闇に沈む過去と不透明な未来
毒キノコ鍋の話をしたら、今までの話では精々首を傾げるだけだった満華ですら顔から血の気が引いていたから、やっぱりあれは殺人未遂でいいんだろう。私はその時文字通り生死の縁を彷徨っていたから、自己弁護出来なかったし。おかげでお医者さんから明後日の方向の注意をくどくど聞かされることになったよ。
それ以降、私は茸が入っている料理は断固として食べる事を止めた。戸籍上の家族たちはあれからも毎年キノコ狩りに行っていたようだが、その日は帰ってくるまでに必ず次の日の夜までの料理を作っておいたし。そして茸は全部捨てた。
そういう訳なので、いくら美味しいと力説されても茸なんて見たくも無ければ触りたくもないし、どんなにお腹が減っても食べようとは思わない。まして今となっては、味こそあれだが栄養はばっちり取れる携帯食料が山ほどあるし。
「そういう訳だから、食べたかったら自分で危険性を判別できるようになって、自分で集めて、自分で料理してほしい」
「うん。分かった。ごめんねくーちゃん」
「ギュー」
元々満華は素直だが、これは過去一だな。……もしかしてこの毒キノコ鍋事件、私が思ってるよりも更に最低なのか。大分感覚が麻痺してる上に「普通」を知らないから、自分の評価が客観的じゃない自覚はあるんだけど。
そういう事もあったにはあったが、攻略としては非常に順調だった。他の人も時々遭遇はしたが、流石にここまでくる、というか、レベル6を超えた難易度に挑戦している時点で、もう実力や組み合わせが半分は固定されている人達だった。
だから満華が喋りに行っても特に勧誘してくることも無く、ひーちゃんも威嚇する事が減った。私は姿を現さなかったけど、何というか、随分とマシになったな、というのが正直なところだ。
「フレンドさん一杯増えた! 「メニュー」って便利だねー!」
「……そう。良かったね」
「くーちゃんオススメしてくれてありがとー!」
「必須能力扱いのスキルを確認しただけだよ」
まぁ威嚇する事が「減った」というだけで、無くなった訳ではないあたり、何かがまだまだなのかも知れないけど。もっと進めばさらに快適になるかな。その前にクリアできそうな気もする。
……そうだな。難易度の上がり方や素材の手に入り方がこのペースのままなら、問題なくクリアはできそうなんだよな。それはつまり、異世界アイカの発行手続きが進むって事だ。
異世界、というのはもう疑う余地がない。魔法があって、スキルがあって、モンスターがいて、倒せばドロップアイテムが手に入って、なんて、異世界の技術でもなければ説明できない。
「……」
正直自分の将来とか趣味とか夢とか言われてもピンとこないんだよな。あの戸籍上の家族との縁を切る事しか考えて無かったから。それ以前に、あらゆる面倒を押し付けられて毎日生きるので精一杯だったし。
というか、あの戸籍上の妹が追いかけてきているという一点さえ無ければ、対処が楽な相手ばかりが出る攻略ルートの低レベル部分をぐるぐる回り続けていたかもしれない。何せ疑似的な不老不死状態だ。時間が余るほどある、というのは、きっと「これから」の事を考えるのにはとても都合の良い事だろうから。
まぁ戸籍上の妹が来ている以上は逃げる事は確定だし、出来る限り早くクリアして違う世界に行くのは確定事項だけど。……本当に、碌な事をしない。
「くーちゃん、どうしたの?」
「いや。……順調にいけばクリア出来るんだな、と思ってただけ」
「そうだねー。見たことない世界、楽しみー!」
「まぁ戦闘力が必要な前提って時点で、私達の知ってる平和からは程遠いんだろうけど」
「くーちゃんそれは誰もが思ってても言わない奴だよー!?」
まぁどんなところに行くにしても、たぶん満華とひーちゃんは一緒に行動する事になるんだろう。……やっぱりもうちょっと人数は必要か。主に満華の手綱を握るって意味と、小回りの利く戦力が無いって意味で。
でもうっかり満華と同じ側が増えると手に負えなくなるからな。ちょっと悩みどころだ。というか、そういう人は既に仲間を作っているだろうから、1人2人で動いているっていう事自体が少ないだろうけど。
……組織、と呼べるほど大きな集団には所属したくない、とはいえ、事と次第によっては、そんな贅沢を言ってられる場合じゃなくなるかも知れないし。




