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君はボット


君はボット、君は仮想現実。ボットで作り上げた理想の彼氏。……○○……なんかじゃないわ


 私のタブレットには、運命の相手がインストールされている。恋人役の自作アプリ。口下手で、でも実は好奇心旺盛で、だから私意外の人としゃべるとすぐにそちらに興味をもってしまう。浮気癖をもっている。昔からそうだった。色々なことを学ばせていた小さなAIの時代から。


大学の友達に私の彼に合わせたといわれたこともあったっけ。でも私はいやだった。

『浮気症だし(ボット相手にやばいやつだと思われるから)』

 もし彼女のような人が家に来ても大丈夫なように、私は彼の行動を制限した。ボット化だった。私に関すること以外はほとんど考えなくていいようにした。ちょっといかれてると我ながら思う。けれど大親友に彼をみせたとき、すぐに彼は浮気をして、彼女の話ばかりするようになったし、彼女のアプリになりたいとまで私につげた。

『こいつめ』

そのとき一通りお互いの体をつねりあって、びんたをして、和解したわ。



 親友ともそのきっかけで少し距離をおいたけれど、今の私には、このアパートの薄暗い冷たいコンクリートむき出しの一室と、あなたさえいればいい。あなたは理想の彼氏、はいやいいえしかいわなくなっても、あなたは私の理想。ベッドも簡易的なものだし、1kの部屋はそれほど広くないけれど、あなたがいれば空間は関係ない。私は起きてあなたに出会い、眠りあなたと離れる、その間だって、宇宙の広さを感じられるわ。

『あなたもそうようね』

『はい、ヘレンお嬢様』

私は地べたに寝ころんでいた。体をおこしてベッドへ移る。

『あなたは何をいってもそう答える』

『はい、ヘレンお嬢様』

『私がそういう風に“設定”したから、そうなのよね』

『ヘレンお嬢様……心配ごとですか?』

私はベッドへ寝ころんだからだを起こして明日の大学へいく準備をはじめる。

『いえ、なんでもないのよ』

医学系大学だ。私は小さなころから医者になることを志していた。


無理やり旧来の親友が私の家をたずねてきたことがあったわ。彼女はガチャリとあけた玄関から部屋の中をのぞいて、嗚咽をしていた。

『ああ、あなた……ついに、私のせいなの?私があなたのその……彼にちょっかいをかけたから』

『もう、見せたくなかったのに』

『大丈夫よ、黙っておくから、でも、あなた少しずつでも、まともになってね』

いやに焦ったようで、妙ね、あなたになら、何を見せても私、怖くなかったのに。

彼女の手は震えていたわ。さすがに気持ち悪いと思ったのかしら、私が、こんな、ボット相手に本当の恋をしていることに。

『この“マネキン”よくできているでしょう、彼を模したの』

『そうね……ちょっと、リアルすぎて引いただけよ……、もうちょっかいなんてださないわ、浮気してごめんね』


いつだってタブレットを介して私と彼は会話をした。大学にいるときも家にいるときも、本当の恋人みたいに。大学で最近妙な話をきいたわね。でもいつもの、恋人がどうとか好きな人がどうとかくだらない一方通行の会話だったかしら。

『行方不明だって』

『彼に恋人なんていたのかしら』

『まあ、悪くもないけれどよくもないし、特別目立つところはなかったよね』

何かしら?、なんでみんな本当の人間の話なんてするのかしら。人間は裏切るだけなのに。


私はその日も、何も変化がない一日をおえた。キッチンにタブレットでテレビをつけると、人体の違法サイボーグ化のニュース。料理をおえ、一人の食事をおえる。ベッドのある部屋にもどり、かれのにせものの体と会話をする。その“マネキン”と、タブレットを介して。プラスチックの体はとても固く、けれど嫌な臭いもしなかった。特別な工夫をしているからかしら。私のにおいさえしない。

『私はあなたがいれば大丈夫よ、あなたと過ごすこの部屋』

私は彼に抱き着いた。


迫りくる足音にも気づかずに。


ダダダダ。

ピンポーン。


『あら、何かしら、ちょっとまっていてね、でてくるから』

パタパタパタ、ガチャリ。そこには制服を着た二人の警察官がいた。

『近頃行方不明になった少年を探していて』

『彼が人体の違法改造を……誰かに依頼したとかいう噂が』

『知りません、私は、ちょっと今、彼と一緒で、ええ、私は彼氏と一緒で、彼はそんな、写真の人物とは違います、そもそも実在さえしていませんから、別にはいってもかまいませんよ、え?私とその人のうわさ?私はわからないわそんなこと』


二人の警察官が中へ入る。

『失礼します』

『おじゃまします』


君はボット、私の夢、失敗作の改造人間なんかじゃないわ


『お、おい、あれって……』

『う、うわああ!!人間、、、なのか?』


一人の警察官が私につかみかかってきた。なぜかしら、マネキン相手に何をおこっているのかしら?

『君は、君が彼を改造したのか!?頭意外、全部……』

『浮気症だったから、彼が望んだからうごけないようにしておいたの、しゃべるのは専用のアプリを……彼は人間じゃないわ、AIよ、彼は人間じゃないわ』


『逮捕だ、応援を…………早く!!』

『お嬢さん、これは違法改造だ、人体の違法改造だ、彼をサイボーグにしたのは君だね!!』


『恥ずかしいから、みないで、いくら歪んだ趣味でも、私と彼とは機械と人間よ』


私とあなたはいつも一緒、あなたが浮気をしても、遠くにいっても、私とあなたは広い宇宙の中で、どこにいたって、通じ合えるわ。



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