正体不明の理屈と災難
若干の引っかかりを覚えながらもその階層の探索を続けていると、ふと違和感がある事に気が付いた。森を抜けてすぐのところで「存在感知」を最大範囲で発動して、確信する。
「……空の敵が、いない」
正しくは私の「存在感知」の範囲で、であって、存在しないって訳ではないだろう。むしろ、ここまではしつこいぐらいに出てきていたのだから、急に出てこなくなるのはおかしい。だって先に進むほどに、難易度は上がる事はあっても、下がる事はないんだから。
それなのに、この階層に入ってから、一度も上からの襲撃が無い。結構マップが埋まる程度に探索はしているし、地上を歩いているメカや、地上付近を漂っているゴースト(仮)とは何度も戦って……もとい、撃破しているんだから、敵がいないって事も有り得ない。
だとすれば、それは何か原因があるって事だ。そしてこうなれば、もう1つの疑問……確実にいる筈の「私以外の誰か」の位置を確認できないのも、つじつま合わせのようだが理由が分かる。
「そうか。空を飛んでるんだ」
もちろん、どういう理由でなのかは分からない。だがここまで色々な相手を見てきたし、物理法則は仕事をしていても簡単に捻じ曲げられる。だったら、人が空を飛ぶ程度の事は、普通に起こり得るだろう。
今まで他の人は、私と同じく地上を歩いていたから、考えていなかった。それは分からない訳だ。流石に、空は襲撃を警戒する以上には探していない。何かあったところで、それを手にする事は出来ないんだし。撃ち落とせるなら別だけど。
なるほど……。と、自分の推測に納得を得て、ちょっとすっきりする。そうか、空を飛んでるのか。それなら見つからなくてもしょうがないな。向こうからもこちらを見つけ辛いだろうけど。
「まぁ見つかる気はないから、いいんだけど」
疑問が1つ解けたところで、探索に戻る。しかしそうか、飛行能力。飛べたらマップ埋めが楽そうだとは思ったけど、飛ぶっていうのが本当に選択肢に入るのか。ファンタジーすごいなぁ。
……いや、まぁ、私の場合は、四隅にプロペラをつけた座布団みたいなものに座って、とかいう格好になる可能性もあるんだけど。ブランコみたいに椅子を下げても、身動きに制限が付くのは避けられない気がする。
ただ、どんな形になるにせよ、銃を撃つことは出来ないだろう。私は防具も込みでレベルアップしているから耐えられてるけど、本来この銃の重量と反動はとんでもないから。
「とはいえ、流石にヘリとかを飛ばすのはなぁ。遠距離攻撃持ちに袋叩きにされそうだし。……そもそも、空を飛ぶって時点で隠密能力が死ぬ気がするし。そうでないなら、機動力が必要で……」
それでも、探索しながらそう考えてしまうのは、もちろん空を飛ぶっていうのは強いからだ。私が散々やっているように、相手の攻撃が届かない場所、相手が絶対に来れない場所から一方的に攻撃を叩き込むのが、結局は一番安全だから。
それに……やっぱり、どこまでいっても、自分の好きなように空を飛ぶっていうのは、憧れだ。鳥がそうであるように、それこそ飛ぶための翼が折れたり、完全な籠に閉じ込められたりしない限り、どこまでだって身1つで行けるという、自由の象徴。
今はひたすら耐えているのも、大人になれば保護義務の対象から外れるからだ。大人にさえなってしまえば、少なくとも法律的には1人の人間になる。そうなってから弁護士さえ見つければ、親と子供ではなく、血が繋がってるだけの大人同士の戦いだ。
「――……ん?」
ただそれでも十分に分は悪いから、この、異世界っていう降って湧いた手段を手に入れる為に、本気になった訳なんだけど……。
そんな事を考えている間も「存在感知」はある程度の範囲に広げているし、足元を含めた周りへの注意は怠っていない。場合によっては物音の方が先に届いたりするからね。特にこのいかにも大自然って感じの場所になってからは、風向きとかの関係で。
だから塔の1つを目指して別の森に入ったところで、「存在感知」の範囲の端っこに妙な反応を見つけて、首を傾げた。それは私が今まで見た事ない程高速で、しかも地形を無視してジグザグに移動している。
「え。というか、これ、まさか……」
そしてその後ろを、大量の飛ぶ敵の反応が追いかけていた。速度としては最初に感知した、正体不明の反応の方が圧倒的に早い。ただ、追いかけている敵の反応の数が多いし、どうやら統率の取れた集団行動をしているようだ。メカは集めると厄介になるのか。知らなかった。
ともかく、いくら速度が上でも、的確に追い込まれ、ルートを制限され、結果として振り払えないまま更に他の敵を呼び寄せているのだろう。空を飛んでいる中にはあのゴースト(仮)の反応もあったので、大変な事になっていそうだ。
「…………」
何よりの問題は。
その集団が、今まさに、私の後ろにある草原……の、恐らく上空を通り過ぎようとしてるって事だな。
「マルチハイディング」があるから、見つかる可能性はかなり低いと思う。だがもしも、あの数の半分、いや、3分の1でもこっちに来たら、袋叩きにされて死ぬだろう。
となれば、その前に迎撃するしかない訳なんだけど。
「……関わりたくないんだけどなぁ……」
すごく。すごく、憂鬱だ。
どちらにせよ厄介な事になるのが分かっているのに、やらなきゃいけないってところが、特に。




