他人と身内の許容量の差
「安全地帯」を出れば、追いかけられるのは分かっていた。だからひーちゃんによる、最初から全力での逃亡、もとい、移動を選んだんだし。
できればこのまま、ボスモンスターが湧いた塔に飛び込んでこの階層を立ち去れればいいな、とかも思っていたにしろ、そこまで上手くいくとは思っていない。精々、離れた場所の「安全地帯」に移る程度だろう。
まぁ、どうせ飛び出すのであれば「存在感知」の全力展開で、周辺情報の更新、及び、前は出来なかった塔の周りの情報を集めよう、とは、思っていたけど。
「――確かに便利だとは言え、こうも空を飛ぶ手段が普及してるとは思ってなかった……!」
「ど、どうしようくーちゃん! ひーちゃんはまだまだ飛べるみたいだけど、ずっとって訳にはいかないし!」
「分かってる……!」
こうも、集団で追い回されながら遠慮なく集中砲火されるとは思ってなかった。思ったよりも速度が出てるし、何より時間をかければかけるほど追いかけてくる人数が増えている。
とはいえ、三次元的な動きで避けているひーちゃんの背中にいる以上はあまり動くことも出来ない。かといって、一度降りる余裕がある訳でもない。「存在感知」の全力展開をしているから、地上でも相当な人数が動いているのは分かっている。
そもそもこの高速移動をしながら逃げているのも、地上からの攻撃を回避する為だ。後ろから空を飛んで攻撃してくる分だけでも厄介なのに、地上からも攻撃されたら、流石にひーちゃんでも避け切れない。
「ある程度人数が出てきたら同士討ちでもするかと思ったら、そんな様子もないし……!」
「発想がエグいよくーちゃん!」
「手段を選んでられる状態じゃないんだけど?」
「言っただけ! ごめんね!」
まぁ自分でも酷い手段だとは思ったけど。だとしてもこれはちょっと、まずいどころじゃないんだよなぁ……。
と、思っているところに新しい反応。なんだ、と思ったら、どうやらどこかに出現したらしい空飛ぶメカだ。大人数が動いているからか、まっすぐこちらに向かってくる。
今逃げている方向の左手側から飛んできていて、塔が乱立していて見えにくい方向からだ。うーん。
「でも、ここまで来たら威嚇射撃ぐらいは必要か」
「くーちゃんの攻撃力だとミンチを通り越しちゃわない?」
「ちょうど良い的が来た」
「的?」
「グァーゥ」
私は感じない物の、重量物で長物な事には変わらないあの銃。でも、流石に取り出して抱えるぐらいなら問題ない。そうしていると満華が私の態勢を安定させてくれて、ひーちゃんも遠くから飛んでくる敵に気付いたようだ。
ちょっと考え、威嚇射撃なら派手な方がいいか。と、当たると爆発する火属性を帯びた魔法の榴弾を選ぶ。ジャキッと音を立てて装填したところで、ぐん、とひーちゃんが左手側に旋回した。
当然後ろや地上から追ってくる誰か達も方向転換をするし、塔の方へ向かうって事で、地上からも何かが放たれそうな気配を感じるが……。
「――――これ以上邪魔するなら!! 当てる!!」
大きく息を吸って、過去最高に声を張り上げた。ほぼ同時に正面に来た空を飛ぶメカに狙いをつけ、発砲。
多分瞬きよりも早く着弾、からの大爆発。いやぁ、いつ見てもオーバーキルだな。
「……まぁ、当てないけど」
「だよね。いくら失礼な人達でも、流石にミンチを通り越しちゃうのはねぇ」
まぁ、私と満華、ひーちゃんは見慣れているが、それ以外はそうじゃない。むしろ初めて見るだろう。明らかに個人が振り回していい火力じゃないもんな。というか、ドラゴン相手だとしても酷い火力だ。
それは無事伝わったのか、合わせた脅しともとれる言葉を本気と取ったのか、あれほど追いかけてきていた動きはぴたっと止まった。だけでなく、地上からも蜘蛛の子を散らすように気配が遠ざかっていく。
「助かったな。次に進むルートが選び放題だ」
「素直な人達で良かったね!」
「ギャゥー?」
なんかひーちゃんの声に微妙なニュアンスが含まれてる気がしたが、都合が良いには違いないので、スルーさせてもらう事にした。




