戦場からの手紙
僕と弟はテレビに映し出されているウクライナの兵士であるユーチューバーが撮った画像を眺め、ロシアの戦車や装甲車と攻撃機やヘリコプターが撃破されるのを見ていた。
戦車や装甲車がアメリカ等から供与された兵器で撃破され火だるまになったり、攻撃機やヘリコプターが黒煙を上げて墜落して行ったりする様を見て歓声を上げる。
「「ヤッターー!!」」
そして弟とハイタッチする。
そんな僕たちとテレビの画面を見た婆ちゃんが、僕たちに手紙を差し出しながら声を掛けて来た。
「その番組を見るならその前にこの手紙を読んでからにしなさい」
「「え? これ何?」」
「ベトナム戦争に特派員として派遣されていた私のお父さん、あんた達の曾祖父から私に送られて来た手紙よ」
僕と弟は首を傾げ渡された封筒から便箋を引っ張り出し読む。
便箋の最初から数枚は自分の近況を伝え家族が変わりが無いか等を問うものだったけど、残りの数枚は違った
『また2日程前にインタビューしたばかりの兵士たちが、今日戦死した。
ニューヨークのスラム出身の兵士。
馬鹿で粗野な俺は徴兵された事で、犯罪に手を染めて刑務所に入れられるのが数年先に伸びただけだけど、でも徴兵されたお蔭で貯金が出来たから、この金で俺より遥かに出来の良い妹を大学に進学させる事が出来る、と笑顔で語った青年。
オクラホマの地図にも載って無い町が出身地の兵士。
徴兵されなければ多分、一生生まれ育った町から出る事は無かっただろうけど、徴兵されてカリフォルニアの大都市や日本を見学出来た。
だから除隊したら、シングルマザーの母ちゃんと弟や妹を連れて海外旅行に行きたいなと語った若者。
ベトナム人からすれば憎むべき侵略者で殺すべき敵だろう。
でも彼等は、日本の高校を卒業したばかりの若者たちと変らない夢も希望もある普通の青年たち。
政治家や政府の役人それに金持ちの息子や孫であれば徴兵されても、戦死する危険性が極めて低い本土やヨーロッパの部隊に配属されるのに。
だから、テレビでアメリカ軍であろうとベトナム軍やゲリラ部隊の兵士だろうと、撃たれ倒れ伏した兵士や撃破され燃え上がる戦車や航空機の映像が映し出されたら、彼等の死を悼んでほしい』
等と書かれていた。
渡された手紙を読み終えた僕たちは顔を見合わせ、黙ってテレビを消した。