準備と推測と歩んできた闇
幸い、と言っていいのかは分からないが、少なくとも都合は良い事に、通常のメカやゴーストみたいな敵も時々装備を落とすようになったし、ボスからも私はほぼ固定で装備が手に入る。素材の方はレベル相応で、私の火力もあって相当な量が手に入った。
だから装備の強化も順調に進み、レベル9の50階層目に到達した時点で、私も満華も、マントと靴は限界突破をすることが出来た。……「突破強化素材」はなんか、宝石みたいな見た目の、ぷにぷにした球体だった。不思議素材だな。
後は、敵からドロップした装備の方が強化限界が低いっていうのも助かったな。限界まで強化するのに必要な素材が少ないし、「突破強化素材」としては変わらないみたいだから。その分装備としての性能は低いんだろうけど。
「となると、やっぱり問題は金属系の装備が銃以外強化できないって事だけど」
「そのままモリーちゃんに売っちゃうー?」
「それもありかな。数がすごい事になって来た」
いくら「アイテムボックス」がオプション付きで容量無限かつ重量無効とはいえ、流石にちょっと面倒になって来たな。ソート機能もフィルター機能もあるからまだ問題になってないだけで、もし手に持って持ち歩いていたら、重量で潰れてるんじゃないだろうか。
そのモリーこと招福屋だが、やはりいつでも買い物できるというのはいいものだという事の他に、スキル結晶が入荷したらお知らせしてくれるようになった。私は分からないが、空間の主である満華には分かるらしい。
で、その途中で満華は「宝石加工」というスキルを入手したらしい。何故宝石?
「モリーちゃんに聞いたんだけどー、あの晶石っていうのも宝石になるんだってー! で、装備の強化に加工してから使ったら、状態異常耐性がたくさんつけられるよって教えてもらった!」
「……まぁ、状態異常耐性はいくらあっても無駄にはならないだろうけど」
しかしそれにしても、満華が自分から耐性を用意するって珍しいような……と思いつつさっそく加工された宝石を受け取る。一応「観察」を使ってみると。
「……満華」
「なーにくーちゃん。全部自信作だよ?」
「品質はいいんだけど、何か、やたらと魅了耐性に偏ってない?」
何故……? と思う程、その内訳は魅了、あるいはそれに類する状態異常への耐性が大きかった。いや、確かに食らったら致命的な状態異常ではあるけど、今までの所そんな攻撃をしてきた敵はいない筈なんだけどな……?
と思って聞き返すと、あー、という頷きの後、
「くーちゃんから、ストーカーしてくる妹さん? の話を聞いてたらさー……。その、こっちの方向に努力してるんじゃないかなーって気が、ちょっと、してねー。それに、くーちゃん自身も何となくそんな気がしたから、いっぱい色んな耐性をつける方向で強化してるんだよね?」
と、納得というか心当たりしかない説明をしてくれた。……そっかー。私があんまりにも露骨だったか。あの戸籍上の妹について。
「……まぁ、否定はしない……」
「あの、えーっと、自称妹さん? 茸の一件だけで相当イイ性格してると思うよ。おにーさまの周りでよく見たもん」
「戸籍上の妹な。戸籍上の」
話を聞いただけで分かる「イイ性格」とは。……まぁ確かに、私も、戸籍上の妹について、一周回って感心する事はあったけど。主に自分に対する自信について。
で、その戸籍上の妹が、このファンタジーなダンジョンで自分の為に得る力と言えば……うん。やっぱり魅了とかそういう系統だろうな。自分が労力を支払う事はしない人間だ。
家にいた時は戸籍上の両親もそこに加わってたからな。それと同じ状況を作ろうとするだろう。何せ、あの環境があの戸籍上の妹にとって「幸せ」の形だからな。全く理解は出来ないけど。
「というか、くーちゃんの話を聞けば聞くほど、よく生きてたね? って思えてくるんだけど。なんかだんだん話聞くのが怖くなってきたよ?」
「体面だけは絶対に傷を付けたくない人間だったからな、戸籍上の家族は。それか、葬式代を出したくなかったんだろ。結構まとまった出費になるし、死んだらいくら繕ってもその原因は邪推されるだろうし」
「くーちゃん、怖いよ。もはやホラーだよそれ。ほんとに同じ国の同じ時代に暮らしてた?」
「後は、流石に自分達が何もできないのはうっすら分かってたってのもあるか。便利な道具に頼り切って、壊れたら後がないなら、まぁ修理ぐらいすると思う」
「だからくーちゃん怖いよ? ねぇそれ本当に同じ人間の話? くーちゃんは人間だからね?」
「あの3人がクズに属する人間であるのは確かかな」
「わぁ言い切ったー」
蘭天家のお嬢様とは、正確に言えば違う世界じゃないかな……と、思わなくもない。
……ま、満華の状況もある意味救いがない。地獄は個人それぞれで、比較できるようなもんじゃないからな。
「そこから脱出して自由に暮らすためにも、今はしっかり準備をしておこう」
「それはそうなんだけどー……これはちょっとおにーさまに連絡だけしておいた方がいいかも知れない……」
「たかだかクズ3人、それも私が抜けたら間違いなく自滅する人間相手に蘭天家次期頭首を動かさなくていい」
「うーんくーちゃんが容赦ない。いや、話を聞いてるだけの私でも容赦する必要はないんじゃないかなーって思うけど」
まぁ、私が突然いなくなったら、その分だけ周りに迷惑をかける可能性が無くは無いが……そうなったらそうなったで、今度こそしかるべき場所で裁きを受ける事になるだろう。自業自得だな。




