第1章 9話 救出
静止の声を掛ける間もなくニールは飛び出した。
飛び出す直前に放った圧力で硬直したのか、それとも勢いよく飛び出したニールに対応できなかったのか、4匹のゴブリンの挟撃が未遂に終わる。
松明の光が届かない部屋奥から石槍を持った2匹のゴブリンが飛び出してきた。
ニールも身体の前で腕を交差し構えながら2匹に突っ込んでいく。
石槍がニール届く寸前に腕を左右に開く様に手刀を放ち、2匹の間をすり抜けるように交差した。
2匹のゴブリンは首をもがれ、なだれ込むように崩れ落ちていく。
レナは呆気にとられつつも残りのゴブリンに魔法を発動した。
「乱逆し主を穿て…《影の槍》」
挟撃に失敗し、部屋に侵入したニールに槍を向けていたゴブリン達の影から尖形状の影が飛び出し4匹のゴブリンの胸を穿った。ゴブリン達はもがくこともできず、身体は宙を浮きうなだれて事切れた。
「おお!」
今頃気づいたのかニールこっちに向かって驚きの声をあげていた。
眼前の敵は掃討した。レナは立ち上がり、先に部屋に入ったニールに声を掛ける。
「お主そう突っ込むもんじゃないわ。あやうく…」
レナの目が怪しく光り、奥に目を凝らす
「まだじゃ!まだ奥に1匹おる!」
レナは人差し指を向け無詠唱での《魔弾》を放った。
《魔弾》から発する風圧で、弾道上の暗闇が霧散する。
奥にあった暗闇が嘘のように晴れ、一気に部屋内が明るくなった。
暗闇が消滅すると、《火球》の魔法を発動中のゴブリンシャーマンが出現した。
(《火球》じゃと?こんな狭い洞窟内で?!)
自殺に等しい行為だが、向こうもなりふり構ってられないということだろう。
レナは声を張り上げる。
「止めよ!火の海になるぞ!」
レナが言い切る前にニールは飛び出した。レナも《魔弾》を連続射出する。
放たれた3発の魔弾が《火球》に直撃し炎が霧散した。
霧散するとほぼ同時にニールがゴブリンシャーマンの顔面に掌底を叩き込む。
外傷がないように見れたが目や耳から血が噴き出して事切れた。
「急に大っきな声出すからびっくりしたわ!」
「当たり前じゃ!また服が無くなるじゃろうが!」
これで住処内のゴブリンは排除できた。
あとは横たわっていた女性である。女性を確認すると、まだ幼く歳は10代未満だと思われ、身体的特徴が攫われた人物と一致した。だが身体は無残な有様でなんとか息をしている有様だった。
「大丈夫そうか?」
「かなりマズイな。あちこち折れた骨が内臓を傷つけとる長くは持つまい」
「回復魔法とかないのか?」
「ヴァンパイアの儂には使えん魔法じゃ。じゃが手段ならあるぞ」
「おっ!さすが年の功!」
「年ゆうな!」
レナは髪をかきあげ座り込んだまま上を見上げ、口を広げて舌を大きく伸ばした。
「唾液じゃよ。ヴァンパイアの唾液は傷を癒す。」
「んんっ」
ニールは咳払いし照れて慌ててそっぽを向いた。
ふふん♪かわいい奴め
レナは面白がってそのままのポーズでしばらく舌をレロレロ動かした。
「時間ないんだから早くしろよ!」
肩を掴まれて強引に横たわる女性に振り向かされる。
「せっかちな奴め。まあよい…っんぅ」
レナが女性を抱き寄せ口づけを始めた。
唾液を流し込み、舌を入れる、口内から舌を動かす水音が響く。
続いて顔、首筋、胸へと舐め上げる。肢体を舐め上げる水音と漏れ出るレナの鼻息だけが部屋内に響き渡り、松明の揺れる火によって非常に淫靡な空気が立ち込める。
ニールは見てはなるまいと手で目を覆っているが、指の隙間からガン見だった。
見ないようにしようという理性が格好だけとなり、眼前で行われている情事を瞬きも忘れて終始ガン見だった。
「っん。ふぅ、まあこんなもんじゃろう」
レナは口元を拭い、抱き寄せていた女性を床に置いて、外套をまとわせた。
「もう大丈夫そうか?」
「うむ。一命は取り留めた。しばらく養生すれば日常生活にも問題なかろう。お主はこの娘を連れて先に村に戻ってくれ。儂はこいつらの耳を回収して、あたりを探索して戻る」
「あいよ!」
ニールは女性を背負い洞窟を抜けて村に歩を進めた。
「おい!帰ってきたぞ!」
「ちょっとあんた村長呼んできて!」
ニールが村に戻ると村人が大慌てで駆け寄ってきた。
村人に女性を引き渡し、住処を潰した報告を済ませると、
生き残ったゴブリンがレナに追われて村に飛び込んでくる可能性もあった為、ニールは村と森の境界線で待機していた。
だが当然レナがそんなヘマをする事などなく、暇を持て余したニールはレナから受け取っていた携帯食を頬張りながらレナを待った。
程なくしてレナも携帯食を頬張りながら森から現れた。
「どうだった?」
「他にも2つ横穴があったが何も住んでおらんの。とりあえず入口だけ塞いでおいたので問題あるまい」
「んじゃ村長にさっさと報告済ませて帰るとするか」
「ふふん。まだこんな時間じゃ。ゆっくり帰って酒で乾杯と行こうではないか」
「酒?飲み物なのに金のかかるやつだろ?俺は水でいいよ」
「なんじゃお主?酒飲んだ事ないのか?」
「ない!」
世間知らずだと思ったが酒も飲んだことがないとは驚きである。
「ふふん。では儂が1杯奢ってやろう。乾杯が水では締まらんわ」
そういうレナに強引に肩を組まれ、ニールは歩き辛らそうに村長宅に歩いて行った。
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