1章 by夏葵
今回は序章はなしの方向です。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
母さんが遠くで叫んでいる。
「夏葵!早く起きなさい、遅刻するわよ!?」
「.........もう少しだけ寝かせてくれよ......今何時?」
「七時四十五分よ!」
「......げぇぇぇっっ!」
俺は焦って飛び起きる。
「うわっ!」
よく見ると俺は机に突っ伏して寝ていたようだ。
「こんな時間にどうしたのよ突然。珍しいわね、夏葵が6時に起きるなんて。」
佳奈が何故かいる。何故か。
「っ!佳奈、何でこんな所に......!」
だってここは俺の部屋のはずで...佳奈がいるはずない。けどいる。
「何。夏葵、熱でもあるの?」
と言いながら佳奈が自分と俺の額に手を当てる。
「熱なんかねえよ!ていうかここは何処なんだよ!?」
「ここは氷我兄ちゃんがが学院長の中高一貫校、夜鷹学園。一般人と能力者でクラスが別れてるの。」
佳奈は『何言ってるの?』って顔しながらも説明してくれた。
「枠デカくねえ!?でもってこの部屋は何処!?」
「ここはその寮。」
俺、こんなトコにいたっけ?
そんな思いが頭の中でずっと回っている。
「ん?夏葵、あんた今『俺こんなトコにいたっけ?』って思ったでしょ。」
見事に俺の気持ちを当てる佳奈。
「何で分かったんだよ?」
「そりゃあ、目を見れば分かるわよ。親友だもん。」
「佳奈お前すげえな。」
そんなくだらない話をしていると、
「.........ん?おはよう、二人共。珍しいね、夏葵ちゃんがこんな早い時間に起きてるなんて。」
…...ん?何か悪口言われてる気がするんだけど。
「普段なら何時に起きるんだ?」
「七時十分位かな。」
そんなに遅いのかよ。
「なんかヤバそうだな、色々と。」
ため息混じり、といった感じで言った。
「自分で呆れてどうするの?」
佳奈も呆れている。
「おーい、起きてるかー。」
月が部屋に乱入してくる。
「月、何で中学生のアンタが高校の、しかも女子の寮に毎度毎度入ってくるのかしら?」
佳奈が声のトーンを少し下げて言う。怖ぇ。っていうか『毎度』!?
「い、いや、その...。」
月がたじろぐ。
「美琴がまた...。」
どうやら美琴に何かあったらしい。
「とりあえず行ってみないか?」
俺は何とかこのとんでもない空気をどうにかしようと思ったんだが...。
「夏葵は矢っ張りお人好しね。」
と、佳奈に信頼と呆れが混ざった顔で言われた。撫子も
「うん、毎日なのに良く飽きないね、夏葵ちゃん。」
『毎日』?どういう事だ?
「仕方ないわね、夏葵がそう言うなら、行くわよ。」
佳奈はため息を付きながら月についていく。撫子は黙ってたけど。
──────────美琴と月の部屋──────────
部屋に入ると美琴が苦しそうにしていた。.....え?
「ちょっ、美琴、大丈夫か!?」
三人は...。
「...。」
と、黙っている。
「......おい、何で黙ってるんだよ。」
佳奈がケロッとした感じで言う。
「だってこれ、いつものことでしょ。」
……
「...は?」
撫子が説明してくれる。
「美琴君は学校に行く時間になると軽く吐血しちゃうの。」
そうだっけ?美琴ってそんなにメンタル弱いんだっけ?
俺の頭の中で疑問符が回りに回っている。
「それでもいつも説得に『失敗』しちゃうから皆諦めてるんだけどね。」
佳奈はどこか冷たい。
「まあ俺は諦めてないよ。コイツは良いやつだからな。」
月はかなり優しいからな。
「おーい、皆〜、一体何処にいるんだー?」
小さい声が聞こえる。この声は...。
「優が何で私達を探してんの?この時期だとまさか...。」
佳奈?
ドタドタドタドタドタッ!
「...おい、探したんだぞ!?」
優がピリピリしている。何で?
「どーせ、氷我兄ちゃんが呼んでるんでしょ?この時期だったら、『文化祭のスローガンを考えておいてくれ』とでも言われたのかしら?」
優は『判ってたのか』と言う顔をして、
「判ってたなら考えて置いたんだろうな!僕は他にも仕事があるから失礼する!」
そう言って部屋を出ていった。
「...あいつ、まさかこの広い校舎と寮を探してたのか?」
さぞかし大変だっただろうな、と言わんばかりの顔で月が言う。
「矢っ張り誰かさんで遊ぶのは楽しいわね。」
あ、佳奈今何か変な事考えたな、アホ毛の動きがそう言っている。
─────────────────────────────────────
「あ」
ん?佳奈、どうした?
「あと15分で授業始まる。」
は!?
「やばいじゃん!」
「急いで行くぞ!!」
俺と撫子が慌てて部屋に戻る。その背中を見て、口角を少し上げながら佳奈がポツリと言った。
「嘘だったのに。」
部屋に戻って時計を見て時間を確認すると、
「なんだ、まだ7:20だよ。」
撫子、俺はただ呆然とする。その時
「プッ ククク...。」
「...ん?」
声がした方を見ると、佳奈が必死に笑いを堪えていた。
「あっ、佳奈お前、騙しやがったな!?」
俺は佳奈に飛びかかる。
「え?冗談を本気にしたの夏葵と撫子よ?あの場で時計を見れば冗談だって分かるんだしね。」
こいつ...
「まあまあ二人共、今日は早く準備して早めに学校行こうよ。今日考えるんでしょ?文化祭のスローガン。」
撫子が仲裁に入る。そういえば、何で俺達で考えるんだ?まさかそういう委員会みたいなものがあるのか?
「まあそうね。でも、いくら私達が生徒会役員だからって、私達だけに押し付ける?そもそも強制的に生徒会役員にさせられたのよ、ずっと従うと思わないで欲しいわね。」
あ、この話の流れ的には俺も役員だな。って言うか、強制的にって...。羊も良く佳奈を納得させたなぁ。でもって佳奈、俺の思考を読むな。
「氷我兄ちゃんへの嫌がらせも公の場でできるから良いと思ったけど...。」
あ、絶対に羊がストレスで胃に穴開いてるパターンのやつだ。
「そうね...今回の嫌がらせはスローガンを逆手に取ってやるわよ。」
は?
「具体的にはどうするの、佳奈ちゃん?」
「そうね、今年の文化祭のスローガンを『学院長の嫌がる事をしよう』にするの。皆氷我兄ちゃんになにがしかの恨みを持ってるっぽいし。特に私達のいる特別クラスは。」
そうなんだ...。って言うか、特別クラス?
「佳奈、特別クラスって何だ?」
そう聞くと佳奈と撫子は驚いた顔をした。
「夏葵ちゃん、大丈夫?今日一日保健室で休む?」
と撫子に聞かれてしまう。
「はぁ、しょうがないわね。特別クラスっていうのは、琴息副学長が見定めた能力者だけで構成されるクラスの事よ。琴息は何故か能力者を見極めてきて、クラスに編入させてくるのよ。」
琴息そんな事してんのかよ。
「で、特別クラスでは、能力の訓練も授業として入ってくるから、普通クラスの人達と比べて授業数が増えちゃうから、どうしても普通クラスの人よりも寮に帰る時間が遅くなっちゃうのね。しかも、その制度を作ったのは氷我兄ちゃんだから、特別クラスの人は大抵、氷我兄ちゃんに恨みに似た感情を持ってるって訳。」
羊も苦労してんだな...。
「ここで話してても埒が明かないから、クラスに行こう?皆とも話さないといけないでしょ?」
撫子の提案でクラスに行った。授業も受けたけど、とんでもなくスピードが早かった。佳奈いわく、『これくらいやれないとテストがヤバくなる』らしい。
『能力の訓練』もやった。この授業は体育と違って男女合同らしい。赤城も一緒だった。
...ただ、赤城が能力を使うたびに俺、佳奈、撫子以外の女子がキャーキャー騒ぐのが気になった。
「お前らは赤城センパイに動じないんだな。」
「ちょっと、尤俐!すみません、先輩方!」
ん?誰、こいつら。
「二人は誰なの?」
撫子、こういう時にばっかり積極的なんだよなぁ...。
「俺は尤俐。」
「僕は譜俐です。」
「...あんたら、一卵性双生児?」
佳奈、もっと分かりやすく『双子』って言えねえのか?
「こらー!何やってんだよ!」
ら、月まで高等部に来てやがる...。もうツッコまねえぞ、俺は。
「悪いな、こいつらが迷惑かけちまって。ほら、さっさと行くぞ!」
「「えーやだー。」」
「ガキか!」
なんだか知らねえけどコント始まった...?
月が双子...譜俐と尤俐を連れて行った。
「次、風切佳奈!能力を使用し、あの標的を破壊しろ!」
お、次は佳奈の番か。
「はーい。『風神:死神の鎌』!」
事前に置かれていた標的が一瞬で粉々になる。
「相変わらずすごいね、佳奈ちゃん。」
いつの間にかテスト(だと思う)を終わらせたらしい撫子が隣に来て言う。確かにあれはすげえ...。
「次、桃月夏葵!能力を使用し、あの標的を破壊しろ!」
おわっ!俺の番か!
「は、はいっ!」
標的の前に立つ。さて、どうやって壊そうか...。
「能力『糸の海』!」
糸は的確に標的を捉え、宙に持ち上げる。そして標的はかんたんなダンスをして落下し、壊れる。
「すごいわね、あんな発想ができるなんて。」
「標的を一回踊らせたのは面白かったよ。」
佳奈、撫子が俺に声をかける。
「...。」
不安になってきた。いくら能力者でも、あんなにふざけて大丈夫だったのか?
二人に聞くと『全然大丈夫』らしい。なんでも、能力は個人差があって、その差のためにあの程度は全然平気なんだそうだ。
まあ、こんな事をしながら一日は過ぎた。
部屋に戻ると、どっと疲れが出てベッドに半ば倒れ込む形で寝る。その直後、部屋に入ってきた美琴が気絶して大騒ぎになった。佳奈曰く、『部屋に入ってすぐに死体を見たら誰だって気絶するわよ』って言われた。まあ俺も同じ状況なら気絶しててもおかしくはないと思うけどさ。あーあ、疲れた...。なんだろう、意識が.................。
────────────────────────────────────────────────
「こらー!夏葵!佳奈ちゃんが呼びに来てるわよ!撫子はもうとっくに起きてるのよ!」
母さん...?
「...うわっ!」
目を覚ますと俺の部屋。時計を見ると...。
「うっわぁ!?七時四十五分!遅刻する!!」
さっさと準備を終わらせて家を出る。
「遅いわよ!」
うわ、佳奈少し怒ってんな...。アホ毛も妙に立ってるから、確信だな。
「十五分以上待っててくれたみたいだよ、佳奈ちゃん。」
マジか...。
「ゴメンな、佳奈。撫子も、悪かったな。」
二人は笑って
「ま、たまには寝坊もするでしょ。いいわよ、別に。」
「夏葵ちゃんはおっちょこちょいな所があるからね。」
そう言って許してくれた。
────────────────────────────────────────────────
学校へのいつもの通学路。俺の見た夢の話をした。その途中で優も合流した。最近は優も一緒に登校してるんだ。最近は優も坂を登る様になった。優は、
「体力付けのためだ。」
とか言ってたっけか。
教室に着く頃に夢の話は終わり、四人でその夢の話題で持ち切りだ。思いっきり盛り上がっていた。
「でも何でそんな夢を見たんだろうね?」
やっぱ撫子も気になるか。
「ただの夢では無いかも知れないな。」
「そーかもね。」
佳奈、優が急に切り出した。どういう事だ?
「おい佳奈、優、どういう事だ?」
優は言った。
「実は羊が学校を開いてみたいと言っていてな。」
…………………...は?
佳奈も
「私も氷我兄ちゃんからのメールで知ったわよ。まさか、あの氷我兄ちゃんが『能力者育成のための学校』を作ろうとしてるだなんて。」
は?それ、俺の夢に出てきた学校にドンピシャじゃねえか!
「ま、仕方ないわよね。私も夏葵が見た夢の話を聞くまではジョークだと思ってたもの。」
と、呆れ顔で言った。
俺......今、顔は笑ってるよな?
「大丈夫、夏葵ちゃん?笑顔のまま固まってるよ?」
大丈夫では...無いかも。
「..............まさか!」
俺はやっとの事で声を出す。と、佳奈はニヤッと笑って言った。
「夏葵が夢で見た学校ができるかも知れないわね。」
う、嘘だろ?
「おい、佳奈。中学の時に説明したよな、『能力者は表舞台では活動できない』って!だから『能力者育成のための学校』なんて表向きに作れる訳無いんだよ!」
佳奈はふんわり笑って、
「実は琴息が変わった体質みたいでね、私達は強い力を持った能力者なら判別できるでしょ?でも琴息には、弱い力の能力者でも見分けられるみたいなの。だから『琴息に学校に務めてもらって、特殊教室を作れば良い』って。」
まじかよ...
「ウソだろぉぉぉぉぉっ!」