第3話 間接キスは男の命より重い
全体的に文章が雑な気がしまする…。
すません。
あと医療の知識とかガバガバです!
突如現れた黄金のゴーレム。
そして、その黄金を中心に、その周囲、区画Yの建物や人々が金へと変わっていく謎の現象。
その現象が起こる、今正に、俺クロクは、黄金のゴーレムがいる区画Yの中心へと、その方角へと走るのだった。
「くっ、この……もっと早く走れ!!」
俺は、自分の乗るゴーレムへと向かい叫んだ。
俺の乗るゴーレムは、赤茶色の、特に特徴もない普通のゴーレムだ。
ただ、この急ぐ状況に合わせて、四足歩行の、ライオンのような形状に改造してはいるが。
「……アクア、無事か?」
俺は、今回の目的でもある、アクアの救出、それについて考え、ふと、アクアの名を口にするのだった。
ーーーーー
「…た、大変だ!!」
ある洞窟の中に、男性の声が響いた。
その洞窟は、長く深く、そして壁や天上が、木製の柱で補強され、壁にかけられたランプ、地面にあるトロッコレールが特徴的な洞窟だった。
そう、そこは、採掘作業が行われる、今、クロクの走り向かう目的の場所、アクアのいる場所であった。
「……どうしたんだ? そんな慌てて」
「……落ち着いて聞けよ、お前ら……」
「……なに?」
そして、今採掘現場では、アクア含め作業員たちに、外の様子が、伝えられていたのだった。
「ーーーー………そんな、まさか!」
「本当だ」
「……くそっ、嘘だろ? 冗談だって言ってくれよ!」
「……なんだよそれ、意味わかんねーよ、まだ死にたく……ごほっ、死にたく……ねーよ」
「いや、本当だ。その証拠にーーー」
最初に、採掘現場へとやって来た、男性の後ろから、とある人物が現れる。
「……皆、悪い」
「……社長」
そう、その人物とは、クロクやアクアの所属する採掘会社の社長、努力の人、横暴な上司、その人だったのだ。
アクアは、社長が目の前に現れた時、そのゴーグルの付けられた顔の汗を、そっと手で拭った。
所詮は管理区画の社長でしかない彼だが、全体で見れば大したことない地位の人物だが、しかし区画Yではかなりの実権を持つ社長。
その社長は、何時もは会社の社長室にいるか、あるいは現場の指揮に当たるとしても後方の安全な場所にいる。
しかし、今、社長は、アクアたち使い捨ての歯車と同じく、危険な最前線の採掘現場までやって来ていたのだ。
つまるところ、これが意味することはーーー。
「…この先は、僕から説明する」
「……社長、何が合ったんですか!?」
「その話し、本当なんですか!?」
従業員達が、社長に一斉に質問する。
そして、社長は、従業員達がある程度静まるのを待ってから、件の、黄金のゴーレムについて説明する。
「……まさか、そんな」
「ああ、すまない」
その、社長の説明に、二回目の説明であるが、現実味があることで皆落胆する。
覇気が落ち、暗い感情につつまれる。
「……酸素に関しては、恐らく3時間が限度だ」
「………なんだよ、こんな人生、嫌だよ」
「……すまない」
酸素?
酸素とは、一体どういうことか?
いや、ある程度想像のつく者もいるだろう。今、アクア、社長を含む採掘業者の従業員たちは、出入り口のふさがれた、洞窟内に閉じ込められたのだ。
それは、苦肉の策であった。
気付いた時にはもう手遅れで、既に金へと変わる謎の現象がすぐそこまで迫ったことに気付いた社長たちは、採掘作業を行う洞窟に逃げ込み、その出入り口を塞いで籠城する策に出たのだ。
きっと、10年前と同じく、あの六本足の骸骨……石像変化をしたクリスタル先生が助けにくると信じて。
無論、建物や人が金に変化していく謎の現象、それで防げる保証はどこにもなかったが、そこは緊急事態、例え賭けでも行動しないわけにはいかなかった。
結果ーーその賭けには勝ったわけだが、しかし、アクアたちは、何時助けが来るとも知れない、洞窟内に閉じ込められてしまったのだった。
「……」
アクアは、その洞窟内で、マスクの付けられた顔を抑え、周囲の泣き言を言う大人たちの声を聞きつつ、しかしその目に希望を抱くのだった。
きっと、クリスタル先生や、そして……クロクが助けにきてくれるはずだと。
ーーーーー
くそっ…………早く、もっと早く走れよ!!!
俺は、心の中で、自らを、そして自分の乗るライオン型のゴーレムを急かす。
あの、星願塔を壊し現れた、巨大な黄金のゴーレムは、尚も、建物や人を金に変える力を止める気配はない。
「………どうすればいいんだ……!? とっっ」
キキーーー。
と、俺は乗っていた、ゴーレムに指示を出し、そしてゴーレムのことを止めるのだった。
何故か?
それは俺の目の前に、いよいよ、あの金へと変化する現象が起こり始めたからだ。
「……くそ、ゴーレムなら行けるか?」
俺は、ズボンのポケットから、土人形を一体取り出した。
先ほど、秘密の学校を出発する際に、三体ほど、予備の土人形を拝借していたのだ。
「………」
俺は、そしてすぐさま呪文を唱えると、土人形を一体ゴーレムに変えた。
変えられた土人形は肥大化し、2mほどのゴーレムとなる。
「行け!」
「ぐおおおおおおお!!」
ダッ!!!
俺はすると早速指示を出した。
ゴーレムへと、あの金へと変わる現象の真っ只中へ跳び混ませたのだ。
もしかしたら、建物や人は駄目でも、ゴーレムなら金へと変化しないのではーーと思い。
しかし、結論から言えば、それは無意味だった。
金へと変わっていくその地面へ触れた瞬間、2mのゴーレムの、その足が同じく金へと変わったから。
そして、気付いたこととして、ゴーレムの足が、地面同様金へと変わった後、その金へと変えられたゴーレムの足が動かなくなった。
「………くそ」
俺は、軽く悪態をつきつつ、その目の前のことを分析する。
ゴーレムの足が、金化した時、ゴーレムの足が動かなくなった…………と、言うことは。
あの金は、戦車数台の戦力、途方もない力を持つ、ゴーレムですら、用意に壊せないほどの防御力を持つということか。
俺は、そのことに少し、動揺した。
そう、もしも、ゴーレムのパワーで金を壊せるのなら…例えば、アクアたちが建物の中などに避難していて、この金化を逃れられていたとしてだ。
俺の力だけでもアクアを救出可能だったのだ。
しかし、それは今のこの分析で、不可能と実証されたのだ。
その後も、少し、俺はゴーレムに金を引きはがすよう、壊すよう、命令を出したが…しかし結局、金は壊せないまま、ゴーレムはその全身が金色へと塗りつぶされた。
「とっ…………ここじゃあそろそろ危険か」
俺は、心苦しかったが、しかし自分の命も大切なので、再びもと来た道を引き返すことにした。
その際に考えた。
何故、あの巨大な黄金のゴーレムが現れたのかと、そして何故星願塔から出てきたのかと。
アクアは無事なのかとか、金へと変化する現象は、外側を覆うだけなのか? 内部まで浸透し、全体的に金へと変えるのか? と。
もし浸透していくのなら、壁を越えて金化が襲ってくるので、おそらく籠城したりするのは不可能だろう……と。
俺は、色々考えた。
そして、俺は考えごとをすると、集中して周りが見えなくなる、と言う特性がある。
パニックになるんだ。
だから、だからだ!
あの、「アレ」が、俺に接近してきたことに、俺は直前まで気づけなかった。
「!?」
ヒュン!!!
風を切る音と共にーーー、その物体は俺の目の前に現れた。
「………ゴーレム!?」
そう、それはまさしく石造りの、その姿であった。
「……へへっ、始めましてかな」
「!!」
その、ゴーレムらしき、ピンクの者は、俺に語りかけてきた。
そして、俺は驚く。無理もないとそう自分に言い聞かせながら。
普通、土人形でしかないゴーレムは喋らないからだ。
そして、しばしの思考の後、普通がどうとかより、この場合もっと簡単な答えがあるはずと気付く。
「……まさか、お前」
「あれれ、分かった?」
「……」
そう、喋るゴーレム、とそういう存在がいるなら、真っ先に疑うなら特別なゴーレムとではなく…。
「あんた、石像だろ!」
そう、石像へと変化をした、石像人間だと疑うべきなのだ。
「はい、そうです」
目の前の、ピンクの石像は、くりっとしたおどけた目を瞑り、手を広げつつ、ポーズを決めたのだった。
ーーーーー
~~~~~
「でも、じゃあクロクはどうするの!?」
クロクの言葉を聞くと、アクアは思わず声をあらげた。
「ごっ……ごほっごほっ……うっっ」
「!? 馬鹿! マスクもないのに喋るな!!」
しかし、マスクをつけていない故、土煙を吸ってしまい咳き込む。
…少し、過去の話しをしよう。
あれは10年前、俺とアクアが大規模な落盤事故に巻き込まれた時のこと。
「…………うっ、ぐごほっ!」
アクアは、辛そうな表情となり、そして涙をうかべていた。
「くそっ、ほら、はやくつけろ!!」
その、苦しむアクアを見て、俺は勢いよく駆け寄った。
「………うっ、ごほっ、く…………はぁ、はぁ………ありがとう、だいぶ楽、ごほっ……………楽になった」
「別に、いいってことよ」
「…………でも、でも結局、クロクはどうするの?」
この時、俺とアクアは、落盤した洞窟に閉じ込められており、さらに、その際にアクアのマスクが壊れ、土煙に侵されていた。
「だからよ、交換だって言ったろ?」
「………でも、だからそれじゃあ」
「なに、いいか、よく聞けよアクア……だっけ?」
子供の頃の俺は、何でこんな恥ずかしいセリフを堂々と言えたのか、ある意味尊敬してしまう。
「間接キスってのは、男の命より価値があるんだぜ!」
……。
今思い返すと、恥ずかしい……が、まあそれは置いといて。
結局、この時、俺はアクアとマスクを交換し、俺は割れたアクアのマスクを、アクアは無事な俺のマスクを、互いにつけたのだ。
そして、神は酷いものだ。
俺の方が、より長く土煙を直接吸ったはずなのに、先生に救出された後の検査では、俺は異常なし、アクアは……。
とにかく、それからだったか、アクアのやつがワルガキだとの噂を俺が聞くようになったのは。
~~~~~
「で、あんたは、なんなのさ」
「へへっ、だから言ったじゃん」
ピンクの石像は、もったいつけて、またもポーズをとりつつ告げた。
「ウチの名前はピーチ、かつて石像となった愚か者かな!」
「……」
ピンクの石像、そいつの名は、ピーチと言うらしい。
「で、その、ピーチ。何でお前は俺に声をかけて来たのさ」
「うーん、だからそれもさっき説明したかな」
「……」
俺と、ピーチと名乗るピンクの石像は、今とあるビルの屋上にいた。
中心の星願塔より、少しばかり離れた場所、区画Yの中心から外壁の、ちょうど中頃の位置にあるビルだ。
「ウチがいれば、きっと君の大切な恋人を救えるのさ」
「……大切な家族な」
そう、俺が今、何故このビルの上で、このピンクの石像と呑気に会話しているのかと言えば、こいつが、この状況を打破出来る、その方法があると言ったからだ。
「時に、クロク君、君は鉄と土、どちらの方が頑丈だと思うかな?」
「どうしてそんな質問を?」
「いいから」
「……まあ鉄じゃないのか?」
「何故?」
「そんなの決まってるだろ、土は素手でも簡単に掘れる、けど鉄はーー」
「鉄は、手では掘れないからかな?」
「まあ、そうだな」
すると、今度はピーチのやつは、こんな質問をしてきた。
「へへっ……じゃあ今度は、鉄と金なら、どっちの方が頑丈だと思う?」
「…………」
「分からないけど……鉄か?」
「ブブーはずれかな。全く…この時代の人間は、一体どういう教育を受けてるのさ」
「……」
そこで僕は思いだす。確か、学校で習った時、教科書には、金より鉄の方が硬いと乗っていたのを。
「その……ピーチは、金の方が鉄より硬いって言うのか?」
「うん、そうかな」
「でも、学校の教科書には、鉄の方が硬いって……」
「ああ、だから、どういう教育を受けてるのかって、そう言ったかな?」
「!?」
どういうことだ?
「鉄が金より硬いと……そう言う誤解が広がった原因は、きっと人が世界を忘れたからだろうね」
「世界?」
「うん……まあ、それについては今度にして、金が何故鉄より硬いかの説明をしようかな」
ピーチの説明は、不明瞭だ。コイツを信用できるのか……。
しかし、今の俺は藁にもすがりたく、猫の手でも借りたいので、ピーチの話しを黙って聞く。
「まず、鉄は金より硬いと、そう思われるのは、それが物理的には鉄の方が丈夫だからかな」
「!?……物理…的?」
「うん……ゴーレム製作の技術も、基本は同じ原理なのかな」
そこからしばらくピーチによる説明となる。
「金は、その硬度を、物理的に計れば鉄より弱い。けどね、精神的、また四次元的な性質も込みで考えると、金の方が硬くなるんだよ」
「ゴーレムが術者の呪文によって、土人形からゴーレムという存在へと変わるように、金もまた、人の認知、認識、精神の影響を受けるのさ」
「分かりやすく言うなら、金と鉄、人が価値がある、値段が高いと思うのはどちらか? って質問かな」
「恐らく、ほとんどの人は、金の方に価値がある、値段が高い、そう言うだろう」
……。
「つまり、人の知っていることが、認知がものの価値に付加を与える……てこと?」
「そうかな」
「……難しい話しだな」
要するに、このピンクの石像ピーチが言うのはこう言うことだ。
お金も、物も、人すらも、自分の意思が価値を決めるのだと。
例えば、俺は、アクアが大切だ。……勿論、共に育った家族としてだが。ああ、兎に角!
アクアと、社長と、区画監理局のクズ共、この三者を比べた時、俺は最も大切なのはアクア、最も嫌いなのは区画監理局と答えるだろう。
それは、俺が今まで接してきた時間や、共感するか否か、様々な要素が複雑に絡み合った故に起こるものだ。
即ち、付加価値と言うやつで…いや、区画監理局はともかくアクアや社長相手にそんな冷めた言い方したくないが、兎に角、物も人も、自分、本人、判断する人によって評価が変わる。
金が鉄よりも硬い。
このピーチの告げる理屈も、この付加価値の理屈と、同様なのだろう。
「でも、値段とかなら分かるけど、そんな…頑丈さとかに影響を与えるものなのか?」
しかし、それはあくまで価値としての理屈、それが硬度、頑丈さにも影響を与える…と言うのは、どうにも理解しがたい。
しかし、ピーチのやつは、それに対して納得出来る理由を告げた。
「ゴーレム技術のある世界で、君はそんな疑問を抱くのかな?」
「あっ……」
そうである。この世界は、霊土と言う不思議な土から、ゴーレムを作れる世界なのだ。呪文によって土人形が、巨大化しゴーレムへと変化する世界なのだ。
だから、その、精神的な力が物理に影響を与えても不思議はないのだ。
……その、原理がどうなっているか、それは気になるが。
「……で、ここからが本題かな」
「…本題?」
「うん。君は、アクアとやらを助けたいんだろ?」
「! 助ける方法があるのか!?」
「……だから、最初からそう言ってるだろ? 君がウチの話しを聞いたのも、それが発端だし」
「あっ……そう言えば」
俺は、またどうやら悪癖がでたらしい。集中すると、その他のことは忘れてしまう。アクアのことがどうでもいいとか、そんなわけは微塵もないが、アクアを助けるための方法を探すため、この状況の打破のため、ピーチの説明を理解しようと意識をそちらにもって行っていたため、そのことを忘れてしまったのだ。
「……でも、その方法ってどうするのさ?」
ともかく、助ける方法があると聞いた俺は、真剣な表情となり、ピーチへ問いかけた。
「おや、切り替え早いね」
「……ごたくはいい。だから、早く教えてくれ」
今この瞬間も、もし生きているなら、アクアが、そして社長や他の従業員も、助けを求めているだろうから。
「まあ、いいかな。へへっ、ウチは最初からそのつもりだし!」
ピンクの石像は、くるくるくる、その場で空を跳び回レ回レ、可愛らしく微笑みつつ、やがてその方法論を説明するのだった。
ーーーーー
一方、その頃、区画A-特権区画にある、区画監理局の本部では、黄金のゴーレム出現の、この自体の収集のための会議が行われていた。
「……どうするのだ。一体、今回の件」
「いた仕方ないでしょう。どうせ管理区画のものなど替えがききますし」
「でもね、黄金卿が目覚めたと言うことは、つまりつまり、『マジンの心臓』が回収できるってことだよ、けけけ」
「……確かに。そうであるな。万が一マジンの心臓が奴等の手に渡れば……」
区画監理局本部では、三人の、謎の人物が会話を行っていた。
そして、彼らが話す、黄金卿、マジンの心臓、とはなんなのか?
しかし、そんなことより、彼らはもっと重要な、その言葉を口にするのだった。
「なら、区画Yを、零土の土煙でみたしては?」
「ほう、なるほど。確かに、それなら事故にできうるし黄金卿も始末出来る」
「……まあ、多少不自然でも、区画Zの奴等にキッカケを与えなければいいだけだしね、けけ」
「……では、区画Yと黄金卿の件、零土の土煙を区画Yへ送り、区画Yの住人及び黄金卿を処分することで決定とする。よいな?」
「ええ」
「けけ」
ーーーーー
話しは戻り、ピンクの石像ピーチと、クロクの場面へ。
彼らは、今まさに、建物や地面が、金へと変わって行く現象の真ん前にいた。
「…ちなみに、お前の力でも、あの金化の現象はとめられないのか?」
「無理かな。さっき説明したのもあるし、石像人間のウチでも、金に触れたらお陀仏さ……」
「なるほど。で、ピーチ、その方法ってのは、本当なんだろうな?」
「うん、本当かな。この方法ならば、金へと変わることも防げ、そして金へと変わったものも破壊出来る……」
その時、一瞬、ピーチは悲しそうな表情となる。
「……まあ、一度金へと変わった人々は、表面…皮膚が金となったことで窒息し、死んでしまったから、救えないけどね」
「……」
その発言を聞いた俺は、どうにも、その表情に共感し、そして同時に覚悟を決めるのだった。
アクアも、社長も、俺の見知った人たちが、もう戻らないのではと。
しかし、だとしても、先生やクコ達が助かる可能性が上がるならと、前へと、進む決心を決めた。
すると、その時だった。
「ああ、でも、アクアちゃんは生きてるかな」
「!?」
ピーチが、俺の心を読んだように、そのことを伝えてきたのだ。
「……? どういうことさ」
「あっ、………へへっ、まあ、ウチの持つ力で、それが分かるのかな」
「力? ……それって、石像になることと関係があるのか?」
その時、俺はクリスタル先生のことを思い出す。
その、六本足の骸骨へと変わった姿を。
先生は、その石像へとなった時、ある不思議な力を使えたのだ。
それは、ゴーレムには絶対できない、そんな、物理的な法則を越えた代物だった。
具体的には、先生に助けられた10年前のこと、落盤事故で閉じ込められていた際の影響で、土煙を吸ってしまった影響で、救出された後もアクアは苦しんでいた。
~~~~~
「ごほっ、……う……くっ」
「……」
「ぐ……うぅ、ごほっ…んっ、……ううううう……」
「…なぁ、アクア、大丈夫か?」
「………う、………ごほっ、うん」
「………」
俺たちは、救出されてすぐ、避難所へ送られていた。
六本足の骸骨姿の先生に運ばれて。
しかし、その避難所は、お世辞にもよい環境とは言えず、治療のための設備も、知識を持った者もろくにいない、ただ人の呻き声だけが響く、まるで地獄のような場所だった。
あるものは、事故のせいで手足を失い、血だらけで、あるものは、二次災害による火事の影響で、全身がただれてケロイド状になっていた。
そんな、人たちが、満員電車のようにすし詰めとなっているのだ。
季節は……いや、季節関係なく、ただでさえ蒸し暑いこの地下国、区画Yでは、こう人が多く集まると、まるでサウナのようで、色んな意味で、息苦しいのだった。
しかし、病人、怪我人たちは、外へ出ることは不可能だった。この、精神的にキツい環境に、耐えねばならないのだ。
なぜならば、ここは区画Yだから。
外は土煙が舞い、ゴーグルとマスクがなければ、とてもじゃないが生きていられない。
だから、マスクやゴーグルをしていられない怪我人たちは、息苦しくても、精神的にキツくても、この室内に止まらなければならないのだ。
「……ごめんなさいね、対応がお遅くなって、お二人共に」
「! クリスタル…さん」
そんな中、俺たちだけでなく、この区画Y中の人々を助けていたクリスタル先生が、俺とアクアの下へやってきて、そして話しかけてきた。
「……おい、大丈夫か? ボウズ、嬢ちゃん」
後ろには、現在、俺が所属する採掘業者の社長もいた。
「……あの、その人は?」
「ここで、零土の採掘を行っている、お採掘業者の社長さんよ、少年」
「……クロクです」
「?」
「……いや、俺の名前、クロクです」
「ああ、そういうことね、お分かったわ、クロク」
「……で、ああ、すみません、話しがややこしくなって……そこの、その社長さんは何でここに?」
「……僕が、医療の知識があるからだよ」
「!」
なぜその時、採掘業者の社長が、先生に同行していたのかと言えば、彼が医療の知識があったからだ。
「 まっ、つっても初歩的なことだけだけどな。……この、区画Yで手に入る知識じゃ……」
「あっ、でも……ありがとうございます」
「さて、能書きはいい、ちょっと、そこの女の子見せてくれや」
「は、はい」
ちなみに、この時、社長が行ったのは応急処置のようなもので、本格的な検査や治療が行われたのは、この落盤事故の一件による騒ぎの収集がついた後だ。
しかし、この、クリスタル先生と社長の二人がいたからこそ、10年前の落盤事故の被害は、通常より少なくなったと言っていいだろう。
「……どうですか? 彼女のお様子は、社長さん」
「……さあな、知識不足だから、どうにも判断出来ないが、土煙を吸ったせいで、肺がやられてるのは確かだろう。咳き込む頻度が異常だし、それから爪や唇が紫に偏食してる……、血の中に酸素が入ってなくて、血液の流れは正常だが、酸素が足りないことで結果血の巡りが悪くなってる」
「……肺は、酸素を取り込むための臓器だものね……、目はどう?」
社長はライトを取りだし、そしてアクアの瞑られていた瞳を開くと、その瞳にライトの光を当てたのだった。
「……お嬢ちゃん、お名前は?」
「……ごほっ、う……ア、………アクアです」
「そうかい、アクアちゃん、苦しいのに喋らせてごめんな。ああ、返事はしなくていいぜ、苦しい時に、無理すんのはよくねーからな。僕としちゃ、アクアちゃんが無理するほうが迷惑さ」
「……」
アクアはその時、返事をしなかった。
「さて、じゃあアクアちゃん、今から目に光を当てるが、すぐ済むから、耐えてくれよ?」
「……」
アクアは、ほんの少し首を縦にふった。
その時、社長が笑顔になったのは今でも覚えている。
そして、実際ライトを当てると、アクアの瞳の、中心部の最も濃い場所、眼球の瞳孔の部分が、少し動いたのだった。
最も、それは左目だけで、右は変化が無かったが。
そして、その結果を、社長たちは小声で話すのだった。
「……マズイね」
「……おどうしたの? 社長」
「血が巡ってないからか、あるいは別の理由があるのかともかく…この子の右目は見えてない」
「……どうしてかしら?」
「光を当てられたのに、眼球運動がない。普通は、目の黒い部分が光に反応して、入ってくる光を留めようと小さくなるはずなんだが……」
「目の筋肉が動かなくなってて光の調節が出来ない可能性は?」
「無いだろな、もしそうなら、光が当たった時眩しくて、アクアちゃん自身が何か反応を示すし、ライトを左右に動かした時、それを追ってくるはずだ……最も後者の場合は目の周辺の筋肉も同時にやられてるならその限りじゃねーが」
その時、俺は二人がなんの話しをしているか分からなかったが、しかし、アクアの奴が危険な状態にあることだけは、何となく伝わってくるのだった。
「つまり、右目はもう、お見えなくなるってこと? 社長」
「……いや、時間と共に解決するかもな……最も、細胞とか原始や分子の状態まで、僕に把握する力はないし、出来たとしても、その構造に関する知識が僕にはない」
「……なにも、お分からないってこと?」
「そうは言ってねーよ。肺がやられて、深刻だってのはわかったろ? ほれ、つまりあんたの出番だ」
そして、社長と先生は、小声での会話を止め、アクアに向かって話し始めた。
「……アクアちゃん? 聞こえるかい?
苦しいかもだけど、返事してくれると助かるよ」
「……は、はい、なん……ですか?」
「……手短に聞くけど、アクアちゃん、苦しいかい? 体が痛むかい?」
「……なんか、さっきまでは、右目と手足が少し痛かったけど……でも今は、胸のあたりが痛い……くらい、ごほっ、ぐ、ごほっごほっ」
「……そうかい、悪いね喋らせて」
「……大丈夫、です」
「……」
そして、今回の回想の本題。石像の、その力が、ここで発揮されるのだった。
「……あなたが、お望めばだけど、アクアさん」
「……なんですか?」
「…もし体中が、お痛むなら、その痛み、無くしてあげることも可能よ」
「!」
その時、その会話を聞いていて、俺は驚き、つい会話に割り込んだ。
「痛みをなくせるって、その、どういうことですか?」
「……お前は、お黙り、クロク」
そして、そこで俺は先生に叱られたのだった。
「……うっ、ごめんなさい」
病人や怪我人の前で、その個人の前で、礼儀を欠いた発言をしたからだろう、人を尊重しなかったからだろう、キツい口調で叱られたのだ。
「……まあ、ここからは二人の問題だ、あっちで、僕と少し遊ぶか?」
そして、その時、そんな俺を、社長は今の社長とはだいぶ違い、優しく、気遣ってくれた。
「……はい」
そして、ここから先の話しは、その後にアクアや社長、先生から聞いた話しを、まとめたものである。
その時、先生は、アクアに対し、先生の石像の特殊能力を使用する許可をとっていたのだ。
石像の特殊能力、そう、今ピーチが『アクアは無事だ』とそう告げたことに、俺が反応したのも、ここに起因する。
石像の特殊能力とは、先生や社長いわく、精神に作用する力なのだそう。
具体的には、クリスタル先生の石像としての特殊能力は、詳しくは不明だが、その時アクアの痛みを消し去ったらしい。
アクアは、まるで怪我も病も、患っていないかの如く、その身体中、心が、お風呂に入って暖まるような、ぐっすりと昼寝をするかのような、幸せに包まれたとそう言っていた。
即ち、その時、アクアは、先生の石像変化した際の能力で、精神的になんらかの影響を受けていたのだ。
………因みに、余談だが、アクアは、先生が石像の力を使うその時、六本足の骸骨姿が、まるで邪悪に満ちたような黒に染まっていったと、そう言っていた。
~~~~~
「その力って、石像と関係あるのか?」
話しは戻り、現在。
黄金のゴーレムが、星願塔から出現した、土煙舞う区画Yにて。
「……? まあ、そうかな」
俺が質問すると、ピーチの奴は少々バツの悪そうな顔となった。
やっぱり、コイツを信用するには、まだ早いようだ。
「……その、ピーチの石像の特殊能力ってどんな力なのさ」
そして、俺は、間髪入れず質問をする。
「……君、クロクは、石像のことを何処まで知ってるんだい?」
? 何処まで?
「何処まで知ってるかなんてどうでもいいだろ? 教えてくれよ」
「……」
俺がピーチの質問には答えずに、自分の要求を続けると、ピーチは少々黙るのだった。
「……まあ、関係はあるかな石像ってのは特殊能力を使えるし」
しかし、直ぐに語りを再開した。
しかし、俺はこのやり取りで、ピーチに対する信頼が、少々下がったので、一つカマをかけてみることにした。
「精神に作用する力だろ?」
「! 驚いた、区画Yの住人の癖に、何故そんなことまで知ってるのかな!?」
「すこし、石像変化ってのについて調べててね……ゴーレム技術も、その仮定で独学で身に付けたのさ」
「……独学? ……何か、ラビに関する書籍か何かでもあるのかい?」
「…まあ、そんなとこかな。ところで、ピーチ、あんたはいつ石像になったんだい?」
「……また、何故そんなこと気にするのかな?」
「……それは、俺も石像になれるからさ」
「!?」
その時、そのことを知って、ピーチの奴は驚いた。
しかし、勿論だが、これはウソだ。
どうしてそんなウソを付くのかと言えば、石像について知るいい機会だから。
クリスタル先生は、石像のことについて教えてくれない。だが俺は、そのことについて知りたいのだ。
いつか、星願塔へと登り、願いを叶えるための、力として。
だから、俺はピーチに対して、さらにカマをかけていく。
「? 気付かなかったのか?」
「……いや、無理かな。まさか…区画Yに石像人間がいるなんてさ」
「そうか、まあそうだよな」
なるほど。これで、一つ分かったのは、石像人間だからとて、相手を石像人間だと判別は不可能と言うことだ。
だってもしそうなら、先程も今も、この反応はおかしいのだから。
そして、味をしめた俺は、尚もカマをかけていく。
出来れば、石像になるための具体的な方法を、聞きだすために。
「俺はさ、元々区画Aの生まれだったのさ」
「! ……それ、本当かな!?」
「ああ」
しかし、これが失敗であった。
ミスとは、して当たり前のもの、しかしだからとて、注意すれは防げなくはないもの。
俺は、この時、何故ピーチが俺に話しかけて来たのかの、その意味を深く考えてから行動するべきだったのだ。
「……区画Yって言うと、どこの生まれだい?」
「クリスタル家だよ。あそこは、通常区画の貿易で有名だろ?」
「……ツイン興をご存じかな?」
「ああ、あの、区画Bの成り上がりか……確かうちの姉上が嫁に行くはずだったーー」
「死ぬがいいかな!!」
「!?」
ドゴッッッ!!!!!
次の瞬間、ピーチの奴の腕が、俺の側にいたゴーレムを粉砕した。
「……な、何で!?」
俺は、その時、意味不明だった。
当たり前だ。
しかし、一つ分かったのは、ピーチのやつにとって、特権区画の話しは厳禁…特権区画に何かしら強い感情があるのだということだ。
「…ま、待ってくれよ、俺は」
「……黙るといいかな。不思議だと思ってはいたの。けれど、つい見つけて嬉しくて、疑問を持たずに接触した…」
「なにを…言って?」
「…服も、姿形がそうだから、監理局でないと思い、話した感じも区画Yの住人って、そう感じたのに……」
「……」
ここらで、遂に、俺の額から汗が滴り始める。
緊張してきた、その証だ。
「どうせ、都落ちにでもあったかな。あそこの人達は、人の心がないからね」
「……」
アクアを助けに来たはずが、いやは、とても遠回りだ。
俺は、黄金のゴーレムの力が、この区画Yを侵食する中、高台にある秘密の学校で心配の中にいるだろう先生やクコたち、そして生きているのなら何処かに籠城しているだろうアクアや社長、そうした者たちのことを考えつつ、目の前のピンクの石像とにらみ会う。
どうにかして、その誤解を解くべきだと。
しかし、ピンクの石像こと、ピーチは、その瞳に恨みを纏わせ、体の色をピンクから緑色へと変えていくのだ。