事態と節目と条件達成
パトリシア達の出発地点でもあった拠点跡地から歩いて塔の前に辿り着くころには、すっかり騒ぎは収まっていた。収まっていたのは騒ぎだけで、地面の赤黒さとかはそのままだったけど。
しかし改めて見ると酷い状態だな。襲撃された方は疲れていた上に突然の事だったからもちろん、襲撃した方も自分を守らないやり方だったから、双方共に被害が甚大だ。
それでも何とか被害者は出さずに済んだらしく、パトリシア達にお礼を言われた。ついでに、私が黒いドラゴンを撃った時の感想もついてきたが。
「――ところで、あの奇妙な裏切りについて心当たりがある、との事だったが?」
「手中愛娘。そう名乗っている筈の女子高生が元凶だ。大人数へ同時に発動できる強力な魅了スキルを保持しているのはほぼ確定、見た目を完全にコピーして、多少なら思考も読み取れるスキルもまず持っている」
「たなか。たなかあいこ……あー、あーあーあー、はいはい」
どうやら隠密系騎士の方は名前だけで思い当たったらしく、何度か頷いていた。……その後ぼそっと「あれか」と呟いていたので、恐らく馬鹿認定の中に入っていたんだろう。まぁ、入るだろうけど。
パトリシアはピンと来ていないようだったが、強力な魅了スキルと見た目(と思考)をコピーできるスキルって時点で警戒対象には違いない。というか、警戒して欲しい。本当に。
とはいえ、その本人は行方を晦ましたままいまだに姿を見せていないんだけど。どうやら特に一緒にいた数人も姿が見えないらしく、どこか別の「安全地帯」に移動してほとぼりが冷めるか、こちらが移動するのを待っているんだろう。
「しかし、置いていく訳にはいかないだろう?」
「いやいやいやリーダー待て待て。今までは何を拾っても大体何とかしてきたが、あれはダメだ。むしろ置いて行かないと被害が減るどころか増え続ける」
「同意見だ。あれは絶対に、何があっても、恐らく死にかけたところで反省とは無縁の人種だぞ」
「そんな事は無い。どんな人間だとしても、きちんと話し合えば分かり合える」
「分かった。言い方を変えよう。あれは人間ではない。外道だ」
「わーぁ何かやけに実感籠ってるし詳しい気配がするけどこれ以上突っ込まないぞー。リーダー、俺も何回も言ってるように、人間の形をしてるだけの違う生き物っていうのはいるんだからな?」
「いや、だが、実際共同生活を送ってはいたし……」
「騙す為の外面皮一枚だな。というか、その果てにこうやって「被害を最大化する方法で」裏切られているんだろうが」
「そうそうそれそれ。何より本人達が姿消して合流してこないんだから、そっとしとこう。な!」
「だが……」
案の定パトリシアが寝言、もとい彼女なりの信念にもとづいてゴネ、反論してきたが、今回ばかりは私と隠密系騎士の意見が完全に一致していたので、何とか説得して折れさせることに成功した。
もっとも、しばらく様子を見る、という意見は通ってしまったので、パトリシアと隠密系騎士、そしてあの、結局正体不明の大柄な全身鎧の推定騎士はここにしばらく残るようだが。
他のグループはというと、治療の為の素材を集めに階層の中を再探索していたり、さっさと先に進んでいたりする。まぁ、絶対に協力しなければいけないボス戦は終わったから、そんなもんだろう。
「ところで! 君たちはどうするんだ? 出来れば行動を共にしてほしいんだが……」
「今回のはあくまで、一時的な協力だ。事前に確認していた通り、私達はこのまま2人で進む。被害らしい被害は受けていないしな」
「まーそーだろーなー。知ってた。お世辞でもなんでもなく事実として、それだけ問答無用の火力があるなら他人は、少なくとも火力役はいらんわな」
という事で、私と満華もこの階層を出ることにした。長かったな、レベル9。広さもそうだが、環境が変わるとこうも時間がかかるように感じるのか。
そして慣れた階段を登り切り、やはり気付けば1人になっていたその場所で
『異世界アイカ取得用ダンジョンの完全突破証明書の発行条件は攻略レベル10の突破、あるいは全要素を網羅した上で攻略レベル6以上の突破となります』
『今回は発行条件を満たす事が出来た為、異世界アイカ取得用ダンジョンの完全突破証明書を発行させて頂きます。また、申請者様のレベルが100を突破している上で、武器を含まない10部位以上の装備を確認致しました』
『よって異世界アイカ発行手続きを進める事が可能となります。発行手続きを進める場合は奥の受付へお越しください。また共に発行手続きを進めたい方がおられる場合は、左手の扉から合流後、受付へとお越しください』
聞きなれた無機質な音声で。聞きなれないアナウンスが流れた。




