接触と質問の情報戦
「あぁ、待った、ストップ。力で押すつもりは無いし何かを強制するつもりもない。ただ、人間一番怖いのは「正体が分からない事」だ。つまり調査隊だよ、俺は。「分からない事」を「知る」為の斥候だ」
全身金属鎧で固め、花と剣の紋章を身につけたその男は、若くて軽い声でそう続けた。もちろん私は首巻き(マフラー)に顔の下半分を、ハンチング帽のつばを引き下げて額から上を、そして目はゴーグルを下ろした状態だ。たぶん目しかまともに見えないだろう。
満華は私が作って魅了耐性と隠密性をメインに強化したマントで全身を覆い、フードを下ろして顔を隠している。スカーフを首に巻いている筈なので、同じく顔は見えない筈だ。
しかも満華のマントの下では、中型猫サイズのひーちゃんがまだ威嚇するように唸っている。正直、私より満華の方が正体不明に見えると思う。
「うん。オーケー。落ち着いてくれたか? 正直反応が無いとわっかんないわけだよ。出来れば返事が欲しい。それもまた「分からない」だ。相互理解が足りなくてすれ違うのは誰にとっても不利益、っていうのがうちのリーダーの方針で、俺としても激しく同意な訳だけど、そちらさんは?」
「…………。まぁ、同意だな」
「うんうん、理解できる言語で理解できる返事があるこの嬉しさ。いやぁ助かる。で、そっちの、獣だか人間だか分からない方は?」
分からない方、と言われた満華は一度その男と私の間で視線を往復させて……すすっと私の後ろに隠れた。なるほど、人見知りします、という風に取れるな。同時に、今すぐ危害を加えるつもりもない、という風にも取れる。
まぁあくまで、そういう風にも受け取れる、というだけだが。と、私も私で、その態度が当たり前のように特に動かなかったのだが。うーん? という感じで首を傾げた鎧男は、ちょっと判断に迷ったようだ。
「えーと、うん。まぁ。今とりあえず逃げたり攻撃して来たりするんじゃなきゃいいや。さっき言葉で返してもらったし、話し合いで終わる可能性はまだ残ってるって事だし。よーし、それじゃいくつか質問してもいいか?」
「同じ数だけ、こちらからの質問にも答えるなら」
「うんうん油断しない姿勢は高評価。正直にってつけない辺り交渉できる人間って事だな。ありがたい。ちょっと立て続けにバカの相手してたから助かる」
で、私の後ろに隠れるって事は、こっそり話が出来るって事でもある。交渉事とコミュニケーション能力に関しては、どう頑張っても満華の方が強いからなー。その辺の判断は全面的に任せて従うようにしている。
だから、今回満華が自分で交渉するのではなく、私を前に出すという判断をしたなら、私が相手をするしかない。苦手なんだけどな。まぁ満華もそれを分かった上で私を前に出したんだし、こうやってフォローできる状態になってるんだろうけど。
「オーケーオーケー。それならまず、最初にして一番重要な質問だ。……君たちは、他の人間を害する意思や能力があるタイプ?」
「無い。……それと、質問は今ので2つ目だろう」
「え、あれも質問カウントになんの。いや確かに疑問形で聞いたけど。まーじで。思ったよりもちゃっかりしててびっくりだよ。いや、それぐらい賢い方が色々助かるしありがたいんだけども」
何かよく喋るし、自分の情報をぽいぽい出してくるが、これも多分情報戦の一種なんだろうな。怖いな、人間。満華は普通にしてるし。巻き込まないでほしかった。(諦め)
「うんまぁその即答っぷりだと嘘は無いだろうし、嘘だとしたら相当厄介なタイプだから俺の手には負えないな。という事で質問3つ目。他の人間と協力する意思はある?」
「無い事は無いが、相手による」
「うーん実に正直なご意見。確かに。まともな奴だけ相手にしたいよな。分かる。特に最近スゲーバカの相手したところだからよーく分かる。最近いなかったからよく効いた。疲労的な意味で。そんじゃ質問4つ目。馬鹿に絡まれたらどうする?」
「逃げるあるいは相手が本気と誤認する程度に威嚇する」
「おっと思ったより平和主義だったぞ? マジか。俺も気ぃ立ってたなこれ。そうかまだいるところにはいるもんなんだな……思ったよりも嬉しい誤算だぞどうしよう」
……。少なくとも、私の目には嘘を言っているようには見えないな。全部を正直に言ってるかっていうとそれも違うんだろうけど。
ここで軽く背中をつつかれる。そして囁き声。
「たぶん嘘は言ってないと思うよー」
まぁ満華にもそう見えるんなら、「嬉しい誤算」とかは嘘じゃないんだな。後は、何を隠しているか、か。




