3章 by撫子
紅葉が色づき、昔なら家の庭で焚き火とかして焼き芋作るのかなぁ...。なんて思うこの季節。私の居るクラスでは...。
「昨日能力を使っていなかった佳奈、羊、譜俐、尤俐の四人は今日この場で、能力を使ってもらうぞ。」
なんの前触れもなく、優君が四人に告げる。
「ああ、そういえば職員室に大量の授業で使うプリントを忘れてきてしまいましたね。」
「そういうことなら手伝うわよ?氷我兄ちゃん。」
「じゃあ俺も。」
「僕も。」
あ、あからさまに逃げようとしてる!
「あからさまに逃げようとするな!」
優君が怒ると皆
「えー?」
と反論。
「子供か!!」
と夏葵ちゃんと優君が同時にツッコむ。
「はぁ...。やりましょうか、氷我兄ちゃん。」
「そうですね。ですが、教室では少々危険だと思いますよ?」
羊さんの悪ーい笑顔に皆怖気づいたのか、グラウンドでやることに。
「能力『風神:死神の鎌』!」
「『水神:水波紋』!」
佳奈ちゃんの風と羊さんの水が激突して霧のように掻き消える。やっぱりこの二人、兄妹だからなのか能力の特徴が似てるなぁ。
「コイツらの能力桁違いすぎねぇか?」
尤俐君が半ば呆れた様な声で呟く。まあ私と夏葵ちゃんに初めて能力をまともに見せてくれた時にもそう思ったからね。
「私たちは見せたわよ。譜俐、尤俐、私たちは互いの能力を把握してるけど、二人の能力は把握してないから、教えてもらえるかしら?」
佳奈ちゃんの言葉に二人はキョトンとした顔をして、
「僕達は能力者じゃないですよ?」
「おれらは術使いであって能力者じゃねえしなぁ?」
「えっ!?」
と、譜俐君、尤俐君、美琴君、月君を除く皆が驚く。
「もし仮にそうだったとしたらどうして特別教室にいるんでしょうか?琴息はあなた方二人を『能力者である!』と断言していたのですが...?」
琴息さんは能力者かどうかを見抜く体質だって佳奈ちゃんから聞いてたから、なんとも思ってなかったけど、『体質』ってことは失敗もあるってことだよね?
「俺たちの術ってどうしても『ある道具』を使うことが多いからなー。能力って『そういう系』が多いんだろ?だったら勘違いされたんじゃねぇの?」
ん?術と道具?
「その『道具』とは『御札』とか言うやつか?」
赤城君が聞くと
「おっ」
「その通りですよ。」
能力と間違えられる様な術で、御札を使う術...?たしか佳奈ちゃんが前に言ってたような?
「それって確か...陰陽術、だっけ?」
私が呟くと二人は満足げな表情になった。
「正解です、撫子先輩!」
「よくわかったな。」
二人がそう言うと、羊さんが口を開いた。
「なるほど、陰陽術ですか。それならもしかしたら、ですね。明日、あなた方の術を見せてほしいので、札を持ってきていただけますか?」
あれ、なんか佳奈ちゃんがちょっと生き生きしてる...?
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「御札、持ってきました!」
「感謝しろよ!」
「こら尤俐、先輩や先生みたいな目上の人に対しての上から目線はダメ。」
そういって尤俐君の頭をペチッと叩く佳奈ちゃん。
「まあまあ。とにかくその陰陽術を使って見せてもらいましょうよ。」
と、美琴君が止めに入ってくれたおかげで少しだけ状況がマシになった、かも?
「ほらほら、早く見せてくれよ!」
月君はノリノリだなぁ。
「急かすなよ、月。」
あれ?月君と譜俐君でなんかコントみたいなものが始まった?
「もうっ!尤俐、始めるよ!」
「えー?」
「良いからやるよ!」
「はいはい」
「誰か実験台になってくれる人はいますか?」
ここで全員黙る。...これ、志願者出るの?
「なあ、『実験台』って何すればいいんだ?」
ちょっ、夏葵ちゃん!何言ってるの!?
「夏葵、あんた正気?また何か取り付いてるんじゃないでしょうね?」
佳奈ちゃんは相変わらずだなあ...。
「失礼だな、佳奈。」
夏葵ちゃんと佳奈ちゃんが口論を始めるけど、譜俐君が説明してくれる。」
「簡単です。この御札で実験台になってくれた人を拘束しますから、動かないでくれればいいです。」
再び皆沈黙。
「あっでも、すぐに外しますから、大丈夫ですよ。」
それ、どこが大丈夫なの?
「じゃあ俺がやるよ!」
月君、大丈夫かなあ?それに、さっき夏葵ちゃんが気にしてたのに『やる』って言わなかったのが気になるんだよね。
「さっきの威勢はどうしたの?」
「しょうがねえだろ、俺別に縛られるのが好きってわけじゃねえもん。」
「珍しく夏葵がまともね。」
「やかましい!」
あ、そうだったんだ。そして佳奈ちゃんは夏葵ちゃんをイジろうとしているという。
「とりあえず月はこの椅子に座ってね。」
「おう。」
月君が椅子に座ったのを確認すると、譜俐君は呪文を唱え始める。
「ノウマクサンマンダバザラダンセンダマカロシャダソワタヤウンタラタカンマン!札よ、月を拘束しろ!」
呪文を唱え終わると御札は譜俐君の指示通り、飛んでいって月君を椅子ごと拘束しにかかる。
「うおっ!」
まあ当然だけど、椅子ごともがく月君。でも動けば動くほど御札は月君を拘束する力を強めていく。
「解除!」
譜俐君がそう言うと御札は元に戻る。
「ふーっ。って『すぐに外します』って言ってただろ譜俐!」
安心したのか譜俐君に突っかかっていく月君。
「お前が『俺がやる』っつったんだろ...。」
呆れざまに呟く尤俐君。
「ねえ譜俐、その術、呪文を唱えずに発動させられるかしら?」
佳奈ちゃんの質問に、譜俐君は少し悩む素振りを見せたけど、
「やれるだけやってみましょうか。」
そう言った譜俐君は月君を再び椅子に座らせて
「札よ、月を拘束しろ!」
と言った。すると
「あっ!」
「げっ!」
美琴君と月君が同時に叫ぶ。そして再び椅子ごと月君を拘束する御札。
「ふうん...。」
「なるほど...。」
あれ?佳奈ちゃんと羊さんが何か思いついたみたい?
「もうそろそろ外してあげて。」
「はーい。」
佳奈ちゃんの指示で月君を開放する譜俐君。
「ひどい目にあった...。」
「だから自分で言い出したんだろうが...。」
どことなく安心したような月君に声をかける尤俐君。
「ちなみに尤俐さん、あなたもこの術を使えるんですか?」
「ん?ああ、使えるぞ。でもそれがどうし
「では尤俐さんも術を披露していただきましょう。ただし、呪文を唱えずに、ね。」
「まあ良いけどよ。」
そう言う羊さんにおとなしく従う尤俐君。また月君が実験台になるのかな?この様子じゃ無理そうなんだけど。
「お、俺はもう嫌だからな!絶対にやらない!」
「...ちぇっ。」
ちょっ、佳奈ちゃん、聞こえたからね?
「ところで、この...『御札』?は相手を拘束することしかできないのか?」
赤城君の疑問に尤俐君が答える。
「いや、火にくべたり、水に浮かべると溶けたり燃えたりしてその一瞬だけ、『予言』みたいなものが見えるんだ。」
「見えるって、映像がってことだよな。それ、怖くねえか?」
と夏葵ちゃんも参加して、
「ほら、早くしないと授業が始められないわよ。」
と佳奈ちゃんに怒られていた。
「授業がいつまでたっても始まらないのは困りますからね。私が『実験台』になりましょう。」
って羊さん。
「いいの?」
佳奈ちゃんもいつもはひどい扱いしてるけど、さすがに兄妹だもん。心配じゃないわけないよね。
「構いません。良い対処法を思いついたので。」
そう言って羊さんは椅子に座る。
「じゃあ遠慮なく。札よ、羊先生を拘束しろ!」」
さっきと同じように札は飛んでいって羊さんを拘束する。でもそれだけで羊さんは微動だにしない。そっか、無理やり動こうとしなければ御札もそれ以上拘束力を強めないんだ。
「解除!」
尤俐君がそう言うと御札はもとに戻る。
「想定よりも少し痛かったですね。」
嘘でしょ、結構平気そうなんだけど。
「氷我兄ちゃん、やっぱりこれって。」
「ああ、十中八九そうだろうな。」
羊さんと佳奈ちゃんは何か閃いたみたい。
「譜俐さんと尤俐さんはもしかしたら」
「能力者かもしれないわ。」
羊さんの言葉の続きをかっさらっていく佳奈ちゃん。...ん?
「え!?」
「は!?」
みんなできれいにハモる。どういうこと!?譜俐君と尤俐君が能力者?
「本来陰陽術っていうものは呪文を唱えて札を操る、なんてものじゃないわ。天候とかから気象予報をしたり、呪詛返しをしたり、っていう側面が強かったわ。まあ今は魑魅魍魎の類との戦いも多いみたいだから最近の陰陽師がどういうものかは知らないけど。」
「ほかにも他者を呪う、なんて仕事もあったようですね。」
へえ〜。って、なんで佳奈ちゃんと羊さんはそんなに陰陽術に詳しいの。
「すごいですね、よくそこまで知ってましたね!」
譜俐君がこの反応ってことはホントに詳しいんだ。
「あんたたち程詳しいわけじゃないもの。」
「まあそうりゃそうだろうよ。」
...?
「ねえ、結局譜俐君と尤俐君の能力ってどんなものなの?」
私の疑問に佳奈ちゃんは
「もし仮に今の陰陽師が札を操って仕事をしているのなら、術を発動させるために呪文が必須。でも二人は呪文なしで術を発動させたわ。つまり。」
ってことは、譜俐君たちは...。
「今術を発動させられたのは能力を持っていたから?」
私の発言に美琴君と月君が『心底驚いた』って顔をして
「嘘、譜俐たちまで能力者ってこと?」
「マジか...。さらに状況がややこしくなってきたぞ。」
そんな二人を横目に佳奈ちゃんは二人の能力についての推測を立てていく。
「たぶん二人の能力は『陰陽術を操る能力』じゃないかと思うのよ。そうじゃなきゃ、呪文なしで術を発動させた理由がわからないからね。」
「もし仮にそうだったとして、俺たちはまだ習得してない術もあるんだぞ。それも操れるってのかよ?」
と尤俐君が反論。うーんと、たぶんそれは...
「それは簡単よ。能力にも弱点はあるわ、だからあなたたちの能力は正確には『習得した陰陽術を操る能力』だと思うわ。」
そう言うと尤俐君は納得してくれたみたいだった。
あれ、なんでだか夏葵ちゃんが美琴君をみんなから引き離してる?
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「なあ美琴、お前特別教室に来る前は不登校だったか?」
「え?はい、確かにクラスメイトとは距離をとってました。まあ月は別ですけど。でもどうしてそんなこと分かったんですか?」
「あ、ああ。夢でちょっとな。」
「夢?」
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んーっと、何か話してるのはわかるんだけどなぁ。
「おーい夏葵、何話してんだ?俺も混ぜろー!」
「うおわっ!」
月君が夏葵ちゃんに飛びかかり、大乱闘に相成ったのでした☆