2章 by佳奈
「秋ねぇ...。」
そう感じるのはきっと通学路に生えている紅葉のせい。普段なら綺麗でいいな、とさえ感じるのに、今年は...。
「最悪だわ。」
理由なんてもちろん、
「ったく。氷我兄ちゃんったら、ホントに能力者育成のクラス作っちゃうんだから。しかも 山の上って、コントじゃないのよ?」
昨日、氷我兄ちゃんがこの私立燕坂学院の校長に異例の年齢で就任した。その直後、教師と保護者を説得して私と夏葵、撫 子、優、美琴、月、さらに赤城まで転入させて能力者のクラスを作ってしまった。
あ、あと誰か二人呼んでたわね。
名前を見た夏葵は
「あああああああ!?この二人!」
って叫んでたから、多分夏葵の知り合いなのね。で、今日も不機嫌に新クラスに登校している。
教室に入ると、
「お、来たな、佳奈。」
そう夏葵が言った。見ると、双子を除いてみんな揃っている。赤城は相変わらず静かね。
「佳奈ちゃんが一番遅いなんて、珍しいね。」
ああ、それなんだけど...
「家で氷我兄ちゃんをしばいてから来たから、仕方ないのよね。」
そう言うと皆が何とも言えない顔をした。どんな様子が察したのかも知れないわね。
ガラッ!
教室に入ってきたのは氷我兄ちゃん。何だ、かなり元気じゃないの。
実は先任の教師が居たんだけど、私が担任を氷我兄ちゃんに変えてもらった。先任の先生(一日だけだったけれど)は涙目だったけれど。交渉中に美琴は泣き出すし、撫子と月と美琴が『大変だった』って文句いってくるし、大変だったわ。
「氷我兄ちゃん、存外元気ねぇ。お仕置きが足りなかった?」
と笑顔で言うと氷我兄ちゃんは一気に青ざめて言う。
「いや、もう十分だ。と言うか佳奈、お前先任の教師を泣かせたそうだな。もう少し加減してくれないと教師達の信用を失うぞ。」
説教ね、しかもこの特別クラスを作った張本人が『信用が無くなるぞ』?
「あら、そうかしらねえ。ひょ・う・が・に・い・ちゃーん?」
そう笑顔で言って近づく。そして
「うぐっ!」
みぞおちに肘鉄を一発。当然ながら氷我兄ちゃんは気絶した。
皆を見るとやっぱり少し引いている。でも『少し』っていうのが救いだわ。
「おい、佳奈。」
夏葵が口を開く。
「羊を気絶させたから、授業できねえんじゃねえの?」
あ、そうね。ま、いっか。
「先輩、おはようございます。って、氷我先生どうしたんですか?」
あ、来たわね譜俐。
「おい譜俐、俺はコイツを信用する気は無えぞ。」
へえ、多少は見抜けるのかしら?
「おいアンタ、妖怪とか怪異の類は信じるか?」
!..................なるほどね、なんとなく察したわ。
「貴方達、『陰陽師』なのね?」
「「!!」」
双子の目に『警戒』と『敵意』の色が浮かぶ。やっぱりね。
「先に言っておくけど、私には妖の血が混ざってるわ。」
二人は懐から札を取り出す。
「でも、人は襲う気無いわ。..........だって興味無いもの。」
二人はまだ警戒を解かない。
「その警戒は正しいと思うわ。私は例外で、大抵の妖怪や怪異は人間と見れば襲う様な気性の荒い奴だから。それに、私は妖怪の血を引いてるけど、半分だけだしね。」
『は?』って感じの顔をする双子。私達のやり取りを見て吹き出す夏葵と月。
「譜俐、尤俐、大丈夫だ。佳奈はそんな奴じゃねえよ。」
月が私の肩に腕を乗せる。
「馴れ馴れしくしないで、これでも先輩なのよ。」
月の手を払いのける。
「月の言う通り、佳奈は無害だぜ。」
夏葵、『無害』って言った?こんな私が『無害』なわけないでしょ。
「おーお、怖い顔だな、佳奈。でも、怒ってても佳奈は気絶にとどめてる。佳奈は優しいと思うぞ。」
っ!.............................夏葵、こういう時にまっすぐさを出すのは反則よ。ひどい事を出来なくなるでしょ?
「これでも一応大量殺人を犯してるけどね。一度街ごと消し炭にしてるのを知ってるでしょ?そんな奴が優しいわけ無いわ。」
そっぽを向いたけど、後ろから殺気が無くなった。どうして?そう思って振り返ると
「そういうことですか。」
「なるほどな。月がここまで信用してて、そんな過去を持ってる上でその表現。信じても良いかもしれないな。」
ん?んん??
「ちょっと待って。何で過去の話を出した途端に信じたの?あの話をすれば普通は殺気なんかを出されるんだけど。」
譜俐は笑顔で言った。
「だって、佳奈先輩は過去大量殺人を犯してるんですよね?でもここに居て、しかも月や美琴が聞いてて何も言わないし、警戒もしてません。と言う事は、月も美琴も知ってて一緒に居る。」
「それに、お前言ったよな、『そんな奴が優しいわけ無い』って。ああいうセリフは犯した罪の罪悪感から出るものだ。もしも本当に危険な奴ならそんな事言わねえもん。だから信じてみてやるよ。」
……………...夏葵達と居ると、ホント、人から信じられて良いわね。
「そう、信じたいなら勝手にすれば良いんじゃない?私は期待に応えられるほど出来たものでは無いけれど。」
私はまた後ろを向く。今の表情を見られたくなかった。なんというか、恥ずかしかった。
「そういや、『羊』とか、『氷我兄ちゃん』とか言われてたあの担任の先生の本名はなんて言うんだ?」
ああ、そうね、まだ馴染んでないものね。
「氷我兄ちゃんの本名は『風切氷我』で、私は妹だから『氷我兄ちゃん』って呼んでるの。皆が『羊』って呼ぶのは、優の家で執事をしてた時に本名を隠してたらしくて、その頃についたあだ名なのよ。」
突然、背後で気配を感じた。
「どうぞ、お好きな方でお呼び下さい、譜俐さん、尤俐さん。」
氷我兄ちゃん、存外復活が早いわね。もう少し強めにした方が良かったみたい。
「早かったわね。もう少し眠っておく?」
真顔で聞くと、みんな顔面蒼白だ。
「やっぱコイツ危ねえわ。」
呟く尤俐に言う。
「うーん、でも気絶で留めるだけマシじゃない?」
みんな少し引いたみたいね。ま、別に良いけど。
「でも、やっぱりどうしてこんなにもたくさんの能力者が近くに集まってるんでしょうね?」
譜俐の一言で教室中の空気が重くなる。
「おい譜俐、その話は『ただの偶然』ってことでカタがついただろ?」
「ごめん、尤俐。やっぱり偶然なんかじゃ無い気がしてさ。」
譜俐と尤俐の会話を聞いて思い出す。そう
──────────────────きっかけは、当然昨日──────────────────
昨日の時点で担任を泣かせ、代わりに氷我兄ちゃんが来た当日。
「風切先生って呼ぶの違和感あるから、氷我兄ちゃんって呼んでも良い?」
私は無表情でそう告げていた。氷河兄ちゃんは少しビクッとしてたけど、
「構わないぞ。他の皆さんも呼びやすい呼称で呼んでくださって構いませんよ。」
そう笑顔で言った。不意に夏葵が隣に立って言う。
「それで?羊、ここに居る奴ら全員共通点があるだろ。俺たちをこの教室に集めた理由を教えてもらおうか。」
『え、夏葵?』そう思って夏葵を見るとものすごく怖い顔をしてた。
「おや。夏葵さんは怒っているようですが、どうかしましたか?」
げっ!氷河兄ちゃんってば、分かってて挑発するんだから。
「佳奈、ここに居るやつの共通点は何だと思う?」
ちょっと夏葵、私に振らないで!えーと確か、夏葵が言ってた夢にあの双子と同じ名前のヤツ居たから...
「ここに居る全員が、能力保持者、かしら。」
可能性が一番高いものを言ってみる。すると、
「え?美琴と月が能力者...?」
「まじかよ...。」
と譜俐、尤俐が言う。この雰囲気は『能力者は迷信』派じゃないみたいね。何か『それ』関連の知り合いでもいるのかしら?
「さあ皆さん、授業を始めますよ!先につかないと評価は下がっていきますよ?」
と、笑顔で言われ、みんな従うしかなかったわけだけど...。
──────────────────────────────────
ああ、そういえば昨日はゆっくり話す時間も無かったから、こんな風に交流する事も出来なかったわね。
「昨日は夏葵先輩がものすごく怒ってたからゆっくり話し合えなかったじゃないですか。だからきちんと考えませんか?」
譜俐がそう言いたくなる気持ちも分かる。だって、私達能力者は相当低い確率でしか生まれない。だから意図して集めたりしない限り、こんな人数集まらないはず。それなのに...。
私、夏葵、撫子、優、氷我兄ちゃん、美琴、月、赤城、譜俐、尤俐。
「ここには『偶然』10人の能力者が集まってる...?」
私がそう言うと
「佳奈『さん』、琴息も居るので11人ですよ。」
...なんか腹立つわね、その呼び方。
「改めて考えると凄いな。俺たち三人が集まってただけでも凄えと思ってたのに、今は11人になってる。」
夏葵が正論を言う。
「私がここに皆さんを集めたのは、能力を完全に扱えるようになってもらい、できる人はアビリティを使いこなせる様になってもらいます。」
私の方を見ながら言う。完全に嫌味ね。
「...私は多分使えないわよ。」
氷我兄ちゃんは私の方を意外そうに見ながら言う。
「何故だ?昔は使えてただろ?」
一瞬、燃えた家の残骸とお母さんの...。
「昔のアレは『暴走』とほぼ同じだったでしょ。」
アレは二度と発動させたくないわ。『極限開放』でも暴走していたのに、アビリティなんて使ったら理性が一生吹っ飛ぶ気がするわ。
「まあ、まずは能力を使いこなせる様になるのが先ですから。皆さん、順番に能力を使っていってください。」
「私から行くよ!」
そう言ったのは撫子。
「能力『鏡絵巻』!」
見慣れた巨大鏡が教室に現れる。
「じゃあ次は!」「俺たちの番だな!」
美琴と月ねえ、どう表現するのかしら?
「能力『猫目:闇の夜』!』」
月がそう言うと教室が暗闇へと変わる。
「えっ?」
と尤俐が言う。
「能力『Qestion』!」
教室が一気に明るくなり、皆が一瞬目を瞑る。目を開けるといつもの教室だった。
「凄いな!」
「ホントだね!」
譜俐と尤俐も驚いている。
「次は僕だな。『生命の環:リス』!」
優がそう言うと煙に優が隠れる。煙が消えた時、優は...。
「「わあっ、リスだ!!」」
そこまで驚くのね、双子。
「ちょっ!佳奈、羊、助けてくれ!!」
尤俐、譜俐にイジられ、私と氷我兄ちゃんに助けを求める優。自分でリスを選んだくせに。
「そろそろ元に戻らせてあげたら?」
そう撫子が言う。相変わらず優しいわね。
─────ボムッ─────
「優が戻ったトコで、赤城と俺の能力はどうやって見せるんだ?特に赤城の能力は難しいだろ?」
夏葵がちょっと困った顔で言った。
「ならば、夏葵さんが、譜俐さんか尤俐さんに使えば良いのではないのでしょうか?本人に体験させるのも良い経験ですよ。」
うわ、氷我兄ちゃんの顔悪巧みしてる顔だわ。
結果、夏葵が尤俐に『糸の海』の実験台になってもらって、尤俐はギャーギャー騒いでた。
「赤城の能力は『不死鳥』って言って、死にかけてても全快状態になって死んだ直後なら蘇生した上である程度まで回復させることが可能よ。」
そう説明すると顔を輝かせて赤城を見る譜俐と訝しげに見る尤俐。
「夏葵、アビリティを見せてあげたらどう?」
もちろん、夏葵が疲れるのもわかってたし、今日一日疲れたまま授業をうけさせるのはちょっとした意趣返しのつもりだった。
「...。」
あれ?なんだか夏葵のヤツ、凄く悶々としてるんだけど。
「...分かった。譜俐と尤俐は見てねえわけだしな。」
え、そんなにも決意に満ちた顔で言うこと?撫子や優も似たような表情をしてるし。
「赤城、ちょっとこっちに来てくれるか?」
何かを察した赤城は嫌な顔で夏葵の方に行く。
「おい夏葵、僕の嫌いなものを忘れた訳じゃないだろうに、これはなんの嫌がらせだ?」
と、ものすごく渋い顔で夏葵に食って掛かりそうな勢い。...これ、止めたほうが良いかしら?
「夏葵、その...やりすぎないようにしなさいよ?」
夏葵は珍しく悪い顔をして
「ああー大丈夫大丈夫。赤城は死なねえし。」
いや、私が心配してるのは赤城の精神面なんだけど...。
「僕の意思はガン無視か?珍しく性格が悪いな、夏葵。性格が悪いのは佳奈だけで十分だ。」
...ん?
「赤城ー?それは一体どういう意味かしら?」
赤城は一瞬『あっやべっ』って顔をしたけど
「...本当のことだろう。現に今も僕はお前に対して少しの後悔と莫大な恐怖を抱いている。」
ふーん、赤城でも後悔とかするのね。ま、後悔してくれてなきゃ今一緒にいないけどね。
「ほらほら赤城。そこに立っとけよ、下手に動くと変な場所が切れちまうぜ。」
なんか夏葵のヤツ取り憑かれてんじゃないかと思うほどに様子が変ね。
「譜俐。」
「うん、尤俐。」
双子が互いに頷き合って動いた。
「はぁ!?」
夏葵の様子がおかしかったのは本当に取り憑かれてたからなの?
「急急如律令呪符退魔!」
「ぐっ!?」
夏葵に当たった札が光を放ち、呻く夏葵から黒いモヤが出てくる。
「ひっ!」
と撫子が怯んでるけど、そんな暇はないわ。
「急急如律令呪符霧散!」
双子の札がモヤを霧散させる。
「うーん…俺、何してた?」
良かった、夏葵は正気に戻ったみたいね。
「悪気はもう憑いてないですから大丈夫ですよ。」
悪気…?ま、気にしないで進めましょうか。
「ほら夏葵、アビリティを見せないとでしょ。」
「あ、ああ。」
「ほら赤城も。覚悟くらい決めなさいね。」
「…………わかった。良いだろう。」
ったく、ここまで長かったわね。
「アビリティ『フレイズ・ヒストリア』!」
夏葵がネックレスにして持っている紫の炎のクリスタルが輝き、紫の炎の刀が現れる。
これがアビリティですよ、譜俐さん、尤俐さん。
「これが…。」
そう譜俐が呟くのを聞いてから夏葵は赤城に刀を振り下ろす。
「なっ!これ確実に死ぬだろ‼︎」
そう尤俐が叫ぶけど、私たちはお構いなし。赤城の死体(仮)が炎に包まれる。そして炎が消えた場所に赤城が復活して……………いなかった。
「え?」
撫子が呟く。全員が思った、これはまずい状況なんじゃないのかな?と。
「全く、君たちは気配の察知もままならないのかな。」
急に背後から声が飛んできてビックリ。
全員が背後の人物と距離を取って正体を確認すると、
「……赤城⁉︎いつからそこに?」
氷我兄ちゃんがそう言うと赤城はしれっと
「僕の能力とアビリティを併用したまでだ。」
と爆弾発言をかましてきた。
「は⁉︎」
と全員が同じ反応を返す。まあ当然よね。
「僕のアビリティ使用時の『色』は何色だ?」
赤城の問いかけに撫子が
「黒っぽさが増してるかも……しれない。」
と答える。
「やはりそうか。」
赤城はそう言って制服の胸ポケットから、黒い時計の形のクリスタルを取り出した。
「これが赤城のクリスタルってわけか。」
夏葵が呟く。
「一昨日枕元に現れたんだ。夏葵と僕のアビリティクリスタルの共通点は何なのかを考えればみんなの力になれるかもしれないからな。」
そういう赤城に従い、皆で考え始める。
「夏葵ちゃんのクリスタルは紫の炎で、赤城君のは黒い時計...?」
まるで謎掛けね。
「アビリティの中身に応じてクリスタルの形が決まってそうだけど...。」
「色がわかんねえな。」
と譜俐と尤俐が考え込む。まあそうなのよね、二人にはわかりそうにないわね。
「これは私の推測でしかないから参考程度に聞いてほしいのだけれど。おそらく、このクリスタルの色は『真実の部屋』のクリスタルの色と同じだと思うわ。」
私の言葉に譜俐、尤俐以外の皆が青ざめる。きっとあの悪夢を思い出したくないのね。
「佳奈、分かった。とりあえず二度とそのことは口にしないでくれ...。」
赤城はやっぱり悪夢として捉えてるのね。
「ま、佳奈ちゃんの言ってることは念のために仮説として頭の中に留めておいて、羊さん、アビリティを習得できるように特訓をするんですよね?」
「え?は、はい。そうですが。」
「だったらこんな空気にしてる場合じゃないでしょう。早速特訓を始めましょう!」
撫子の言葉に皆笑顔で頷いた。