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9.親戚ができました

『数日前の狩りの途中で、休憩をとろうとしていた時だった。スィムとリグルがやって来て――それ自体は珍しいことではないが、あれらが〈声を合わせて〉告げて来た。――最も日が短い日、最も夜の深い夜、深き森の最も深きより、変化の兆しが訪れる――と』

 あの鳥とオオカミがそんなことを……なんだかナゾナゾみたいな言葉だけど――

『順当に考えれば冬至の日の深夜、北の森だろうと検討がついたから、昨日は夜に備えて待機していた。スィムとリグルは日没後にも現れて、頼みもしないのに気配がどうのと言い出して俺を森の奥に連れて行った。俺もあの広い森で無駄に動きたくはなかったから、彼らの誘導に任せたわけだが。それで出会ったのがマイヤで――最奥というほど奥ではなかったな、マイヤが自分で歩いてきたようだったから』

 エーディクさんはわたしのほうを見やり、その後をわたしが話すように促した。


 エーディクさんがわたしにまだ話していなかったことを皆に伝えたように、わたしも、エーディクさんに言っていなかったことを含めて、その場にいる3人に伝えた。具体的には一番最初に見かけた、何人かの人影――その後に現れた白い髪の女の子に気をとられすぎて、なんとなく話しそびれていたんだけど。いま改めて思い直すと大事そうなことに思えたので言うことにした。あの鳥やオオカミみたいに、よくわからない生き物だけれども、この里の人達にとってはよく知られているのかもしれないから。

『――すると、森の奥の〈連中〉は、おおむねあんたの存在に気がついているということだね。その中で、明確にあんたに加護を与えたのは〈白い娘〉だった――と』

『寒さ避けの加護、か。十中八、九寒気を司るものに属しているだろうな。残りの一、ニの可能性もあるかもしれんが――これを見る限りでは』

 ローシャさんが、わたしが膝にまとめた白い毛皮を指差してさらに言葉を続ける。

『どう見ても暖気や火の加護には思えん』

 ローシャさんが言いたいことは何となくわかる。あの女の子がそういう雰囲気に思えなかったし、この毛皮だって暖かい、というよりは冷たくない、を維持してるような感じなんだよねー……

『ふむ。心当たりはいくつかあるが、確証がないうちは名を口に出すのは避けるべきだね。いくらか古い文書をあたってはみるが、それ以上にこのお嬢さんの今後を見守ることが大事だろうて――〈彼ら〉の思惑が、何処にあるのかがわからんのであれば』

『俺にも、調べさせてほしい。時々こちらに伺ってもいいだろうか』

『構わんよ、そろそろあんたら若いのに譲ってやらにゃならんものになってきたからね』

『俺も手伝う。この辺のは俺もある程度読み込んでるしな』

 え、やっぱりローシャさんも手伝ってくれるんだ。有難いけど、なんだかエーディクさんに張り合ってるような気がするの、気のせいかな……

『では、この件は今後も世話になると思う。手間をかけるが宜しく頼む――それで実は、もうひとつ頼みたいことがあって』


『……エーディクが親戚から預かった娘らしくてな、着るものが合えば貸してやりたいんだが』

『そうね、私より小さくていいんなら、袖や裾を詰めるだけでもいけるんじゃないかしら?』

 成り行きでお昼ご飯までいただいてしまった後、最初に入口で出迎えてくれた女性――スヴェータさんと仰るんだそうな、ローシャさんのお義姉さんらしい――に頼んで、女物の服を見繕ってもらうことになった。ちなみに親戚、と称して暗に妖精を意味することがあるらしく『親戚から預かった』という表現はギリギリ嘘ではない……とのこと。それで本当にスヴェータさんが納得してるかどうかはわかりませんが。現にほら、

『とりあえず脱いでみて……え、それが下着になるわけ??』

 あ、あう、そこに突っ込まれると辛いんですけど! パジャマ脱いだら下しか穿いてないですしね! こちらでは一番下が亜麻のシャツとズボンだそうですが、それはそれで暖かいんだか心もとないんだか……とりあえず下着の上からシャツとズボンを身につけさせてもらいました。

 それから〈ルバーハ〉というブラウスを着て、さらに〈サラファン〉というジャンパースカートを重ねる。この構造だと確かにサイズは融通が利きそうですね。

『下着は服屋でもう何組かそろえたほうがいいわね、ルバーハとサラファンはもう一組用意できそうかな』

 着せてもらった組み合わせは、白地に赤糸の刺繍の入ったルバーハに、暗い赤い色をしたサラファン。もう一組はクリーム色のルバーハと、苔緑色のサラファンを選んでもらった。これらは確かにそう頻繁に洗うもんじゃないと思うから、やっぱり下着っていうか肌着のストックはもうちょい多めに欲しい気がしますね……


『靴は詰め物とか分厚い靴下でなんとかなるもんだけど、どうしても合わないと思ったら、無理せず靴屋で買ったほうがいいかもね……』

 分厚いフェルト地の長靴を穿かせてもらう。確かにすこし大きかったので、中に布をつめてもらった。あと帽子とか手袋とかも……う、なんとなく居たたまれない。最初疑問符だらけだったスヴェータさんも感覚が麻痺してきたんだろうか、必要なもの一式を揃えることだけに集中している様子。オリガさんも孫の相手をしながら、そういえばあれがあったなどと、エプロンやら小物袋やらと、いろいろ引っ張り出してきてくれた。

 ……いやしかし、借りるとしても金銭に換算すると結構な額になるよね、これは。相場とかお礼とか、後でエーディクさんに相談しないと。

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