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女王


 まさか千年前の人間だと打ち明けるわけにもいかない。突拍子もない話すぎて、不信感を抱かせてしまうだろう。


「そうでしたか」ホルスは得心したようだ。「他国と変わりません。ビキニアーマーの女騎士たちの支配下にあります」

「詳しい話を聞かせてくれ」


 その後、ホルスの語った話はレグルスにとって衝撃的なものだった。

 エルスワース王国だけではない。

 グレゴリア大陸全土がビキニアーマーの女騎士たちに支配されていた。


 あの日――ビキニアーマーの女騎士たちはエルスワース王国の王都を陥落させた後、他国に対しても侵攻したのだろう。

 そしていずれの国も太刀打ちできなかった。主要な大国は全て陥落した。そして女騎士たちが女王として各国を統治していた。


「……俺たち男は奴隷として使役されてる。人権もなく、食うにも事欠く生活だ。ほんの少しでも奴らの機嫌を損ねようものなら、即座に処刑される」


 負傷した男が呻くようにそう語った。


「男は皆、女に奉仕するための奴隷でしかないんだ」

「僕たち男は生まれながらに大罪を背負っているんです」

「大罪?」


 レグルスの問いにホルスは頷いた。


「今よりも遙か昔――大陸を占拠するために女騎士たちが戦うより前の時代――男たちは女性を支配していた。抑圧し、付属品のように扱っていた」


 ホルスは女騎士たちの言葉を代弁するように口にした。


「だから僕たち男はその報いを受けねばならないと、そういうことだそうです」 

「……酷いもんだ。ゴミみたいに使い潰されて、虫けらみたいに殺される。それで今までに何人も仲間がいなくなった」


 そう吐き捨てる男の表情からは、彼らの過ごしてきた日々の過酷さが読み取れた。生まれながらに大罪を背負わされた者たち――。


「…………」


 レグルスはセラフィナの言葉を思い返していた。


 彼女はずっと夢見ていた。

 誰もが抑圧されず、自分の意志で生きる道を選べる世界を。

 少なくともエルスワース王国の現状はその理想郷からは程遠い。それどころか、昔よりも状況は悪くなっている。


「あの、レグルスさんはどうしてこの国に?」

「ビキニアーマーの女騎士たちを一人残らず殲滅するためだ」

「「……っ!?」」


 その言葉を受けて、ホルスと負傷した男は明らかに面食らっていた。


「ビキニアーマーの女騎士たちを……殲滅する……!?」

「そうだ。俺はそのために今まで生き長らえてきた」

「ば、馬鹿なこと言うんじゃねえ!」


 負傷した男が狼狽したように口走った。


「あんた、自分が何言ってるのか分かってるのか? ビキニアーマーの女騎士たちは大陸全土を支配してるんだぞ!? いったい何人いるのか……その全員を倒すなんて、いくらなんでも無謀すぎる!」

「だとしても関係ない。それが俺に課された役目だからだ」


 そのために地獄の底から舞い戻ってきた。

 千年間、ずっとそれだけを考えて生き延びてきた。


「……ビキニアーマーの女騎士たちには誰も太刀打ちできない。だから、僕たちはずっと震えていることしかできませんでした」


 ホルスは俯きながら、今までのことを振り返るように言葉を紡いだ。


「けれど、そこにレグルスさんが現れた。ビキニアーマーの女騎士たちに打ち勝つことができる凄腕の剣士が」


 静かに、けれど熱のこもった言葉。


「――レグルスさんがいれば、この国を変えることが出来るかもしれない。それどころか世界を変えることも夢じゃない」


 ホルスは顔を上げると、レグルスに対して言った。


「あのっ! 僕もいっしょに戦わせてくれませんか!?」

「断る」


 レグルスはその頼みを一蹴した。


「俺はただ自分の役目を果たすために戦うだけだ。足手まといは必要ない。俺はお前たちを守ってやるつもりなどない」

「――それでも構いません」


 ホルスは怯むことなく告げた。


「足手まといになるのなら、盾として使ってください。そうすれば、レグルスさんの剣を敵に当てるだけの隙ができます」

「……本気で言っているのか?」

「もちろんです」

「死ぬかもしれないぞ」

「分かっています。けど、何も出来ずに死んだように生きていくくらいなら、生きるために戦って死んだ方がマシだ」


 ホルスは真っ直ぐにレグルスを見据えると、迷いのない口調で言った。


「自由を勝ち取るためには、命を懸けて戦わないと」


 その目には強い意志の光があった。確かな覚悟があった。冗談でも酔狂でもない。それは心の底から湧き出た芯ある言葉だった。


「……ふん。性根まで奴隷になったわけではなさそうだな」


 レグルスは口元をふっと緩めると、観念したように呟いた。


「……好きにしろ」

「ありがとうございます!」


 ホルスは深々と頭を下げてきた。


『本当に連れていくつもり?』とアウローラが尋ねてくる。

「王都に乗り込むのならツテはあった方が便利だろう」

『そんなこと言って、ほだされたんじゃないの?』

「情に流されるほど、俺は甘い人間ではない」

『どうだか』


 レグルスは鼻を鳴らした。


「ところで、エルスワース王国は今、どんな奴が統べているんだ」


 王都が陥落した後――エルスワース王国は女騎士たちに占拠された。その後、いったい誰がこの国を統治しているのか。

 男たちから人権を奪い、大罪人として扱い、奴隷として使役する元締め。

 レグルスたちにとっての倒さなければならない敵。

 ホルスはその名を告げるように、口を開いた。


「この国の今の女王は、ウルスラという女性です」

「――っ!?」


 その名を聞いた瞬間、全身の血が冷たくなった。


「ウルスラ……だと?」

「はい」


 ホルスは静かに頷くと、レグルスに対して告げた。


「ウルスラ=ペインローザ――彼女は千年前の英雄大戦を戦い抜き、七人の鎧姫セブンビキニクイーンと冠された世界最強の女騎士です」

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