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第1話 俺の心は石像のよう

もしイラスト投稿できるならしたいぃぃ!


「俺の心は石像のように堅いんだぜ」


少年、クロクは、声高々にそう言った。


『石像のように~』と言う文字列は、彼の口癖である。


何故、彼がそんな奇っ妙な口癖を自分のアイデンティティー(個性)に選んだのかと言えば……まあ、ほぼ間違いなく彼の先生、教師(ラビ)、クリスタルと言う人物の影響が大きいだろう。



「なぁ、アクア……これ、どこに持ってくんだっけ?」


「どこって、決まってるでしょ、中央のエレベーターホールよ」


暗い世界の中、僅かな明かりの灯る場所で、二人の男女の話し声が聞こえる。


「ああ、そうだった……はは」


「……クロク、また仕事サボってたでしょ」


「え……いや、なんでそうなるのさ」


「クロクは昔から、何かに集中すると、それまでのどうでもいいことは忘れるじゃない?」


「……え、あっ……まぁ……」


「で、今あなたは、毎日仕事をしていれば、必ず行くはずの場所を忘れていた……ごほっ……つまりそういうことでしょ?」


「た、確かに!!」


「……確かにじゃないよ……ごほっごほっ、……仕事、サボったのバレたら、また社長から殴られるよ」


「……」


クロクという少年は、その『殴られる』と言う言葉を聞くと、少しばかり真剣な表情となる。


そして、マスクとゴーグルのつけられた顔のまま、こう答えた。


「大丈夫、俺の心は石像のように堅いからよ!」


少女アクアは、その答えを聞くと、クロク同様マスクとゴーグルのつけられた顔で呆れかえるのだった。




少年クロクと、その答えを聞き呆れた少女アクアは、現在【区画Y-管理区画】で、『ある土』を掘る仕事をさせられている。


『ある土』とは、名を『霊土(レイド)』、区画Yとは最底辺の地位の者を指す。


霊土(レイド)』の説明は、あと回しとして、とりあえず区画、そして管理区画の説明から始めよう。


「なあ、アクア」


「なに、クロク」


「エレベーターホールってさ、塔の側だよな?」


「そりゃあ、この区画の中央だしね」


「ならさ、そこいけば、塔の入り口見つかるかな?」


「……どうだろ。私も何度かエレベーターホールに言ったけど、どのエレベーターからもあの黄金の塗装しか見えな…ごほっ、……見えかったわよ」


「そうか。まあそうだよな」


区画とは、この世界における、地位、立場、家柄により住める場所のことである。

それが、そのまま、そこの住民の呼び名やあだ名になっているのだ。


即ち、貴族におけるシャクイ、兵隊における階級のようなもの、ゲームで例えるならランクや強さと言ったところか……。

兎に角、この世界においては、産まれによって立ち入れる場所、区画が制限されているのだ。


区画はまるで塔のようになっており、区画Aを頂上にしてB、C、D…とZまで、縦にならんでいるのだ。



そして、先に説明しておくべきだったろうが、この世界……と言うより、クロクたち住む国は、塔のようであると同時、その国土全てが土の中である。


何をいっているのか分からない?


ああ、しかし簡単。言うなれば、この世界、この国は地底のそこにある地底国なのだ。


そして、これは後々話すことだが、この国の中央には、まるで、ではなく、

本物の塔が建っている。


高さは分からず、区画Zから区画Aまで、全ての区画をつき抜けるように、聳え建つ黄金の塔があるのだ。


何故か入り口の見つからない、黄金の塔があるのだ。


この塔は名を『星願塔』と言う。



さて、話しを戻すとして、この区画だが、実は立ち入れる場所、以外にも、産まれた区画ごとに大きな制限がある。


早い話し、職業選択が無い、業種の固定、と言うものだ。


仕事が選べるか、選べないか、そのメリット、デメリットには触れないとして、しかし確かに、産まれた場所によりそれはある。


そして、産まれた区画が管理区画、そう呼ばれる場所であれば、その縛りは、もはや命にも関わってくる。


管理区画とは、この世界、国においての最底辺を指す。

それは、区画A~Yの全25ある区画の内、V.W.X.Yの四区画を示す。


区画Aを頂点として、物理的にも上から下へ、塔、あるいは筒上のこの国は、上であるほど裕福で、下であるほど貧困であり、そして最底辺の区画V.W.X.Yの四つは、もはや人とは扱われないのだ。


具体的に言えば、彼ら底辺区画の者たちは、この国そのもののライフライン、生活水準を維持するための、パーツとして扱われる。


『人は社会の歯車だ』。なんて言葉もあるが、彼ら底辺区画の者たちは、歯車は歯車でも使い捨ての消耗品なのだ。


区画A-特権区の者は、言う。「彼らは何故、あんな息苦しい場所にわざわざいるのか、理解出来ない」と。


息苦しい、とは、なんなのか?

それは、精神的に、でもあるが、しかしてまさしく、言葉通り。


底辺区画、管理区画においては息が出来ないのだ。


~~~~~~


第一章 ピンクの石像



どこかの場所、いつかの時代……。


「ねぇ、クハ! 駄目! 目を開けて!」


「…………」


「……ねぇ、クハ、起きてよ」


「……悪い、もう、体の感覚が殆どないんだ……」


「……駄目だよ、死んじゃ、死んだら、もうあなたは生き返れないんだよ……」


桃色の髪をした少女が、白く光り輝く洞窟で、涙を頬へ流す。


「……生き返る……いや、大丈夫さ、僕はもう十分幸せだったから」


「……」


少女のすぐそばには、緑の髪の少年が横たわる。

少女は全身血だらけで、少年の身体中とすぐそばには、少年の髪の色とは違い深海のように濃い青色の欠けた石が散乱していた。


「……クハ、大丈夫だよ、ウチが必ずこの塔を登りきって、必ずあなたを……」


「!? ……だが、それじゃあ君の本来の願いはどうなる!? 諦めるのか……?」


少年は、少女の言葉を聞いて、枯れた声で叫ぶ。


「……だから、大丈夫だって言ってるでしょ? 人は成長し、そしてそれに合わせて望みを変える……そう言う生き物でしょ?」


「……なにが、いいたい?」


「つまりねーー」


少女は僅かに呼吸を挟むと。


笑顔で告げた。


「ウチの願いは、もう別のものに変わっているのよ」



~~~~~


現在、オラスタ暦3055年6月31日。


夏ももうすぐだが、しかしこの時代の者は地中で暮らすため、季節は感じない。


「クロク! おい、クロクはどこだ!!」


煙り立ち込める中、マスクとゴーグルを付けた、高そうな服に身を包む男性が歩いている。


「! おい、クロク! やっと見つけたぞ テメー、サボってんじゃねーよ!!」


「! 社長!!」


荒廃した世界。


ドス黒い煙りに満ちた空間と、光を遮る天井……光が僅かしか見えない空間。


岩肌にいくつかの松明がかけられており、それがその地下空間を僅かに照らす、薄暗い世界。


ここは《区画Y-管理区画》、最下層より二番目の区画、最も地位の低い者達が集まる、別名『短命の探鉱』。



「クロク! 何でお前は、言われたとおりにできねーのさ!」


社長と呼ばれるその男は、クロクと言う少年を殴りつけた。


「痛ッ……待てって……、無理やり嫌なことやらされて、逃げないわけないだろ」


「うるさい! 殴られる方が悪いんだ! 言い訳するな!」


「……うるせーよ(相変わらず、人の話しを聞く気がないじゃねーか……)」


この地下空間《区画Y-管理区画》では、現在、ある企業が「霊土(レイド)」と言うエネルギーの採掘を行っていた。


ーー空にある星願塔が君の願いを叶えるだろうーー


霊土(レイド)を必要とする理由は、そのエネルギーが生活の維持のために必要であると同時、数千年前より伝わる伝承に、そう言う言葉があったからである。


はやい話し、何でも願いの叶う力を求めて、とある塔を登るためである。


塔を登るために、戦力となる、ゴーレムを作り、使役するためである。


そう、この世界には、ゴーレムと呼ばれる土人形を製作、使役する技術があるのだ。


詳しい原理は不明だが、そのゴーレムは、この世界の、この国の、一定より深い深さ……具体的には《区画V》より《区画Z》までの場所より取れる霊土(レイド)と呼ばれる特殊な土を使用し土人形を作り、それの頭へ文字を刻むことで稼働させられる。


作り出されるゴーレムは、何故か凶暴で、そしてとても強い。


兵器としてみた場合、単純な攻撃力、防御力で、恐らく戦車数台、(ひと)数百にも届くだろうそれは、この世界ではポピュラーな技術なのだ。


ちなみに、余談だが、霊土(レイド)には性能……赤、青、緑、白の四つのランクがあり、より強力なほど強い土人形が作れ、より深く、より北東へと向かうほど、霊土(レイド)のランクが上がる。


そして、星願塔…それは、そもそも霊土(レイド)を大量に必要とする、主目的でもある星願塔とは、どのようなものかと言えば、やはり「流れ星」のようなもの。


現在少年達のいる薄暗い空間、その中央に、ぼんやりと光輝きそびえ立つそれは、都合良く、人の願いを叶えてくれるものなのだ。


それを笑う者、確かめもせず馬鹿にするものも多くいた。


しかし結論から言えば、その「流れ星」である「星願塔」は確かに存在し、そして願いを叶える力もあった。


例え、それが魔王になりたいと言うものでも、世界征服でも、真理の探求や世界平和でも、不老不死でも都合良く叶うものなのだ。


ーーーーー



俺の名前はクロク、この地底国、地下空間にて、生活するものの一人だ。



「……クロク、だから言ったじゃない」


小部屋の中、マスクとゴーグルを着けている俺。その俺に対して、俺の前に座る、同じくマスクとゴーグルを手に持つ女の子が話しかけてきた。


「ああ、くそっ、ウチの社長は糞だ……自分が困るとすぐ人に当たりやがる」


俺は、この地下空間、暗い世界において、一塊の労働者として雇われていた。


いや、ただしくは、雇われるしかなかったか……。


「ごほっ…………。自業自得よ、やられると分かってるのに仕事サボるから……」


「なんだよそれ……じゃあアクアは、人殴るのが善いことだっていうのか?」


「……そうは言ってないじゃん……そう、人はそれぞれ苦労してるし、大変でしょ? 無理に反発したり、目立っても、ややこしくなるだけって言ってるの」


「……俺は納得できねーよ」


アクア、彼女は、俺と共に住んでいる女の子だ。


歳は16のはず、俺と同い年のはずだ。


はず、と言うのも、この区画Yでは、どうにも適当な仕事をする奴らばかりで、出生の際の記録など、取られてもいないし、誰も興味ないからだ。


病院での治療の際など、必要になったらどうするのか……。自分の命やルーツは大切にするべきだろうに。


兎に角、アクアと言う女の子は、青い髪に落ち着いた雰囲気の、静かだけどやる時はやる女の子だ。


そして、俺たちが何故共に一つ屋根の下暮らすのかと言えば……少し嫌な話しとなる。


そもそも、この区画Yは、差別的な待遇の者たちの住む場所だ。


国、社会、世界、人類、そうしたコミニティーを守るために、犠牲者や不利益を被る者が必要なのは致し方ないとしても、いくら何でも露骨すぎると言えるほど、扱いが悪いのだ。


逆らえば殺されるのは前提として、もし立場ある者へ逆らうのなら、親戚、関係者、そしてくじ引きで選ばれた無関係の数人まで、犠牲者となる。


早い話し、同じ区画、仲間内での監視が目的のシステムである。


さらに、あまり言いたくないことだが、数日おきに、何人か、若い女性や、男性など、誘拐と寸分たがわぬ非道さで、上の区画へと連れていかれることもある。


何をされているのか……。


……兎に角、この区画Yと呼ばれる場所には、人権と呼べるものは始めからないのである。



話しは戻り、どうしてアクアと俺が同じ屋根の下暮らすのかと言えば、その人権のなき世界故にと言える。


具体的には、この区画Yにおいては、住人はとある仕事を任せられており、俺とアクアの父母は、それが原因の病でなくなったのだ。


『結核』 『肺炎』


肺の病、について聞いたことはあるだろう。


これら病気と同様、病とは、肺の病気である。


零土、と言う土の採掘を行うための、この区画Yと呼ばれる場所は、常に土煙がまっている。


しかもそれは、ただの土煙でなく、有毒……零土によりゴーレムを作るメカニズムに必要な『未知のエネルギー』が混ざり混んだ、人体に有毒な土煙なのだ。


マスクとゴーグル。


この区画Yにいる住人のほとんどが、これをつけている理由でもある。


とかく、この区画Yでは、常に有毒な土煙りが舞っており、その影響で、マスクをしないのは論外として、例えマスクをしていても、体の弱い人は病気となり死んで行くのだ。


俺の両親は、父親が4年前約40歳で、母親が8年前約33で床にふせり。

アクアの方は、父と母共に、10年前、採掘中の事故で無くなっている。


そして、本題。


親をなくした俺達が、その後どうして、一緒に生活することになったかと言えば……。


それはとあるラビのおかげであった。



ーーーーー



「おかえり、お二人共に……」


「ただいま、クリスタル先生」


「ただいま……てっ、クロク靴」


「別にいいだろ、明日も掃くんだし」


「そういう問題じゃないでしょ……とっ、ごほっごほっ………ああ、もう!! みっともないっていってるの」


俺達は、土煙り舞う地底世界を歩き、そして我が家へと帰ってきた。


この区画Yの家は、まるで古文書にある潜水艦と言う乗り物のように、またどこかの衛生管理のしっかりした工場のように、家へ入るまで扉と小部屋が複数ある。


外の土煙を落とす部屋があるのだ。


まずは、一つ目の外に面する扉を開けると、小さな部屋がある。

そして、入ってきた外と面する扉を閉めると、俺たちと共にやってきた有毒の煙が換気される。


次に、完全に空気が換気されたら、二つ目の扉を開き、そして俺達が今いる空間、玄関件シャワー室へとたどりつき、そこで体を流して初めて、住居スペースである家へと至れるのだ。


面倒だが、これをしないと、俺たちは死んでしまうのである。


「で、どうだったの? お採掘の方は、お二人共に」


「まぁ、今回も危険はなかったよ」


「クロクがサボったのバレて、社長に殴られたけどね……ごほっごほっ」


「ちょっ……それは言わなくていいだろ!」


「……はいはい、で、クリスタル先生、そっちは今日どうだったの?」


少々の会話の後、アクアがクリスタル先生へと尋ね返した。


「そうねぇ……今日は、趣味のお裁縫に集中できたかしら、アクア」


「! それって、もしかして、私がこのあいだ頼んだ洋服!?」


先生の答えを聞くと、アクアは口を大きく開けて笑う。


「ええ、そうよ、頼まれていたお洋服よ、アクア」


「……先生、やっぱり、大好き! クロクなんかと違って!!」


そして、何故か、俺を下げつつ先生を誉めた。


「……おい、おかしいだろ、何で俺が出てくる」


「だって、クロク、すぐサボるんだもん!」


「……いや、理由はお前も知ってるだろ?」


「ハーイ、はいはい、すごいねクロク、すごいすご~い!」


「それ絶対凄いって思ってねーだろ……」


「仲よしなのはいいけれど、ちょっといいかしら? お二人」


「「!?」」


アクアと話していると、クリスタル先生が間に入ってきた。


「シャワー、浴びるなら、早くして、私が入った後だから、お風呂まだ暖かいから、電気代、お二人共に」


「あっ、はい、先生」


「おう、じゃあ入りますか」


まあ、そんなこんな、俺達は、クリスタルと言う女性のラビに、育て養ってもらっている。


子供の時から暖かく、もう十年近く、この過酷な環境で守ってもらっている。


…………あと、ちなみに、クリスタル先生は自称18だ。



ーーーーー



ザーザーザー、ザブッッ………ジャバッ………。


ジャー……キュッ………ぽっ、、、、ぽつ、、、、ぽっ、、、。


「ねぇ、クロク、石鹸取って」


「そっちにないのか?」


「うん、切れちゃってるみたい」


俺とアクアは、あの玄関での語り合いの後、やはり、風呂に入っていた。


と、言っても、俺は今、湯船に浸かっているものの、アクアはまだシャワーを浴びているが。


「よっと……確かこの上に封の空いてないのが……」


「……早くしてよ」


「なら自分でとりにこいよ……」


「いいじゃない、面倒なんだもん」


「たくっ、……ほらよ!!」


「あっ、ちょっと! ……とっ、つ……危ない……。 ちょっと、投げないでよ!!!」


「いいだろ、面倒だし」


「……後で水かけてやるからね! 覚えときなさいよ……」


お湯だけどな……と言おうと思って、俺は瞬間、口を開くのを止めた。


アクアは結構イタズラ好きで、下手なこと言うと後がほんの少しだけ怖いから。


………キュッ、ジャー……ザーーーザーザーザーザーザーザーザーザー


再び、湯気が薄く充満する、あたたかな風呂場に、シャワーの音が児玉し始めた。



現在、俺とアクアは共に風呂に入っている。

しかして、残念だろうが、どちらも水着を着ているのだ!!


当然だ。


まさか全裸でお互い同じお風呂に入るわけがないだろう? いや、まさか、そんな馬鹿な想像したものなど、いないはず。



まあ、俺はするけど。


たまに、「子供の頃みたいに一緒に裸で風呂に入ろう」と、アクアに提案するのだが、クリスタル先生にチクられる。


とかく、俺達は、時間短縮と、そして『もしもの時』のため、お互いに共に風呂に入っている。



さて、ここで少し話しは変わる……いや、戻るが、あたたかな風呂につかっていると、どうにも、気分がよくなってくる。


ので、ラビ、クリスタル先生の話しをしよう。


まず最初に、ラビ、クリスタル先生は、俺の師匠であり、そして俺の尊敬するお人だ。


お人……そう、お人、敬意を込めて、口癖の真似をしたのだ、クリスタル先生の。


クリスタル先生は、ラビ、即ち、ゴーレム使いだ。


ラビ、とは教師の意がある言葉であり、そしてラビことゴーレム使いとは、零土よりゴーレムを作り出せる技術を備えた人のことだ。


しかし、ゴーレム使いは、実はこの世界では珍しくない。

最底辺の、管理区画においては、とても珍しい存在だが、しかし区画UからAまででは、それは当たり前の技術らしい。


たまにやって来る、胸くそ悪い兵士たちは、皆、一人一体はゴーレムを従えているからだ。


兎に角、ゴーレムそのものは、管理区画以外では一般教養の範疇らしく、そしてそれ故、それのみで、俺が、クリスタル先生のことを尊敬しているわけじゃない。


クリスタル先生を、何故俺が尊敬するのかと言えば。


それは彼女が、『石像』だからだ。


正確には、石像化のできる人間だから。


石像変化ーーそれはゴーレム技術の最高峰と言われている。


石像になるための、具体的な方法は不明。


一部の人間だけが、その方法を掴み、そして«人でありながらゴーレム»であれる、«自身の体をゴーレム»に変化させる力を持つのだ。


クリスタル先生は、白い石像へとなれる。

一度、その姿を見たことがあるが、あれは六本足の生えた骸骨だ。


クリスタル先生は、俺の目から見ても美人だ。

もちろん、既に年増だが、美人だと言わないと怒られるから仕方なく美人と言わされている……いや、この話しは止めておこう。


兎に角、クリスタル先生は、ダウナーで、しっとりとしたカビや苔のような、独特の雰囲気の美人な女性なんだ。


しかし、石像変化を行うと、その姿は、とてもカッコいい骸骨へと変わるのだ。


はっきりとは見ていない、しかし、あの日、落盤事故のあった日に、俺とアクアは確かに先生の石像変化した姿を見たのだ。


そして、それから俺は先生に憧れた。


先生のことを、カッコいいと思ったから。


だからだ。俺が「心が石像のよう」と言う決め台詞を考え出したのは。


たかが石像とてあなどるなかれ、石は古代より続く人類の遺産なりて、基本元素の四大の、一角似ないしエレメント。


像は像とて、技術の伝統。人の祝いと呪いと想いと、この人間のたくましさを物理的に表現する。


人、とは、心ある唯一の生き物で、そして石像とは、人が自然を生きていた証。


即ち「心は石像のように」。


ダイヤモンドほど固くないから結構脆い。砕けるし、泣くこともある。しかし、それでも折れない力強さを備えている。


何故なら人とは、そういうものだから。


心を大切に、信念は堅く。


「心は石像のように」。



……少し、恥ずかしいし、意味が不明なとこもあるが、兎に角、俺はクリスタル先生に助けてもらった翌日、この決め台詞を考えだしたのだ。


でだ、そんなカッコいい先生と石像だが、実際本当に戦力としても凄いらしい。


石像一人でゴーレム十数。具体的な戦力としてこの程度。


クリスタル先生いわく、石像となれる人間は、稀少でありこの程度の強さだそうだ。


人より強いゴーレムのいる世界で、ゴーレムより強い石像人間がいるのだ。


上には上がいるのか、あるいは結局頂点へ立つのは人なのか。


とかく、この世界は広いらしく、だからこそ俺は、俺の『願い』を信じられるのでもあるのだ。



と、湯船につかり、のほほ~んとしつつ想像に耽っていると……。


バシャッッ、と、俺の顔にお湯がかかった。


「!?」


「クロク、また、考えごとをしてたでしょ?」


「お前……くそっふざけんな!!!」


「ふふっ、残念ですよ! 当たりません!」


俺はすかさずお湯をかけ返すが、アクアはそれを華麗によけやがる。


「この………ふざけんな!」


俺は少しばかりキレると、アクアに向かって突進していった。


風呂場で何をやっているのか、滑ると危ないじゃないか、と言う真面目な意見もあるだろうが、しかして俺は不真面目なんだ。


兎に角、俺は、少しの怒りと、そしてあわよくばどさくさに紛れてアクアの胸を触ってやろうと……いや、結構本気で揉んでやろうと、アクアへ向かって行くのだった。


ゴンッ!!!!



しかし、次の瞬間、俺は風呂場の床へ伏せることとなる。


何故か? 滑ったからか?


違う。


アクアの奴が、俺のスケベ心を見透かしたからか、俺の大切な場所を蹴ってきたのだ。


そう、それは見事な、威力スピード共にもうしぶんない蹴りだった。


俺は、その時、その瞬間、耐えがたい痛みに襲われ悶絶する。


そして……座り込んだ俺をにやけながら見下してくるアクアにこう言葉を返すのだった。


「ぐぅ、くっっ………アクア……これは、卑怯だろが」


しかし、アクアは譲らず、軽く邪悪に笑った後、可愛い声で無邪気に言うのだった。


「女が男に勝つためには、力なき者が身を守るには、卑怯な手も使わなきゃ駄目なのでしょ?」


「……」


俺はそれに、何も言い返せなかった。


何故なら、それはこの世の心理であるから。


そして、俺とアクアのそのやり取り

を、洗面所の近くで聞いていたクリスタル先生は、呆れつつ、しかし嬉しそうに笑うのだった。



この、なんの変化もない楽しい生活が続きますように、と。



ーーーーー


ヒュウウウウウウウ。


一体の小さな、ピンクの石像が暗い地下空間で町を見下ろしていた。


その町は、パイプや重機が目立つ、工場のような場所だった。


「さてと、今回は見つかるかな」



ピンクの石像は、小さく呟くと、土煙の舞う高台から、中央にある黄金の塔を静かに見つめる。


そして、ピンクの石像の背後に、いつの間にか現れた、黒い猫のような影に向かって、指示を出すのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 段落付けされてる [気になる点] 同じこと繰り返してないか? 急にキャラが変わるのは(ストーリーも)漫画ではイメージつきやすいけど、小説ではわかりにくかったりするぜぃ [一言] 内容がよ…
2020/11/24 18:18 ほたくん。
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