、ヤシの実を持って来るのだ。
さらに保管された食料を狙うネズミも退治してくれる。
ありがとう、猫ちゃんズ。
でも勝利の証として獲ったネズミを見せてこなくていいからね。
気持ちはわかるけど!
「取った首を主君に見せるのは、大切な儀式かと」
サムライのギンはそういう感性なのか。
重みがある……。
ネズミだけど。
そうだ、こういう時こそ。
サムライのギンに任せたりできないだろうか。
「ギンが狩りの責任者ということにできない?」
「主様、そのような名誉ある職を頂いてもよろしいのですか?!」
……うん。
猫ちゃんにやりがいは必要だと思う。
それは間違いない。
でも獲ったネズミには、俺はあまり興味ない……。
現代人ならみんな、そうだと思う。
「いまだ未熟ながら、四条ギン! 大役を務めさせて頂きます!」
きちっと正座をして宣言するギン。
カッコイイ。
まぁ、首実検するのはネズミなんだけど……。
でもギンもやりがいあるみたいだし、良しとしよう。
経験による適切な業務というやつだ。
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