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新しい朝

 べふぅ。昨日が楽しかったお陰か夢見もよく。眠気が無くなるまで寝られる贅沢、感無量です。

 ティラノの突進を受け止める美女も恐怖が過ぎた今なら良い思い出。

 夕食はDNAレベルでウナギな何かのセイロ蒸し。風呂の湯は草津と同じ泉質と聞く謎の至れり尽くせり。

 どちらに足を向けて寝れば良いんでしょうねぇ。


 ……寝て起きたら夢だった。とはならなかったなぁ。いやはや女々しい事。

 ゲームや本を軽く調べてみたら本当に続きが大量にあったってのに。

 我が国から産まれた人造人間による宇宙制覇は無かったけど。……いや、良いんだ。続巻が出なくても素晴らしい小説だった。それで良いじゃないか。


 さて快便終わってどーすんべ。声で呼べば昨日のお嬢さんが来てくれるとの事だが。寝る寸前まで付きっ切りだったしな。

 ハイスペそうなPCも部屋にある。操作しやすいようマウスとキーボードまで付けてくれたのだし、活用しないと。

 とりあえず数時間は昨日教えてもらったデータベースから本でも読んで、

「お早うございます我が主よ。朝食をお出ししてもよろしいでしょうか」


 !? いやいや突然で何が悪い。適応していけ。振り向いて、笑顔……で!?


「お早うございます。朝食お願いしま……す」


 何その恰好。待て眼球動くな。視点は相手の目に。


「おお、我が主よ。文句一つ漏らさないのは素晴らしい忍耐力ですが。『次からは突然扉を開けないで』くらいのお言葉は欲しいですわ。

 お恥ずかしながら予想されている通り監視しておりましたら共にこの部屋に居た気分に。今の貴方様の驚きを推測致しかねましたの。

『開ける前に一声かける』という文化を今記録から掘り出し、恥ずかしい気持ちに囚われております」


 昨日の露出激しい恰好も何だが、今日は何故タンクトップと……トランクスに見える。嘘でしょ。夏の男の部屋着かい。

 私も大好きというかそれ以外の恰好は邪魔なだけとも感じてた。しかしこのお嬢さんだかバイオロイドだかのハシタナイ造形だと凄まじい事に。

 どういう基準で選んでるんだ?


「何時でも様子を見て頂いてるんですから、驚く方が理屈に合わないんですよ。

 さて朝食は何でしょう」


「監視と言われてもお楽しみですし、割り切っておいでで(しもべ)は楽で御座います。ではこちらの机へおいで下さいませ。今出てきます」


 態々監視なんて言うのは面白いだけよ。それよりトンデモ服装の方が衝撃です。しかし―――よし。関係ない。

 この誰でもするけど誰にも見せない服装にどんな理由があろうと口出す事じゃない。気にしなければ良い。

 そもそも自分に大して影響無い物事に口を出すは愚か者。電車内の煙草に文句を付けるが如し。

 あー、ただバイオロイドだとしても一つ……いや、今は良いか。

 それより朝食よ。わー。めっちゃ和風。お。焼き魚。この匂い。もしかして……。


「これもしかして秋サンマですか? いや。もうこんな表現しないかな」


(しゅ)と話すと保護出来たデータが一部であるのをしみじみ感じさせられます。最も美味しい時期の。との意味ですわよね? 匂いでお分かりになりますの」


「当たりだと最高級の肉より美味しくて好物でしたから。

 しかし寝る頃には中国が他国に取られるくらいなら。と、根こそぎして食べれませんでした。まぁ我が国が長い間粗末にしたのが一番悪かったのかも。

 では頂きます」


 うむ―――うむぅ。美味い。油が乗っておる。これならシャトーブリアンとも殴り合える。あんなアホな物食べた事無いけども。

 でも良いのだ。大根おろしと醤油まである。素晴らしい。良くこの至高の料理が残ってた。もう食べられないかと思ってたよ……。


「随分ご満足頂けたようで嬉しく思います。食後にこちらは如何でしょう。

 貧乏人は三割でも手が出ない緑汁です」


 んー? この匂いは良く知ってる。ただより上質、かも。さてお味は。


「渋み、苦味が少なく甘い感じが強い。……えーと。あ。

 玉露じゃん。って誰が三割のを売れ残り半額で見つけて幸せになる貧乏人ですか。

 そんな事までデータが残ってたんですか?」


 あの仁義なき乞食ハイエナ共の集う半額セールの戦い模様まで? 私が百戦錬磨の乞食だった事は……流石に、知られて無いよね。

 べ、別に恥てねーし。パートの人がシール張るまで待つという最低限のマナー守ってたし。


「まさか。せっかく喜劇染みた答えをして頂きましたのに、売れ残り半額の意味を今一つ把握し損ねている程で。

 所で、先ほど何かこの(しもべ)に仰ろうとなさっていませんでした?」


「何か? ……茶が旨い……。ああ、貴方は端末だとしても生体なんでしょう?

 なら睡眠が必要じゃないかと。加えて私、睡眠の邪魔をするのもされるのも大嫌いなんですよ。

 思う存分寝る為だけに仕事を辞めようかと思ったくらいで。

 ですから貴方の休みを削るのも嫌だと相談したくて」


「まぁ。お気遣いに感謝を。確かにこの体も休息を必要としてはおります。

 しかし……人は、人型と会話していなければ心に余計な重圧を受けるもの。

 健康は何とでもなりますが心は難しい。常に安らかであって頂きたいのです」


「有難い話ですし仰る通りだと思います。とは言え昨日のようにずっと一緒でないと病むようなら、今すぐ新しい人を起こした方が良いんじゃないですか?

 常に拘束したがる人は他人をコンピューターと勘違いしてる精神病でしょう。

 なので私の事はもう少しお気になさらず。寂しければ遠慮せず言いますので」


「この身がそのコンピューターなのですけど……。分かりました。有難くこの体の調整に十分の時間を取らせていただきます。

 朝のご用事は『このようにマイクを使って会話させて頂いても良いでしょうか?』


 おっ。PCから声が。―――ふぅむ。


「冗談でPCが彼女であると言っていた物ですが。こう、本当にPCと会話するようになると、えも言えぬ感慨がありますねぇ」


 そしてただ一人の親友はボールってな。良い言葉だ。サッカーのルールを知らない人が考えた単語とは思えない。


「……。他に。この身に仰りたい事は御座いませんか?」


 あらスルーされてしまった。下らな過ぎたね。


「他に。と言われると、食事も終わりましたし。仕事を教えて頂きたいくらいです」


「もう、ですか? 今の環境になれるまで数か月程度ゆっくりなされては」


「仕事を始めたら五連勤必須で、年間百十日までしか休日が無い。なんて事は無いのでしょう? なら概要を早めに知って風呂に入りながら考える方が好みでして」


「それは、勿論。環境の調整は直ぐに終わるような仕事でもありませんから。

 承知致しましたわ。お言葉に甘えて仕事を始めて頂きます。では、PCの画面をご覧ください」

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