80.明かされる、衝撃(?)の真実
蒼い瞳の獣は、人がするように首を横に振った。その仕草だけが、エーディクさんを思わせる。
『危険のないうちに、帰るといい』
ほんとうに哀しそうな瞳で、そう言う……
『あのさ、俺ら今までそうやって日和ってたわけよ。でも、どうにもならんから、会いに来たわけでさ』
ローシャさんの言葉に、彼はさらに瞳を翳らせながら頷く。
『里の被害は大きいのか』
「今のところは、そこまででもありません……でも、エーディクさんをそのままにしてはおけませんから。どうしているか、とても気になって」
『見ての通りだ。時々、どうしようもなく気分が荒れる。このままずっと独りで、〈力〉を使い果たし尽きるまでは動いてはならない……と思うものの、それだけで終わる気もしない。もしお前達の〈力〉が途切れて、様々な地を飛びまわれるようになってしまったら、その時こそ抑えが効かないだろう』
あ、よく考えてなかったけどそういうことになるんだ! 例えばだけどわたしが死んだりしたら空間が解放されてしまうかもしれないよね。なんとなくだけれどわたしがお婆ちゃんになるまで頑張って生きても、それよりずっと寿命の長い可能性もあるものね、この状態のままだと。やっぱり根本的な解決を考えなきゃ……
『――そうですか、それはいいことを聞きました』
突然割って入ってきた言葉に、わたしとローシャさんは反射的に振り向いた。予想に違わず黒革の仮面の人影が、そこに佇んでいた。
『やはり貴女は用済みということですね。我々の邪魔ばかりする』
「勝手なことばっかり言ってんじゃねぇよ」
ローシャさんが少しわたしの前に出た。獣の姿のままのエーディクさんも、そちらに身構えて低い唸り声をあげる。
『いやはや、翁らの見込み違いも甚だしいですね。もっと絶望と破壊を駆り立てる存在を呼び寄せればよかったものを』
何それー。本当になんでわたしになったんだろうと思ってみれば、視界の端に白い影がふわっと現れて、雪娘がわたしの傍に降り立った。
『マイヤさん、今となってはお気になさらなくてよろしい話ですが……召喚の時は、貴女は確かに強い絶望と虚無に囚われていたのです。ですが、里での生活をおくるにつれ、それがほとんど形をなさなくなっていまして』
「……召喚の……時?」
え、何かあったっけ? 考えるよりも前に雪娘が話を続ける。
『私やゾーリャ達、中立よりの立場からすれば、今のマイヤさんの状態のほうが好ましいと思えるのですが。苛烈な力を行使するための〈器〉を望んでいた彼らからすれば、より衝動の赴くままに動く存在のほうが望ましかったのではないかと』
途中から雪娘の言う内容が頭に入って来ず、別のことを考えてしまっていた……絶望と、虚無。召喚の直前。それってもしかして。
「あぁあああああー!!」
思い当って思わず大きな声で叫んでしまった。顔に血が上ってくるのが嫌でもわかる、きっと他の人達から見たら真っ赤だ。
「なんだってそんなのを条件にするんですかぁあああー!!」
羞恥のあまり、顔を両手で覆ってその場にしゃがみ込んでしまった。てか、そんなに人の内面に入り込まないでくださいよ!! 彼氏に振られた直後の状態だったわたしに一体何を求めてたんですかー!!
『え、何? どういうこと?』
『マイヤ……?」
ローシャさんと獣の姿のエーディクさんがわたしのほうを見て戸惑っているけれど、そっちを気にする余裕が全然ないです。あ、でも、エーディクさんの耳や尻尾が時々不規則に動くのは目に入る。え、もしかして、エーディクさんも動揺してる……?
『思っていたより心が揺れましたね。もう少々、つついてみると面白いことになるでしょうか』
相変わらずマイペースの仮面の男の言葉に腹が立つ。この人ほんとにやだもう。
『マイヤさんの心の傷を抉り出そうとしています。気をつけて。そしてどうか、暗い感情に流されないで……そうなってしまったら彼らの思う壺です』
雪娘がフォローを入れてくれはするんだけど、ちょっといいかな。綺麗さっぱり忘れていた傷を見事に抉り出してくれたのは、貴女だと思うんだけど……やっぱり彼女も〈黒〉よりの部分が少しあるのか、迂闊な発言てのがあるみたいだ。心根は優しいんだけどね……
『えーとさ、もしよければ、そこんとこ少し詳しく話してみてくれないかな? あ、いや何ていうか、俺が聞きたいとかじゃなく。エーディクの奴が持ち直すきっかけになるかもしれないから』
「そ……そんな大したことじゃ、ありません、よ」
『ローシャ、無理を言うな。人には話したくないことがあるものだ……』
とか仰いますけど。エーディクさん、続けて言うには
『だが、その、できれば話してほしい、という気持ちが強くなっているんだが。マイヤにとっては辛いだろうか』
なんかさっきより耳と尻尾の動きがせわしなくなってません?! さらにしゅんとうなだれたような様子になって。何その捨てられた仔犬みたいな仕草―! 放っておけないじゃないですかー?!




