その0
10年後、自分がどんな大人になってるかとたまに考えることがある。10年後の2
0歳の自分、正直想像もつかないよ。身長も175はクリアしててほしいし、格好いい
スーツがしっくりくるハンサムになっていたい。こんなこと言おうもんなら、すぐさま
「お前、鏡を見たことがあるか」って言われるに決まってんだけど、そんなの言われな
くたって分かってるし、鏡を見ては理想にほど遠い45点の上半身にげんなりしてる。
多分、未来なんてそうそう変わんない。オレが50点や60点になることは努力次第で
あっても、90点オーバーになるような夢みたいな眩しい時間はやってこない。競馬で
万馬券を当てたり、宝くじで億を当てたりするようなものだ。不可能ではないにしても
限りなくそう言われてる感じ。まぁいいんだ、それはそれで。オレはそんな自分を受け
止めているし、友達や仲間だっている。そう、忘れられやしない仲間が。
「瞋恚に燃えて滾る情熱は炎の如し、レッド参上」
「成敗の所以は水の低きに就くが如し、ブルー参上」
「太陽の雨は正者に降りて不正者を懲らす、イエロー参上」
「万緑の翼は清所を飛び立ち澄空を翔ける、グリーン参上」
「情愛の美に抱かれ真に生きる種の輝けし、ピーチ参上」
きっと平凡で確変なんかないはずの10年後のオレ、見てるか。今の人生、辛いだろ
う。ごめんな、オレのせいで。でもな、これはやらないといけないんだ。あんな薄汚い
奴がのほほんと適当に生きているなんて許せない。そんな世の中、オレたちは生きてい
たくないんだ。分かってよ、何べんだって謝るからさ。それに、10年後のオレも分か
ってくれんだろ。だって、オレなんだから。
「正義の剣をを宿し悪を絶つ、我らリベンジャー」
なぁ、キマってるだろ。何百回ってやってきたポージングなんだから。まさか、こう
して本当に悪者を退治するようになるなんて思いもしなかったけど。初めのうちは自己
満足だったかもしれない。いや、今でもそうなんだと思う。こうすることで、自分たち
の手でもって制裁をくだすことで納得させようとしてるんだろう。いいじゃないか、別
に。被害者の無念を関係者が果たしちゃいけないのなら、それはそっちの方がおかしい。
加害者に国が手をかけるなんておかしくないか。被害者本人が返すのが理にかなってや
しないか。本人が返せないなら、関係者がやるべきだ。十発殴られたっていうんなら、
やられた当人が十発殴り返すのが普通だろ。同じ方法で、同じ強さで、同じ痛みを与え
ないといけない。そうしなきゃ、加害者と被害者はいつまでもそのままだ。世間体も、
当人も。国が法律に基づいて決めた罰なんかで被害者の溝は埋まらないんだ。そうさ、
この手でやらないといけないのさ。被害者の手はもう動かないから、この手で。
「いくぞぉっ」
掛け声とともに、オレたちは波打つように駆け出した。このときの気持ちといったら、
もう何事にも表現しようのないものだった。心を真っ赤に燃やして、体ん中をメラメラ
にしちまったみたいに熱かった。そんぐらいに我を忘れてた。他の4人もそうだったと
思う。とにかくありったけのへなちょこパワーを繰り出した。火事場のクソ力っていう
やつもあったかもしれない。もう、どうなってもいいからって思ってやけくそになって
ぶっ飛ばしまくった。あいつが奪ったものと同じものを奪うために。それがオレたちリ
ベンジャーの使命だと信じて。