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必要事項を説明する音声案内

 家族団欒をしている横で、その空気を壊さないように細心の注意を払いながら過ごすという苦行も終わり、後片付けと掃除の類を戸籍上の家族である3人の分も片付けて、すっかり寝静まった家の中を静かに移動して部屋に戻る。

 いつものように時間の流れが少しでも早くならないかと思いながら、それを諦めと共に吐き出して布団に潜り込む。いつもの事だ。


『異世界アイカをお申込み頂き、誠にありがとうございます』


 いつもと違ったのは、その潜り込んで体の力を抜いて寝る態勢に入った、体感的にはその直後にそんな声がして、一気に目が覚めた事だ。

 私は本来ものすごく寝起きが悪い。こんな風に、意識が覚醒したと同時に体を動かせることなんて数年に一度あるかどうか。だから普段は随分と朝早くから自分を起こしにかかる必要がある。

 だが逆に、意識が覚醒した状態で体が動かせるなら私の反応は早い。ガバッ、と起き上がり、被っていた布団を掴んで引き剥がすつもりの手が空を切っても、すぐに立膝になって周りを確認できる程度には。


「……っ!?」


 だからといって……その見回した周囲が明るい灰色の石で出来た広い部屋で、光源は壁に固定された松明で、確かに自分以外の聞きなれない声がしたのに自分以外の姿が無い、なんていう状況を受け入れられる程の柔軟性は持っていない。

 思考が止まりかけるのを無理矢理動かして自分の格好を確認すると、寝間着兼部屋着にしている無地のゆる服だった。寝る時も靴下をはく習慣があって良かったと心から思ったのは人生二度目だ。

 手に触れる床の感触は粗い。コンクリートよりはマシだろうか。どちらにせよ、靴下があってもどれだけ歩けるかは分からない。……いや違う。違うぞ。そうじゃないというかそこじゃない。もっとそれ以前におかしいところがあるだろう。


『異世界アイカの取得申請における必要条件を満たされていた為、異世界アイカの発行手続きを開始致します』


 再び声が聞こえたので周囲を見回すが、ガランとした大きな部屋が広がるだけだ。電子音声みたいな声だからか、男女の区別もつかない。

 部屋の中には何もないし、天井と床にも当然何もない。何なら通路もない。壁の高いところに点々と松明が固定されているが、恐らく私ではジャンプしてどうにか届くかどうかってところだろう。つまり、部屋の高さは2m以上3m以下ってところか。

 つまり今の状態を知る術はこの謎の声とその内容しかないって事だ。幸いと言っていいのか、寝起きにもかかわらず私は最高に目が覚めている。人の声を苦手としていても、こういう電子音声なら問題ない。


『発行手続きの完了に必要な物は3つです。1つ。申請者様のレベルが100に達する事。2つ。武器を含まない10部位以上の装備。3つ。ここ、異世界アイカ取得用ダンジョンの完全突破証明書。以上を揃えてからダンジョン最奥の受付へお越し下さい』


 ……。

 …………。

 いや。いやいやいや待て待て待て。ツッコミどころしかないんだが。ちょっと待て。


『また、発行手数料として、同じくここ、異世界アイカ取得用ダンジョンにおいて得る事が出来る特殊通貨が10万マギゴールド分必要となります』

「それは実質4つじゃん」


 しまった、つい。思ったより混乱してるな私。いや混乱もするか。するな。うん。


「後。まさかこの音声だけで終わりって事はないよね。契約は、書面で、貰いたいんだけど。後から見返したり条件が変わってないか確認したり必要な物が揃ってるか指差し確認するのに」


 もういいや。一回喋っちゃったら何か吹っ切れた。必要な情報は書面で、形に残って何度も見直せる形で寄こせ。口約束は後がこじれると相場が決まってるんだ。というか、口約束で後がこじれなかったためしがない。

 ……あれ、音声が止まった。え、もしかしてこれ、途中で喋ったらその時点で全部止まるやつだったか。どうすんだ、部屋は広いからしばらくは大丈夫だろうけど、このままだと松明で酸素が消費されて窒息死……。


『申請者様にお聞き致します。異世界アイカの申請手続きを行った経緯について確認させて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?』


 という訳ではなかったようだ。良かった。

 いや、良くない。何も良くない。だってこれ、つまり拉致って事だもんな? れっきとした犯罪だな? 問題は、継ぎ目の1つもろくに見えないこの部屋にどうやって運び込んだのかって事だけど。

 えーとえーと、ちょっと待てよ。今はこの電子音声みたいな声以外に何の情報も無い。あの家に帰りたくはないが帰るしかないからその為には情報が必要。だからつまりこの謎の声と問答を続けるのが最優先。そんで異世界アイカの申請手続きを行った経緯……異世界アイカってあれか。都市伝説。


「異世界アイカは都市伝説だと認識していた。で、都市伝説を信じた戸籍上の妹に脅迫されて定期入れに入れたカードを持って夕日を背にした写真を撮られた」

『宜しければその脅迫内容について詳しい事をお聞きしてもよろしいでしょうか』

「良くて一食分の食事没収、悪ければ暴力。相手は複数人で成人男性を含む。戸籍上は家族になっているから家庭内の問題だとして警察は動いてくれない」


 最後のは経験談だ。実際おまわりさんに相談してみたら「家族同士の問題には首を突っ込めない」と言われた。せめて証拠があればと言われたが、その証拠を得る為に必要な道具を手に入れる事が既に不可能なんだよなぁ。スマホすら遠隔操作アプリを入れられて監視されてるってのに。位置情報まで筒抜けでどうしろと。

 どう考えても「家族」にする対応じゃない筈なんだが、これで「家族」扱いしていると主張するのだから終わっている。外面はいいから外に助けを求めたところで誰も信じやしないし。


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