お喋りについての頭痛と憂鬱
頭が痛い。あの、赤いドラゴンと一緒に行動しているらしい「申請者」……蘭天満華、らんてんみちか、という、1つ年下だった少女について、複数の意味で。
まず、にこにこと警戒心の欠片も無く、人に慣れ過ぎて野生を失った飼い犬のように話しかけてくる事について。よくこんなのでここまでこれたな、と思ったら、どうやらあの赤いドラゴン、緋色だからひーちゃん、と呼ばれているドラゴンがいたから、話をする前に逃げられていたらしい。
「最初は小さくて可愛かったのに、何で逃げるのかなー?」
と言っていたが、よくよく聞いてみれば11階層目に辿り着いた時には馬ぐらいだったようだ。そりゃ逃げるだろう。それに恐らく、悪い考えを持つ奴は「ひーちゃん」が全力で威嚇していたようだし。今はなんか欠伸してるけど、これは私が舐められているんだろうか。
次。蘭天、という苗字だ。私の記憶が改竄されていないのであれば、確かその名前は某有名グループ会社の根幹をなす一族のものだった筈だ。つまり、形式上はいなくなった筈の貴族……あるいは、華族ってやつか。
ちなみに、字を書いて教えられたので音が一緒なだけという逃げ道もない。流石に文字と読みが一緒で全くの無関係って事も無いだろうし。
「おにーさまが次期頭首でー、おねーさま達はもうお嫁に行ってー、会えるのは年に1回ぐらい!」
聞いてもいないのにそんな事を喋られてしまったので、間違う余地が一切ない。何でそんな文字通りの「お嬢様」もしくは「お姫様」が、あんな不確かで色々情報的に危ない都市伝説を実行したんだ。
ちなみに、その名前を書いて教えられたときに、私の名前も教えている。手中と書いて、たなか、と読むのはもう難読でいいと思うんだ。字が簡単だからルビも振られないのか、結果として何度訂正してきた事か。まぁ名前を教えたっていうのが既に頭痛いポイントなんだけど。
そして、何故かよく分からないがぐいぐいと懐かれている感がある。なんでだ。本当になんでだ。何よりその懐かれた感じのまま、動こうとすると元気に喋りながらついてくるんだけど、なんでだ。
「……なんでついてくんの?」
「え? だって案内の人が、このダンジョンは、異世界で生き残れるだけの力をつけてー、弱点を補えるだけの仲間を見つける為だって言ってたよ?」
「…………で、なんで私についてくんの?」
「ひーちゃんは機械がすっごく苦手だから!」
次。どうも私が知らない情報を持っている感じはするものの、その出し方がこう……わざとなのか偶然なのか、微妙なところな事だ。わざとならかなり交渉力が高いと言えるが、なんか偶然の気がして仕方ない。
まぁ。まぁ? 確かに、あのゴースト(仮)は私の苦手な相手だと言える。倒せなくはないがかなり苦労する類だ。だからそれがメイン敵になっている、つまり一番得意な相手だと言える満華とひーちゃんこと緋色ドラゴンのコンビとなら、補い合うという点ではベストなんだろう。
……問題は、その情報が正しいかどうかを私が判断できないって事なんだけど。聞いてないんだよな、そんなの。確認しようにも、このレベルの最奥階層はまだまだ先だ。少なくともヘルプでは見たことが無いし。出て無かっただけかも知れないけど。
「それにねっ、それにねっ、こんなにお話聞いてくれた人も初めてなんだー! お手伝いさんも、護衛さんも、私が何をやっても何にも言わないけど、何を言っても聞こえないふりをするから!」
最後に。恐らく、私に懐きまくってるその原因というか、理由。たぶんこれ、育児放棄に近いんじゃないだろうか。
何をやっても何も言わない。それって、怒られたことも褒められたこともないって事じゃないの? なら、何を言っても聞こえないふり。つまり、どう動いても周りが変わる事はないって事じゃないかな。
勉強や習い事に関しての話は出てきた。知りたいと願えば何でも学べる環境だったらしい。だからきっと、頭自体は悪くない。普通に学校にも……もちろん私の学校とは違う、本物のお嬢様学校に、だろうけど……通っていたみたいだし。
「――なんで、あの都市伝説をやろうと思ったの?」
「学校で噂を聞いたの! ……おとーさまもおかーさまも、たぶん私はいてもいなくてもいい子だから。それならうんと遠くにいってみたいなって!」
私は。
主にあの戸籍上の家族の為に、自分の為にはならない成果を出し続ける事を強要されてきた。
でも。
何をやっても、何の成果も反応もないっていうのも……大概地獄じゃないかと。そう思ってしまったのが、最後の頭痛の理由だ。




