表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/83

78.解説と対策会議

『いま少し、離れられたほうがよろしいかと』

 遅れて現れた雪娘ことスネグーラチカの言葉を受け、わたしはエーディクさんからもう数歩距離をとり、ローシャさんデニスさんのほうに近づくかたちになった。

『あの仮面の奴さんが、元凶なのか……?』

『そうとも言えますし、半分は彼自身の問題とも言えます』

 ローシャさんの問いかけに応えたのはスネグーラチカだった。彼女は〈スィム〉と〈リグル〉に取り巻かれたエーディクさんに目を向けたまま、こう続ける。

『元来彼はヴェドゥーンのうちでも、最も〈太古の力〉に近しい力を持って生まれました。それは人々に〈マーチ・スィラ・ゼムリャー〉――母なる湿潤な大地、と呼ばれる存在であって、〈スィム〉と〈リグル〉はその眷属とされています。そして、その力自身は〈白〉や〈黒〉と呼ばれる、善悪を象徴する呼称とは直接関係ありません』

 う、ちょっと難しいお話になりました……? 以前デニスさんに教えてもらった〈白の神〉〈黒の神〉とエーディクさんの持つ力は違う、ということなんでしょうか。

『ですが、強大な〈太古の力〉が〈黒〉の陣営に囚われてしまっては大変なことになります。それで、〈白〉に近い〈太陽〉〈炎〉が彼を守るために、今まで力を貸していました』

 なんてこと……今まで〈炎〉〈光〉がエーディクさんの持つ〈力〉だと思っていたのだけれど、それらは借り物に過ぎない、ということになるんでしょうか……?

『ですから、〈黒〉よりの存在である〈翁〉らが異界の娘を召喚した際に、〈白〉側が警戒したことは想像に難くありません。なので、彼女の傍に近づくことには十分に慎重であったはずです』

 ちょっと何ですかそれぇええ……わたしがエーディクさんの傍にいるの、めっちゃ迷惑だったってことですか? 聞いてて何だか哀しくなってきました……

『幸い、マイヤさんは粗暴な性質ではなく、〈黒〉への対応にもとても慎重で、そう安易に同調はしていませんでした。ですが、それがかえって裏目に出たとも言えます』

「裏目に、ですか?」

『貴女に流れ込むはずだった〈黒〉の力が反れて、やや防御が不安定で〈力〉の器の大きい彼に流れ込んでしまった、ということなんです……』

 や、やっぱりわたしの所為、てことになるんですか、それ……?

『んなわけないって。だから奴自身の問題だって言ってんだろ』

『俗にいう〈修行が足りない〉というやつですかね』

 露骨に落ち込んでしまったわたしに二人がフォローしてくれたのだけれども。で、さて、現状をどうしましょう。

『ともあれ、〈力〉の溜め込み場としての彼は非常に危険、と言わざるを得ません。暴走した力の放出が天変地異として起こりうるわけですが、その被害がこの里だけで済めば、まだいいほうで……』

「この国全土、とかいく可能性もあります?」

『はい』

『周囲への被害を押さえることと、彼自身を苦しみから救うこと――これが、我々のやるべきことという心づもりでよろしいでしょうか』

 デニスさんの提案に、雪娘も頷く。

『そう考えていただければ、有り難いです』

「――あ、被害をおさえるのは〈空間〉司る力でなんとかなりますかね。それならわたしが」

『あまり狭すぎても収まりきらないでしょうから、〈北の森〉の半分ほどの広さで考えましょうか。我々が存在できる程度の空間を残していただく、という意味で半分ですが』

「フォークスに近い南半分でどうでしょう? そうすれば、わたし達が様子を見守りながら対応できる」

 よし、隔離する区域をうまくイメージできそうな気がする! あと他に、やらなきゃいけないことは何だろう?

『じゃあ、俺はそこまで奴を誘導する。〈風〉の流れで道を示せばいけるだろ』

『彼の内面に対応する件は、その後でよろしいですかね。――そこの仮面の御仁が、これで納得してくだされば、の話ですが』

 デニスさんの振りで全員、黒革の仮面の人物に視線が集中した。

『いやはや――面白い見物になってきた、という気がしておりますよ。ですから、ここは一旦、退場させていただきます。そちらの舞台が整うのを、楽しみに待たせていただきますよ』

 もったいぶった礼の形をとって、そして彼は、黒い霧と化して消えた……

 けれど、わたし達にはそれに気をとられている余裕はなかった。エーディクさんの周囲から感じる〈力〉の揺らぎが、大きくなっていった。その揺らぎに〈スィム〉と〈リグル〉も巻き込まれたかと思うと、その薄茶色の姿がエーディクさんに引き寄せられるようにして、一人と一羽と一匹が歪んだ光景のまま、ひとつにまとまった。


 揺らぎがおさまると、そこに存在していたのは、光り輝く薄茶色の大きな獣だった。四足獣なのに、背から翼が生えている。〈スィム〉と〈リグル〉を混ぜ合わせて大きくしたような、そして〈力〉の持つ雰囲気はエーディクさんの、不思議な生き物。

『霊獣、〈セマルグル〉……です……あれが、彼らの本来の姿です』

 雪娘の言葉が全然頭に入ってこなかった。その神秘的な輝きを放つ獣は、どこか哀しげな蒼い瞳でこちらをしばらく見つめたかと思うと、すっと鼻先を北の森のほうへ向け、翼をはためかせながら真昼の中空を駆けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ