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地獄へようこそ!  作者: 肉月
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第1章 3話 潜入

案の定でだった。


この男は南へ向かえば歩くにつれて、ぐるっと大きく回って、最終的に北に向かう男だった。


結局レナが道案内する形となり、レナを先頭にニールがトボトボ付いていく形となった。

レナはヴァンパイアといっても真祖に分類される上位種であった為、昼間だろうが大した苦もなく日の下を歩くことができた。


横穴で少しの仮眠を取り、夜中に出発したのにも関わらず、ニールが迷うおかげでパレモルに到着したのは、日が傾き始めた夕暮れであった。

日も落ちている為、早く宿を決めねばならないが問題が発生していた。


儂の手配書が回っていた。

見た目は少女、白髪に黒の中からぼんやり光る赤目。とても目立つ容姿だ。


まあ逃がしたのなら当然そうなるじゃろうな


森を抜け、街が目に入った辺りで変化の魔法を使用した。

小さい少女であったレナはスラっと背が高く、手脚の長い美麗な美女に化け、髪はブロンドの、瞳も黒色が強くなっていた。



街の入り口である門のある砦には多くの人が列を成している。

砦の壁には自分の顔が描いた紙が貼られていたが、知らん顔するのが得策である。並んだ列の大半は各地を回る行商人。日が落ち切る前に街の中で宿を取りたいのか気が急いている者が多かった。門を閉める刻限が近づいているからか、列は思っていたよりも早く進んだ。

ニールはこんな大きな街に入るのは初めてとのことだが、落ち着いており静か。ただ退屈だったのかもしれない。


「砦の憲兵が話しかけてきてもお主は何も喋るな。儂に任せろ」


ニールが喋ると混乱するだけなので先に釘を刺すことにした。

長かった列は次々と前に進みようやくニール達の番となる。


「次はお前達か?どこから来た。」


「ごきげんよう。私たちはサウスガルド領の、チェイダーズ村から参りました。」

悪びれもせず第一声から嘘をついていた。ここから南東にあるド田舎の村である。


「パレモルにはどんな御用で」


「人材の売り込みに参りましたの。私方々を回っておりまして、各地にいる優秀な人材を適材適所の奉公先へ案内するのを生業としておりますの」


「へぇ、んでそっち大きいのが商品?」


「大きく、力強く、山育ちで敏感。小綺麗な格好させ家の前に立たせて置いておくだけで盗人も入りませんわ。なんなら憲兵として雇っていただいてもかまいませんよ」


「はいはい!それはいいんだけど、もうちょっと小綺麗にできなかったのかい?この街は貧民街もないんのだ、そんなかっこで街中歩かれちゃ景観を損なうってもんだ」


「小綺麗させる為にこちらの街を選んだのですわ。顧客のほとんどが貴族や富裕層なんですもの、安物を身に着けては売値が下がってしまいます。」


「しかしなぁ……なぁ、あんた!なんで裸足なんだい?」


変化の魔法を使用しているが、少女の時履いていたブーツなど履けるわけがない。

魔導具の外套をロングコートに変え、足元まで隠していたが気づかれた。

心の中で舌打ちをする。


レナは人差し指を立て口元に置いてニコッっと笑いながら、憲兵の目をじっと見る。

一瞬だけ憲兵は怪訝な顔をしたが、向けられている目に吸い込まれるように見惚れ、強張った顔が解けた。


「何も問題ない」


レナは優しく告げる。

続いて憲兵も復唱する。


「な、なにも…問題ない」


「そう。なにも問題ない」


憲兵の唇に人差し指をなぞらせて優しく語り掛ける。

呆けていた憲兵の目が、解決したといわんばかりに見開き笑顔で続く。


「はい。なにも問題ありません。」


2人はさも当然のように砦を抜けた。


憲兵の突然の変わりようには種があった。ヴァンパイアのスキル《魅惑の魔眼》を使用していた。砦には魔法を探知し、不正させないための魔術師が待機しているが、魔眼はスキルであり魔法ではない為、探知が難しく精神干渉系の魔法を得意とする者以外、見破るのは困難だった。

真祖クラスのヴァンパイアが本気で隠れれば発見が困難な理由である。


国境間近の貿易都市であるパレモルは隣国が目の前ということもあり、周りをぐるっと城壁に囲まれている。城壁内部はいくつもの区画に分かれており、街の中心にある行政区画、備蓄物資などが保管されている倉庫区画などは、さらにもう一枚城壁に守られており、特に厳重な警備が行われていた。


外周部の城壁内部は憲兵などの駐屯地となる区画で外敵からの侵入に目を見張っていた。

そして間にある区画が住居区画と商業区画である。


貿易都市として大きく発展してり、露店など店が立ち並び、肉の刺さった串が焼ける匂いや酒を待つ人、料理を注文する人の声が飛びかっていた。それこそ夕暮れ時、仕事終わりの人たちが行き交い賑ぎわう時間帯だ。


あちこちから肉の焼ける匂いがするため、ニールが腹を鳴らしている。


「なあ、飯にしないか?いい加減腹減ってきた」

ニール空腹に耐えかねているのかお腹を押さえて覇気のない顔をしている。


「そうぼやくな先に済ませんといかんことがある」


食事を済ませ、宿を取りたいところだが、火急の要件がある。

街に入る際問題になった自分とニールの服を用意しなくてはいけない。


変化したので成人した端正な顔立ちのブロンド美人に化けていたが、合う服などない。

唯一身に着けていた蝙蝠のような外套は魔道具で好きに形を変えられるので、コートのようにして着込んでいた。だがコートの下は何も着ていない。


痴女じゃなこれでは。


そしてニール。一応服は着てはいるが、今時貧民街の子供でも靴ぐらいは履いている。ほぼ半裸の野生の獣だった。

この二人が宿に泊めてもらえる確率は極めて低かった。


ここまで御覧いただきありがとうございます。

次回は買い物が中心の話になります。

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