第1章 5話 冒険者組合
早朝 まだ人通りも少なく、通りの商店は開店の準備を行っていた。
住宅区画からは朝食の準備がろうか、小気味良い音と起き抜けの空腹に響くいい匂いが立ち込めていた。そんな中気怠そうにレナとニールが商業区画の奥へ共に歩を進めいていた。
「こんな早く起きる必要あったのか?まだ眠いんだが」
「うるさいのー儂だって眠いわ!お主はベッドで寝たんじゃからまだましじゃろ?」
お互いほぼ徹夜で逃亡劇を繰り広げていた為、二人共あまり休めていないのだが、自分の方が眠り足りないという不毛なアピールを辞めなかった。
「自分からじゃんけんで決めようって言いだして負けたんだから自業自得だろ」
遅い時間に宿訪れたこともあり部屋は一つしか空いておらず、しかも一人部屋だった為、ベッドは1台しかなかった。宿の代金はニールが払っている為、普通に考えればニールがベッドを利用するのが道理であるが、レナは女性である。ベッドの所有権は意見の分かれるところだろう。レナも道理は承知しているがどうしても自分がベッドで寝たかった為、後腐れないようじゃんけんを挑んだが惜敗していた。
「レディーファースト精神のない奴じゃ」
「そういうのは騎士様や貴族に言ってくれ」
後から聞いたがニールとしてはどちらでもよかったそうだ。突然勝負を仕掛けてきて勝手にルールを決めて、勝手に負けたのである。
「ギルドっていうのはまだ先なのか?」
話題を変えたかったのだろうニールは行く先の道程を聞いてきた。
こちらも街の地理には疎い。宿屋の店主が書き記したメモを取り出した。
「ちょっと待っとれよ。…そこの突き当りを右じゃな」
宿を出てから数分で目的地へ到着する。
目的の建物は2階建てで石材と土壁作りのしっかりとした作りをしており、通りから石段を数段上った先にある入口は肉厚の木作りで、全体的にどっしりとした家構えだった。
《サウスガルド領区冒険者組合 パレモル支部》
昨晩レナが言っていたうってつけの仕事というのは冒険者のことだった。
冒険者組合は国家間の枠組みを超えて存在する組合組織で、各国の各都市に支部を持ち、都市や周りの町村から参加する組合員の組合費によって運営されている。
冒険者の仕事は多岐に渡るが、都市間の荷物運搬の護衛から資材調達依頼、魔物討伐依頼、旅行者の護衛、近隣の調査など主に危険が伴う仕事が多い。
依頼内容を組合に提出し、組合員が内容を審査し依頼料金を設定する。料金の一部を組合が手数料として接収した後、クエストとして組合の掲示板に張り出されるという仕組みだ。
冒険者はクエストを受注し、達成の報告を組合に申請、受領の後料金が支払われる。クエストは難易度によってランクごとに管理され、掲示されるランクに適正とされる冒険者ランクを満たしている冒険者のみが受注できるシステムとなっていた。つまり実績のある高ランクの冒険者は低ランクのクエストも受けられるが、実績の少ない低ランクの冒険者は高ランクのクエストは受注できない。クエストの成功率を上げ、冒険者の死亡率を下げる為、設けられた規則だった。冒険者になるにはとても簡単で身寄り・身分に関係なく用紙を記入して提出するだけである。誰にでもなれて収入もいい為、冒険者職を希望する者は多いが、過酷で命の保証のないため冒険者業界はいつも人手不足だった。
冒険者のランクは、銅・鉄・銀・金・白金・白銀・黒鉄の計7種類。
各階級に身を置く冒険者たちは、階級ごとのプレートを携帯する規則となっており、それが身分証の代わりになっていた。銀証以上の冒険者には国家間の横行パスを発行しており、国を跨いで行う護衛や素材集めは銀証以上がふさわしいとされていた。
中でも白金証以上の冒険者は限られた才能を持つもので、ギルドを通さず個人間での契約を許されており、国や団体、貴族と専属契約することもできた。秘密裏の案件などはこれに該当する。
だが原則として冒険者組合は国家の枠組みの外の存在の為、国政にかかわる事を禁じており、当然国家間の戦争には参加してはならない。護衛など傭兵の仕事と被っている部分もあるが、このあたりが傭兵と冒険者の違いにあたる。
冒険者組合に入館するとそこは冒険者同士が待ち合わせする待合所と受付カウンター、壁にはランクごとに掲示場所を区分けした掲示板が見受けられる。他には冒険者が掲示しているパーティの入会募集の張り紙や、クエストに共同参加する即席パーティ募集の張り紙が貼られている連絡掲示板や小さな酒場なども設備されていた。
二人はカウンターにて冒険者の登録を早々に済ませ銅証のプレートを受け取り、クエストの掲示板を眺めていた。
「へー荷物を届けるようなクエストもあるのか。あ、なるほど時刻の制限つきね」
「手紙や荷物は大体都市間の輸送便で送られるが遅いからの、急ぎなんじゃろ!というかお主文字は読めるんじゃな!」
「お前俺をバカだと思ってるだろ!」
ニールからジトっとした目を向けられるが他意はない
口笛を吹いてごまかすことにした。
「いやいや~感心しただけじゃ。初めての仕事じゃ手っ取り早くわかり易いやつがいいんじゃが…」
「おっ!これなんてどうだ?村に頻繁に出没するゴブリン退治」
「えーと…うん。近くじゃな。今日中に済ませられそうじゃ。これにしよう」
「じゃ早速行くか。なんか準備とかするべきなのか?」
「ほー察しがいいの、じゃが我らは文無し、準備する金がないわい。幸い二人共武器は不要じゃしな。パッと行って日帰りで済ませるとしよう」
「これで今晩は腹一杯喰えそうだ。」
「始まってもいないのに皮算用とは余裕じゃな」
「相手がゴブリンじゃなぁ…」
ニール的にはどうやら楽勝のようだった。
ここまで御覧いただきありがとうございます。
次回からは冒険者初仕事になります。
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