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70.冬ごもり

 フォークスの冬は長い。冬至までもだけど、その後も。

 モルジや都の動向に関しては、風の便りで聞いたところ――ローシャさんのしたことなので、本当に比喩抜きで〈風〉に運ばせたらしい――晩秋の小競り合いの後はお互い沈黙を保っている、という話だった。冬に戦をすること自体が自殺行為なので、この国では常に戦の規模が大きくならない反面、往々にして長引くという厄介な特徴を持ち合わせている。

『人間の力じゃ、どうあっても〈冬将軍〉には叶わないんだよな。その事実にちゃんと気づいてる奴が、どこまでいるんだろうなー……』

 狩場で飛び交う何羽かの鳥(最初何らかの精霊かと思っていたのだけれど、どうやら話している相手はモルジのアリョーシャさんらしい。〈力〉の傾向がややローシャさんに似ているんだそうな)のさえずりに耳を傾けた後に、ローシャさんが溜息をついた。

『気づいていようがいまいが、上の連中の考えることはたいして変わらない――こんな僻地の末端に暮らす人々のことまでは、考えが及ばないだろうということだがな。だから、自分の身は自分で守らないと。マイヤだって、それ以上のことを考える必要はないんだ――本来ならな』

 この間、弱音を吐いたところを見せてしまったせいか、二人ともわたしを気遣う物言いが増えた気がする。特にエーディクさんは言うことに遠慮がない。誰に聞かれていようがお構いなし、と言わんばかりの苛立ちを見せることもある。

「冬は、あと100日以上も続くんですよね――こう言うとやっぱり、長く感じますね。戦も畑仕事もない今、いろいろな備えをするべきですよね」

 徴収の対策として、食糧は余裕をみておきたいし。わたしの場合は他にやろうと思っていることがあって、いまオリガさん達に相談している。少しばかりお金や手間暇のかかることなので、不安も大きいのだけれど、オリガさんは思いきりよく承諾してくれた。判断基準としては『〈彼ら〉がお前さんを選んだのだから、私らも後押ししなくてはね。それに、あの少々変わった司祭殿がいるうちに、やっておいたほうがいいことのように思えるしね』とのことで。――いや全く仰る通りで、わりとデニスさんの理解に依るところが大きいんですよね。彼はマイペースに見えて、地味に里の人達に対する気遣いに骨を折っているから。


『――そうですね。保存に重点を置いた場合は、そのほうがいいと思います。彫刻の類は偶像破壊令に引っかかりやすいので、うまく反対派の網の目をくぐり抜けることができるかもしれません。今だモルジでも普及していませんから、あちらの動きがどうあれ、やる価値のあることだろうと思いますよ』

「ありがとうございます。おかげさまで、どうにかやる気がでてきました……」

『差し迫って問題は、この冬のうちにどれだけ入手できるかということですかね。カラノークでも普及しているとは言い難いのですが、やはり、寺院のつてが最も入手しやすいでしょうね。私が怪しまれない範囲で入手の申請をしてみますが、市場で手分けして入手するのもありだと思います』

「そうですよね……まとめて買ったほうが割安だろうと思うんですけど、そういうのってきっと目立ちますよね」

『最初は手探りでしょうから、それほど大量に必要としないでしょう――そのうち、動ける人が増えたら、また状況は変わってくるでしょうが』

 そうなったら、わたしがいなくても大丈夫かな……思わず遠い目をしてしまったわたしを、デニスさんが穏やかな眼差しで見つめていた。

『大丈夫ですよ。きっと、マイヤさんの考えていることは、他の人にも伝わりますから』

 うん……そう信じて、頑張る。


「ただいまでーす……」

『おかえりーマイヤちゃん』

 寺院での勉強、およびデニスさんに相談した後の帰宅です。最近はまた、ローシャさんが以前にも増して頻繁に出入りしているので、彼がいてもまったく驚かない。

「わ、いい匂い……」

『シチューの残りで壷焼きにしたんだ』

 ローシャさん、晩ご飯作っててくれたんだ。知ってる男性陣の中では彼がいちばん料理上手いんだよね。いや他の人のも美味しいんだけど、エーディクさんは効率重視であまりレパートリーが多くないし、デニスさんはときどきうっかりやらかすことがあるので……。専ら料理はスヴェータさんか彼に教わってる気がする。

『そうか。では、近いうちにカラノークに行くことになるか』

「ええ……でも、デニスさんも行くそうなので、家を空けるのも大変でしょうし、今回はわたしだけで行って来ようかと」

 カタン、と匙か皿のぶつかる音がして二人が沈黙した。

『いや……マイヤちゃんそれは……』

『マイヤ、今回はまた以前と違って危険な状況だ。油断しないほうがいい』

「そ……そうですかね」

『気にしなくていい。一緒に行く』

 ま、まだ独り立ち不可ですか……ちらっとローシャさんのほうに目を向けると、彼はわたしとエーディクさんの顔を交互に見比べ、なんでか溜息をついた。

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