67.突然のお誘い
『おはよーございまーす』
『まーす』
『……お早うございます、ナージャさん、レーリクくん』
「おはようございま……?」
寺子屋授業の一期生として勉強中の子供達&わたし(読み書きのレベルが同程度なのです)が、デニスさんのところに通うようになって数日。元気すぎる悪戯っ子達を取り押さえつつ、ようやく授業の形が整ってきたかというところでしたが。
『せんせ、眠そう?』
「……デニスさん、顔色悪くないですか?」
嫌な予感がしたので、本人の許可も取らずに彼の額に手のひらを押しあてた……熱っ!
「ちょ、いつからこんな感じですか?!」
『昨日の夜かもしれません……今朝よくなった気がしたのですが、またぶりかえしたんでしょうかね。少し寒気がしています』
「それは……今日の授業はお休みですね」
『わーいお休みー』
『せんせ、おかぜ? ちゃんとあったかくして暖炉の上でねるですよ』
『はい、気をつけます……』
医者の不養生だなぁもう。とりあえず子供達は帰して、わたしは念のため雑用を手伝うことにした。
「まず寝る場所を簡単に掃除しますから、それまでデニスさんは……あの、食欲はあります?」
『あるといえばありますし、別になくても構わない気がしてますが』
「……今まで何食べてたんです?」
『数日前からスープ一杯で済ませていたような気が』
「ちょっとそんなんで足りるわけないでしょー!! てことは、食べないと駄目だけど急にボリューム増やしても危険ですね……」
とりあえずスープの残りに、はやく火が通るように薄切りにした具を増して食べさせて。寝具を引きはがして寒空の下で埃を落としつつ吊り干し、寝る場所を、強いお酒をお湯で薄めたもので拭いた。
「お風呂も、入れそうだったら汗を流す程度に入ったほうがいいと思うんですが……」
『蒸し風呂の場合は危険を伴う可能性があるので、できれば遠慮したいんですが』
「じゃあお湯だけ用意しますから、身体拭いて着替えててくださいね」
その間に寝具を取り込んで暖炉の上に敷き直し暖めつつ、目につくところから掃除と消毒をしていった。外が極寒だから、たぶん病原菌の広範囲の移動はしづらいんだよね。部屋のコンディションを整えるだけでもきっと効果あると思うんだよ……。
着替え終わったデニスさんをさっさと寝かせて洗濯物を干し。最後にグレーチャという、ライ麦の次くらいに寒冷地で手に入りやすい穀物でお粥をつくることにした。これ、スープよりも時間がかかるんだよね。作ってくれる人がいるぶんにはいいけれど、ひとり暮らしだと病人が自分で作るには辛いだろうなー。
『ありがとうございます、本当に助かりました』
「どこで何をどう無理してこうなったか、心当たりはありますか?」
『実は……秋まで随分贅沢な食生活でしたので、逆にどこまで切り詰めても生きてられるか試してみたくなった、というか』
「で、スープ一杯は無謀という結果が出たわけですか……」
『うーん、以前ではこれでもいけてたんですけどね。歳の問題でしょうか、30過ぎると何とやら、と言われる』
「どっちかっていうと寒冷地での消費熱量の違いでは……え、デニスさん30過ぎですか?!」
『今年の秋で31になりました』
うわー童顔の外見詐欺だー、でも精神年齢は確かにそのくらいいってそうな気はしたんだよね……明らかにローシャさんよりは上だろうとは思ってたから。
『ところで、先程仰っていた消費熱量とやらの話ですが、もう少し詳しく聞いてもいいですか』
「あ、いや別に、寒いとこだと余計に燃料が必要という話だけなんですけど。人間の燃料は食事なわけですから」
『なるほど。マイヤさんは博識ですね、何で読み書きができないのかわからないくらいに』
「そこは……いろいろ事情がありまして」
『酒類を消毒に使うのもご存知のようですしね。基本的な医学書はお読みになっているということでしょうか、この地域の言語でない』
「んー……そういうことに、なるのかなぁ……」
『いえ、詮索したいわけではなく――ただ、マイヤさんみたいな助手がいてくださったら心強いかなあ、と思っているだけですよ』
「助手、ですか……?」
『ええ、単純な人手の話だけではなく、女性の患者ですと先方が診察や手当を躊躇われることもありますから――どうでしょうマイヤさん、ここで住み込みの助手をしてみるのは』
「はい……?」
突然何を言い出すんですか、デニスさん。




