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「ただいま帰りましたー!」


「「おかえりなさい。」」「ご苦労。」


 母と父は優雅に茶飲み休憩中のようだ。兄は光を受けててらてらとしている物体を手に巻き付けながら絶賛読書中である。


「は・・・?」

 目線を送っても、紅茶談義に夢中の母達は気にしていない。変人しかいないこの家で私が杉の木目のように真っすぐ育ったのは、いわゆる「使用人」の常識的な行動と、やはり持って生まれた感覚であろうと思う。私の世話をしてくれるシュリーにこの推論を話したところ、「?そうとしか考えられませんね。。。」と言っていたのでこれは間違いないと確信した今日この頃である。


「ところで・・お兄ちゃん?

ラスカルさんってどんな見た目?」


「こげ茶色の髪の毛と瞳を有していて、背丈は平均的だ。」「そうじゃない。」


「それは部のみんなそうでしょ。じゃなくって、もっと目印になるような・・・こう・・なんかないの?」


「ない。何か問題が発生したのか?」「問題大あり!明日打ち合わせなのにどの人かわからなかったら危ないじゃん!!!」


「それなら心配ご無用。無論この、馬車馬のように頼りになる兄が紹介してやるに決まっているだろう。うちのか弱い妹君をほいほい放り出せるわけがない。俺がどれだけお前を心配しているかわかるか?わからんだろうな。よかろう。幼少期、いや生まれてきてからの十大で重大なエピソードを母上の刺繡のごとく詳しく細部にわたって説明して」「了解おやすみー」


「エレナ、寝る前にきちんと夕餉を取りに来なさいねー」

「わかっております。母上。言葉の綾?というやつですよぅ。」



&&&&&&&&&&&&&&&&&&



「おはようございます。今日はどのようにお召しになりますか?」

「シュリー、もう敬語はやめてよ。そもそもこんなことしなくてもお給料は毎月きちんと出すから。ドレスは一人で着られるように改良したって昨日も言ったじゃない!」


「申し訳ありません。お嬢様の高度なお考えは私には理解することができません。庶民には庶民の、貴族には貴族の役割があるではありませんか。それをこなすだけではダメなのですか?それとも、、私の器量や技量が足りないのでしょうか?」「そうじゃなくて~~~」


「ねえシュリーはさ、みんなが同じ身分だったらな、とか思わないの?」「思いませんが?」


 味方が変人しかいない。これが目下私が一番苦戦している問題である。

 シュリーと毎朝起き抜けに問答をするたびに思う。もっと良い言い回しがあるのにと。もっと説得力のある理由と大義名分がないと賛同してくれる人はいないだろうと。

 私が政略に関わることを、何も考えていないようで話し合いは定期的に行っている両親は、賛成していない。であるからして、私に今すぐできることはまずシュリーを攻略することである。身近な処から行動を起こしていく所存で奮闘中なのだ。

 よって今回の依頼は砂漠でサボテンを見つけたかのようにうれしかった。



%%%%%%%%%%%%%%%



キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコォン


「あら、もう予鈴が鳴ってしまったのね。でもまたいつでもお金の相談に来て頂戴ね。お金のことならどうとでもなるわ。お金ならね。ではお元気で。うふふ」

 フットマー侯爵令嬢も絶対に兄嫁にしてはならない。50分間ずっと金のことしか話さなかった。ちなみに「お金」という単語を発したのは72回であった。


「おーい、兄が参上したぞ!こいつがお前の助手になるラスカル・アルセーヌだ。」

「アルセーヌ子爵が次男、ラスカルでございます。よろしくお願いいたします。」


「こちらこそよろしくお願いいたします。エレナ・スリリングと申します。」


 またも屋根裏に強制連行である。今回はあの令嬢の金自慢が金太郎飴のように長かったことが昼休みを潰された原因であるから、兄を責めることはできないが。


「これで自己紹介は無事に終了したな。仲良くするんだぞ。

兄は任務に出かけてくる故、後は二人で計画の詳細を少なくとも今日中に詰めておくように。」

「「了解」」兄の気配はすでにない。



「では本題に入る前に少しお話したいことがあるのですが、よろしいですか?」

「もちろんです。」


 ラスカル氏は20代前半から30代後半。具体的に何歳か想像がつかないが、学園にふさわしいスーツを着用していて、色白で穏やかそうな御仁である。横から拝見するとすらっとして見えるが正面から見ると意外と肩幅があるように見受けられる。要するに諜報部にうってつけの見た目をしている。


「この脱貴族計画の発案者はあなただと、()に伺ったのですが、本当ですか?」

「はい。そうですが、行動に移すことが出来ているのは兄で、私は思いつきを口にすることしか出来ないのです。臆病者ですから。」

「いえ、そんなことはないですよ。その思いつきが素晴らしいです。我ら諜報部では計画を聞いて、『脳みそが変わった気がする!』と叫んでいる者もいましたから。」


「それはありがとうございます。」

諜報部の人間も変人揃いなのだろう。


「それで、どこからこのような発想が生まれたのか今日は伺ってみたかったのです。宜しければお話しいただけますか?きっとこの計画を詰めていく上で原点というのは大事な役割を果たすと思うのです。」


 確かに言っておいた方がいいだろう。


「もちろんです。少し長い話になってしまうのですが。

あれは十年ほど前のことになります・・・」






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