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黒猫と列車の旅

第二章


■お人形の少女


 王都警察に追いかけ回された俺とヘルシカはなんとか逃げ延びた。とはいえ、とてもではないがしばらく王都にはいられなくなってしまったため、俺たちは列車に乗って王都から離れることにした。

「にゃあぁ」

 王都から離れて一時間。俺は列車の窓から見える外の景色を眺めていた。

「どうかしたの?」

「……いや、王都を出るのは初めてだからさ。少し感動してた」

「へえ、そうなんだ。でも、それだけ?」

「どういうことだ?」

「君の横顔、少しだけ寂しそうだったから。てっきりもうホームシックになったのかと」

「ガキじゃないんだから……ただ、何も言わずに来ちまったからな」

「友達に?」

「まあ、そんな感じだ」

「ふうん」

 俺は窓際からひょいっとヘルシカの向かいの席に飛び乗る。

「ところでヘルシカ、どうして俺は猫のままなんだ? できれば人の姿でいたいんだが……」

「だって猫の方が、料金が安く済むから」

「さいですか……」

「それに……私だって一応女の子だし……」

「……? 知ってるけど? それがどうした?」

「だから、何度もキスをするのはさすがに恥ずかしいっていうか……」

「は?」

 あれだけ平然な顔して二回もキスした癖に?

 それが表情に出ていたのか、ヘルシカは「あなたの言いたいことは分かるけど」と口を開く。

「あれはその場の勢いというか、雰囲気で行けたというか。アドレナリンがたくさん出ていたからできた芸当であって、普段の私は誰彼構わずキスをするような女の子じゃないから」

「はあ……まあ、別にいいけどさ。もう猫でいるのにも慣れてきたし」

「それより、せっかくだから君のことを教えてよ」

「俺のこと?」

「これからしばらくは一緒に旅をする仲だもん。どんな人物なのか知っておきたいでしょ?」

「いいけど、それならお前もいい加減に自分のこと話せよな」

「それもそうだね。なら、言い出しっぺの私から話をしてあげる」

 彼女は先ほど駅で購入したみかんの皮を剥きながら続ける。

「もう遥か昔の話だけど、かつてこの世の全てを手に入れた王がいたんだ。かの王は百八の至宝すら手に入れ、それらを自身の宝物庫に納めた。そして、かの王はその宝物庫を守るために鍵番と呼ばれる役目をある人物に与えたの」

「ある人物?」

「私のご先祖様だよ」

「へえ〜」

 ヘルシカはみかんの皮を剥き終わると、みかんを口に放り込む。

「以来、私の家は鍵番として、かの王が亡くなってからも代々宝物庫を守り続けてきたんだ。でも、十年前……世紀の大怪盗ホーネットによって宝物庫から百八の至宝が盗まれてしまった」

「ホーネット……」

 聞いたことがある。世界のありとあらゆるお宝を盗む怪盗。かの怪盗に盗めない宝はないとされ、一時期は新聞の一面を飾っていた。だが、いつしかその名前も聞かなくなり、死んでしまったのではないかと囁かれている。俺がそれを言うと、ヘルシカは首を横に振った。

「ホーネットは死んでない」

「知ってるのか?」

「うん、まあ、因縁の相手だからね……」

「どういうことだ?」

「十年前、私の母が宝物庫の鍵番だったの。母は立派な鍵番だった……けど、ホーネットは汚い手口で母を騙くらかし、宝物庫から至宝を盗んでいった。そのせいで、母は一族の恥と罵られ、最後には――自ら命を絶ったんだ」

「……」

 だから、因縁の相手……か。

「その後ホーネットは、盗んだ至宝を売り払い――」

「その結果、至宝が世界中に散らばったってことか」

「私は鍵番の家系の末裔として……そして母の無念を晴らすために、こうして全ての至宝を回収する旅に出たというわけ」

 なるほど、そんな経緯があったのか。

「ちなみに、ホーネットはその時に母と戦って傷を負ったらしいわ。それで怪盗稼業は引退したみたい」

「だから、名前を聞かなくなったのか」

「うん。けど、今はそのホーネットの二代目がいるみたい」

「二代目?」

「怪盗ホーネットの二代目とは、何度かやりあったことがあってね」

「やりあった……?」

「どうやら二代目は先代ホーネットが売り払った至宝に興味があるみたいなの」

「至宝を狙ってるってことか?」

「そんな感じ。何度も邪魔されたんだよねぇ。君も旅をしていれば戦うことになるから、覚えておいてね」

「分かった」

 ヘルシカはみかんを食べ終えると、おもむろに俺を抱き上げて膝に乗せた。

「さて、私は話したよ? 今度は君の番」

「ああ、つってもなぁ。俺、そんなに話すことないぞ?」

「それでもいいから。まだ目的地まで時間もかかるだろうし、暇つぶしにはなるでしょ?」

「俺の身の上話を暇つぶしって言うなよな」

 まあ、いいけど。

「えっと、前に話したと思うけど父親は蒸発して、母親は俺を売ったんだ」

「聞いたよ」

「で、売られた後はいろいろなところを転々としてたんだけどさ。紆余曲折あって王都にある孤児院に拾ってもらったんだ。で、そこで育てられて……今は王立学校で勉強中ってところだな」

「へえ、よく王立学校なんて入れたね? 学費、高いでしょ?」

「ふっ……俺はこう見えてできる男だからな! 入学試験を首席で合格して、学費免除の特待生になったんだ」

「へえ、賢い猫くんだねぇ」

「猫じゃねぇよ!」

「でも、納得したよ」

「何が?」

「だって、君ってばやたら物分かりが良すぎるし、察しもいいから。それなりに頭はいいと思ってたから」

「そ、そうか? な、なんか照れるなぁ」

「それにそういう境遇だから、短銃を向けられてもあまり動揺しなかったんだね。道理で肝が据わっているわけだ」

「さすがに動揺くらいするけどな」

 ただ、たしかに普通の一般人よりも世の中の汚い部分は見てきた自信はある。もしも、その経験がなければ鎧男に立ち向かうことなどできなかっただろう。

「ん、そろそろ目的地みたいだね」

「そういえば、俺たちはどこに向かってたんだ?」

「フェルゼン王国の南にある港町だよ」

「なんで港町?」

「そこに――至宝があるからだよ」

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