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65.無理難題

「その……そのお二方は、わたしに一体何の用があったんでしょう」

『……おそらくは、〈変化〉を望んだのでは、と思っています。人と神々との繋がりが弱まりつつある今、それらを強く呼び起こすための』

「えー……」

 何それ、わたしにそういうのを期待してってことでしょうか? でも、なんでわたし……

『条件を重ねた結果、のようです。この世界と暦――太陽と月の影響力がほぼ変わらぬ世界で、二神の影響が強い冬至の深夜、満月の生まれの者を。できれば特定の信仰に対する思い入れが強くない心と、暑さ寒さどちらにも相応に耐えうる健康な身体。そういった適性の積み重ねのうえで、やはり二神の力が最も強くなる冬至の満月に、異界の門を開いたのでしょう』

 なるほど、それでこの白人社会にそぐわない無宗教気質の日本人の選択なんですか。

「そうですか……でも、わたしみたいにちっぽけな存在一人に、何ができるとも思えないんですけれど」

『その点に関しては……翁らは、なるべくあなたに〈力〉を集中している最中のようです。それは貴女にも、感じ取れているかと思いますが』

 ああ、冬が近づくにつれ〈力〉のほうが絶好調になりそうな気がなんとなくしてましたが、やっぱりそうなんだ。


『ですが……ここからは、あくまで私個人の判断ですが、それがいいことなのかどうか、測りかねています。それで、翁らにお願いして、猶予をいただいたのですが』

「猶予?」

『はい――私や他の一部の意向としては、なるべく過激な方法論は避けたいのですが、どうも少々翁らは強硬派よりでして』

 嫌な予感きましたよ! これまでも何度か脳裏をよぎった暗いもやのようなイメージが、ここにきてまた再現されてます。

『既に北西部、北部などは〈川の王〉らの主導で大きな動きが出ていますが、翁らは貴女を北東部の〈核〉にしようと――』

「ちょっと何ですかそれ?! まさかヴィードラの反乱未遂とかモルジとかのこと言ってます?!」

『おそらくそれで間違いないかと――ですが、北西部のように結果が思わしくないこともありますし、できればもっと慎重にいきたくて、ですね。何しろ北東部は、神々の住処としては最後の砦のようなものですから』

「……その慎重派の主張だと、わたしの扱いはどうなるんでしょう……」

『〈力〉を託すのは問題ないのですが、なるべく、穏当な手段を見いだせないものかと。それで、できればあなたの客観的な見解を参考にしたいと』

「え、えええええ、そんなとこで頼りにされちゃっても、ものすごく困るんですが……」

 ちょっと気が緩んで、脱力した。なんでそんな重要なことを余所者に任せるかなー。

『ひとまず、失礼します――これからしばらくは、なるべく私のできる範囲でご助力しようと思っています。あと、月翁の眷属の〈極光の女神〉ゾーリャと、〈明星の女神〉ズヴェズダーも私に近い考えです。彼女らの助力も受けられることでしょう』

 彼女はぺこりと一礼したかと思うと、その姿がさらさらと崩れて粉雪と化し舞い散った。

 ――なんて一方的な……でも、彼女で話が通じるほう、なんだ。やっぱり、直接〈上〉と話さなくてよかったんだろうなって思ってしまう。なんかね、とんでもなく理不尽な要求してきそうなんだもの……

『……マイヤちゃーん、無事?』

「なんとか……生きてますよー」

 雪の上にへたり込んで惚けていたわたしに、ローシャさんが近寄ってきて、屈み込みつつ声をかけられた。


 その日の晩は、ローシャさんともども話し込んだ。

『そっか、冬将軍はあると思ってたけど、月の爺様までなのか……』

『マイヤの〈力〉の波が月齢で変化していたから、あり得るとは思っていたが。満月前後が好調で新月が不調のようだったからな』

 エーディクさん、気にしてたのそこなんだ。

「それにしても、ほんと困り物ですよね。簡単に言ってくれちゃいますけど、南の信仰に対抗しろってことなんでしょうか? そんなの、わたし一人にできる話じゃないと思うのに……」

 あうううう、さっきから溜息しか出ない。

『モルジのほうと協力しろ、ってことか?』

「いや……それはたぶん強硬派の望むところじゃないですかね。でも、それってつまり……ここを戦場にする、ってことになるかもしれないわけですから」

 考えるまでもなく身震いしてしまった。この素朴な田舎の光景が、どう変わってしまうのか。

「と、とりあえず、スネグーラチカの言う穏便な解決策を模索しましょう! どうも〈力〉が強まってわたしにできることも増えてるようなので、そこから糸口を見つけることにします!」

 これ、できないと悲惨な未来が待ってる気がする!

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